第44話『恋人とのお風呂-後編-』
体と顔を洗い終わったので、千弦と場所を交代することに。
バスチェアに座る千弦の後ろに膝立ちする。なので、目の前には千弦の綺麗な背中があって。胸が大きいからか、胸もちょっと見えていて。素敵だな。昨日、肌を重ねているときに千弦の背中を見たのもありドキッとする。
さっき、千弦が後ろから俺を抱きしめた気持ちが分かる。俺も……千弦を抱きしめたい。抱きしめよう。
――ぎゅっ。
俺は後ろから千弦のことを抱きしめる。その瞬間、千弦は体をほんの少し震わせ、「あっ……」という可愛い声を漏らした。浴室だから、その声は甘美に響き渡って。
千弦の体と俺の体がピッタリとくっついて。そのことで、千弦の柔らかさや温もりがしっかりと感じられて。髪や首筋からは甘い匂いがして。とても心地いい。
千弦は俺に抱きしめられてどんな感じだろう。そう思って鏡を見ると……鏡には千弦の幸せそうな笑顔が映っている。俺と目が合うと千弦はニコッと笑う。凄く可愛いし、愛おしい。
「千弦の抱き心地……いいな。千弦はどうだ?」
「凄くいいよ。背中に洋平君の体がくっついているから、洋平君の温かさが感じられて。気持ちいいし、安心感がある」
「そっか。良かった」
「うんっ。洋平君に抱きしめられるんじゃないかなって思っていたけど、実際に抱きしめられるとドキッとして。声が漏れたり、体がピクついたりしちゃった」
「凄く可愛かったぞ」
「……照れます」
千弦は頬をほんのりと赤くして「えへへっ」と声に出して笑う。敬語で言うのを含めて可愛らしい。
――ちゅっ。
千弦の背中にキスをした。すると、千弦は「んっ」と可愛らしい声を漏らした。
「背中にキスされるのもいいね」
ふふっ、と千弦は嬉しそうに笑う。そういう反応をされるともっとキスしたくなる。ただ、これから髪と背中を洗うから我慢しておこう。
「じゃあ、そろそろ髪と背中を洗い始めるか。まずはどっちから洗う?」
「髪からお願いします。まずはラックにあるピンクのボトルに入っているシャンプーで洗ってくれるかな。その後にクリーム色のボトルに入っているコンディショナーを付けてほしいな」
「分かった。じゃあ、まずはシャンプーで洗っていくよ」
「お願いします」
「髪を濡らすから目を瞑ってね」
「はーい」
いいお返事だ。
髪を洗う直前だけど、千弦の髪は黒くて艶もある綺麗な髪だ。
鏡で千弦が目を瞑ったのを確認して、俺はシャワーで千弦の髪を濡らしていく。
「千弦の髪ってとても綺麗な黒髪だよな。それに、サラサラで柔らかいし。撫で心地がいいなって思ってるよ。好きだぞ」
「そう言ってもらえて嬉しいな」
ふふっ、と千弦は嬉しそうに笑う。
シャワーで髪を濡らし終わったので、バスラックにあるピンクのボトルからシャンプーを出して、千弦の髪を洗い始める。千弦の髪を洗うのは初めてなので優しい手つきで。
泡立ってきたことで、石鹸の爽やかな匂いがほんのりと感じられる。普段、千弦の髪からはフローラルな甘い匂いがしてくるので、おそらくその香りはコンディショナーのものなのだろう。
「千弦。髪の洗い方はどうだ? 力加減とか」
「ちょうどいい力加減だよ。手つきもいいし、凄く気持ちいいよ。今の洗い方でお願いします」
「分かった」
千弦が気持ち良く感じられる洗い方で良かった。今後もお泊まりとかで千弦の髪を洗うことがあるだろうから、今の力加減を覚えておこう。
「あぁ、気持ちいい。洋平君、髪を洗うの上手だね。小学生の頃までだけど、結菜ちゃんの髪を洗ってあげていたからかな」
「そうかもなぁ。他の人の髪を洗うのは5、6年ぶりくらいだけど、それまでは結菜の髪を何度も洗っていたし。両手が覚えていたのかも」
「ふふっ。両手が覚えているってかっこいい。能力者みたい」
「ははっ、能力者か。じゃあ、俺の使える能力はヘアウォッシュかな」
「そのままだね」
「そうだな。ただ、書くときは『髪洗い』。それで『髪洗い』」
「表記は日本語なんだ」
「何だかかっこよさそうで」
「なるほどね。確かに、その表記の方がかっこよくて、より能力って感じがするかも」
「だろう?」
あははっ、と千弦と俺は一緒に笑う。浴室だから、俺達の声は結構響いて。ただ、笑い声だからその響きが嫌だとは思わなかった。
「本当に気持ちいい。こんなに気持ちいい体験をたくさんした結菜ちゃんが羨ましいよ」
「ははっ、そうか。とても嬉しい褒め言葉だ」
気持ちいいのか、千弦はまったりとした笑顔になっている。そういえば、昔、結菜に髪を洗ったときも、結菜は今の千弦のような表情をしていたっけ。
「……千弦。そろそろ泡を洗い流すから目を瞑って」
「はーい」
千弦が目を瞑ったのを確認して、俺はシャワーのお湯で千弦の髪についているシャンプーの泡を洗い流していく。
洗い流した後、千弦の指示で、タオル掛けに掛かっている水色のタオルを使って、千弦の髪を軽く拭いた。
軽く拭いた後は、クリーム色のボトルに入っているコンディショナーを千弦の髪になじませていく。そのことで、千弦の髪からいつも香ってくる甘い香りがしてくる。
「こういう感じでいいか?」
「うん。いいよ」
「了解。あと……普段、千弦の髪から感じる甘い匂いがするな。好きだなぁ」
「嬉しい。私もこのコンディショナーの匂いが好きなの」
コンディショナーの匂いが好きだと言われたからか、千弦は弾んだ声で言った。
コンディショナーの甘い匂いを楽しみながら、千弦の髪になじませていった。
十分になじませた後、シャワーでコンディショナー洗い流す。どのくらい洗い流せばいいのか分からないので、「このくらいでいいのか」と何度か千弦に聞きながら。
「うん、このくらいでOKだよ」
と、千弦にOKをもらい、タオルで千弦の髪を丁寧に拭いていった。そのことで、千弦の髪は洗う前以上に艶やかな髪になった。
「拭き終わったよ、千弦」
「ありがとう、洋平君。ヘアゴムで纏めるからちょっと待ってて」
「分かった」
千弦はバスラックに置いてある水色のヘアゴムを使って、頭の高い位置でお団子の形で髪をまとめた。とても鮮やかな手つきで。おそらく、髪を洗ったときには毎回やっているのだろう。
今まで見たこともない髪型だし、普段は見えないうなじも見えているのでグッとくる。
「はい、お団子完成」
「可愛いな」
「ありがとう。……次は背中だね。洋平君、タオル掛けに掛かっているピンク色のボディータオルを取ってくれる? それが私が使っているものだから」
「分かった」
俺はタオル掛けからピンク色のボディータオルを取り、千弦に渡した。
千弦はボディータオルを濡らし、この家にあるピーチの香りがするボディーソープを泡立てていく。
「洋平君、背中をお願いします」
「分かった」
俺は千弦から、泡立ったボディーソープが付いたボディータオルを受け取る。
このボディータオル……俺が使っているボディータオルよりも柔らかい手触りだ。昔、結菜の背中を洗ったときに使ったボディータオルがこういう感じだったな。千弦の肌が白くて綺麗な理由の一つはこれかもしれない。
千弦の背中を洗い始める。千弦の肌をいためないように優しく丁寧に。
「千弦。どうだ?」
「気持ちいいよ。ただ、もうちょっと強くても大丈夫だよ」
「そうか」
力が弱すぎたか。もうちょっと強くしよう。
「このくらいか?」
「うんっ、もっと気持ち良くなったよ! このくらいでお願いします」
「分かった。この強さで洗っていくよ」
背中を流す力加減も覚えておこう。
「あぁ、本当に気持ちいい。髪と同じで、これまでに背中をたくさん洗ってもらった結菜ちゃんが羨ましいよぉ……」
髪を洗ったときと同じく、千弦はまったりとした笑顔になっている。千弦に気持ち良さをもたらすことができて、彼氏として何よりだ。
「気に入ってくれて嬉しいよ。これからも、髪とか背中を洗ってほしかったら遠慮なく言ってくれよ」
「うんっ。洋平君もね」
「分かった」
千弦に髪と背中を洗ってもらうのは気持ちいいから、これから何度も頼むと思う。あと、お泊まり中のお風呂では髪と背中を洗いっこするのは恒例になるかもしれない。
それからも、千弦の背中を洗っていった。気持ちいいからか、千弦は可愛い声で何度も「気持ちいい」と言っていた。
「千弦。背中を洗い終わったよ」
「ありがとう、洋平君。洋平君はもう洗い終わってるから、先にお風呂に入っていいよ」
「分かった。じゃあ、お言葉に甘えて、昨日に続いて一番風呂をいただきます」
「うんっ」
その後、俺は千弦にボディータオルを渡し、両手に付いたボディーソープの泡を洗い流して湯船に浸かる。
「あぁ、気持ちいい……」
お風呂のお湯の温もりがとても気持ちいい。夏だけど、朝なのであまり暑くないから、この温かさがいいなって思える。
あと、昨日の夜に入浴したときよりも、腰周辺に温もりが沁みている感じがする。きっと、千弦と肌を重ねたときにたくさん動かしたからだろうな。気持ちいいし、千弦の反応が可愛いから激しく動かしたときもあったし。気付かない間に疲労が溜まっていたのかも。ただ、この沁みる感じもいいなって思う。
「ふふっ、本当に気持ち良さそうだね」
千弦は俺の方を見ながら体を洗っている。ボディーソープの泡で隠れている部分もあるけど、体を洗う姿はとても艶っぽい。
「温かくて気持ちいいよ」
「そっか。今の洋平君を見たら、早く入りたくなってきた」
「ははっ、そっか。湯船で待ってるぞ」
「うんっ」
それから、千弦が体と顔を洗い終わるまでは、昨日の誕生日パーティーや夜のことを話しながら一人で湯船に浸かった。
「よし、これで顔も洗い終わった。私も入るね」
「ああ」
千弦が入るので、それまで伸ばしていた脚を折って、体育座りのような体勢に。
千弦は湯船に入り、俺と向かい合う形で浸かった。その際、俺のつま先に何かが当たる感覚が。おそらく、千弦の足が当たっているのだろう。
「あぁ、気持ちいい……」
千弦はとてもまったりとした笑顔でそう言う。俺と目が合うとニコッと笑いかけてきて。千弦の笑顔は可愛いけど、胸のあたりまでお湯に浸かっているのもあって、大人っぽさや色気が感じられて。
「温かくて気持ちいいね」
「ああ。夏だけど、朝だから温かいのがいいよな」
「うんっ。あと……お湯の温もりが腰のあたりに沁みてる」
「千弦もか。実は俺も」
「そうなんだ。……きっと、昨日の夜にえっちしたのが理由だろうね。洋平君も私もいっぱい腰を動かしたし。特に洋平君は。たまに激しいときもあったし」
「気持ちいいし、千弦の反応が可愛かったからな。たまに激しくなった」
「ふふっ。まあ……私もえっちが気持ち良くて、洋平君の気持ち良さそうな顔を見ていたら……たまに激しくなっちゃった」
「そっか」
昨日の夜のことを思い出しているのだろうか。千弦は依然として笑顔だけど、頬を中心に顔が赤くなっていた。俺も頬を中心に顔が熱いから、千弦と同じようになっているんだろうな。
千弦も腰に温もりが沁みているのか。それを知ると、この感覚はよりいいなって思える。
「ねえ、洋平君」
「うん?」
「……そっちに行って、洋平君を抱きしめてもいい? さっき、お互いに背中から抱きしめたから、今度は向かい合って抱きしめたくて」
千弦は俺のことを見つめながらそんなお願いをしてくる。
「もちろんいいよ。おいで」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうにお礼を言った。
千弦を抱きしめやすくするために、両手を広げる。
千弦は俺に近づき、俺の脚を跨ぐ形で座って俺を抱きしめてきた。そのことで体の前面は千弦と密着する形になって。千弦の柔らかさとともに温もりが伝わってきて。お湯の温もりも気持ちいいけど、千弦の温もりはもっと気持ちいい。そう思いながら、両手を千弦の背中に回した。
「洋平君に触れて、抱きしめ合っているから、本当に気持ちいいよ」
「俺も気持ちいいよ、千弦」
「良かった。あと、裸で抱きしめ合っているから、昨日のえっちを思い出しちゃう」
「こういう体勢になるときもあったもんな」
「うんっ。……洋平君と一緒にお風呂に入れて、こうして抱きしめ合えて本当に幸せだよ」
千弦は言葉通りの幸せな笑顔を見せてくれる。至近距離からの笑顔なのもあってドキッとして。ただ、今の言葉もあって幸せな気持ちになって。体の内側からも凄く温かくなって。ただ、暑苦しさは全くない。
「俺もこうしていられて幸せだよ」
「良かった。……キスしていい?」
「ああ」
「ありがとう」
お礼を言うと、千弦は俺にキスしてきた。
入浴中なのもあり、いつもよりも千弦の唇は熱くて、湿っぽくて。ただ、それがとても心地良くて。
「んっ……」
千弦の方から舌を絡ませてきた。今の状況が幸せだからなのか、結構激しめに。千弦の舌もこれまでに比べて温もりが強い。それもあってとても気持ち良くて。俺からも舌を絡ませると、もっと気持ち良くなって。舌を絡ませる音が浴室に響き渡るのもあり、かなり興奮した。
少しして千弦の方から唇を離す。すると、目の前には千弦の恍惚とした笑顔があって。唇が唾液で濡れているのもあり、物凄く艶っぽく感じられた。
「お風呂の中で抱きしめ合ってキスするのが幸せだから、激しく舌を絡ませちゃった」
「そうか。今日は激しいなって思ったよ。でも、気持ち良かった」
「私もっ。……気持ちいいから、少しの間抱きしめたままでいい?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
それから少しの間、俺達は抱きしめ合って入浴した。
その後は俺が千弦を後ろから抱きしめる形でも入浴して。その際は千弦の胸を後ろから軽く揉むこともして。
「んっ。……洋平君は本当に胸が好きだね」
「ああ。千弦の胸が好きだし、揉みやすい体勢だし。あと、柔らかい揉み心地でいいなって思ってる」
「ふふっ、正直だね。嬉しいです。……私も洋平君に胸を揉まれるの気持ち良くて好きだよ」
「そうか。良かった」
こういうスキンシップをするのも、千弦と一緒にお風呂に入ったときの恒例の一つになるかもしれない。
入浴している間は昨日の誕生日パーティーやお泊まりのことなどを話して。千弦との初めてのお風呂はとても気持ち良くて楽しい時間になった。