第41話『誕生日の夜は初めての夜-後編-』
お風呂にゆっくりと浸かった後、寝間着姿になって2階にある千弦の部屋に戻る。
部屋に入ると、千弦はベッドを背もたれにしながらクッションに座り、吉岡さんから誕生日プレゼントでもらった猫のぬいぐるみを抱きながらスマホをいじっていた。あと、ベッドに枕が2つ置いてあるのが見える。
「ただいま、千弦。一番風呂いただきました」
「おかえり、洋平君。湯加減どうだった?」
「ちょうど良かった。温かくて気持ち良かったよ」
「良かった。あと、寝間着姿を直接見るのはお見舞い以来だけど……いいね。似合ってる」
「ありがとう」
これまでに何回も着ている寝間着なので、似合っていると言ってもらえて良かった。
「写真撮ってもいい?」
「いいぞ」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうな様子でクッションから立ち上がって、スマホで寝間着姿の俺の写真を何枚か撮影した。
「いい写真が撮れたよ。ありがとう!」
「いえいえ」
「あと……洋平君。今夜は私のベッドで洋平君と一緒に寝たいなって思ってて。それで、枕を客間から持ってきたの。セミダブルだから寝られないことはないと思うんだけど……どうかな?」
千弦は上目遣いで俺のことを見てくる。頬をほんのりと赤く染めているのもあってとても可愛らしい。
ベッドに枕が2つあるのは、やっぱり俺と一緒にベッドで寝たいからなんだな。
千弦のベッドで千弦と一緒に寝る。とても魅力的だ。
「ああ、いいぞ。千弦のベッドで一緒に寝よう」
「ありがとう!」
千弦は嬉しそうにお礼を言った。
今夜は千弦のベッドで千弦と一緒に寝るのか。ドキドキしてあまり眠れないかも。それとも、気持ち良くていつも以上によく眠れたりして。
「洋平君が出たし、私もお風呂に入ろうかな」
「ああ」
「洋平君。髪を乾かすときにこのドライヤーを使っていいよ」
そう言い、千弦はローテーブルに置いてある水色のドライヤーを手に取る。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
「うん。あと、待っている間に本棚にある本を読んでもいいからね」
「ありがとう」
その後、千弦は俺にドライヤーの使い方を教えた後、着替えやタオルを持って部屋を後にした。
俺は千弦のドライヤーを使って髪を乾かしていく。結構使いやすいな、これ。
髪を乾かし終わったので、俺は本棚に向かう。
この本棚には面白い漫画やラノベや小説などたくさん入っている。その中から、先日のお家デートのときに観たラブコメアニメの原作漫画の第1巻を取り出した。
ベッドにもたれかかる形でクッションに座り、漫画を読み始める。
「あははっ」
この前観たアニメも面白いけど、原作漫画も面白いな。コメディ部分も面白いので何度も声に出して笑ってしまう。
ページをどんどんめくっていき……3分の2ほど読んだときだった。
「あぁ、気持ち良かった。ただいま」
千弦がお風呂から戻ってきた。
千弦は半袖の桃色の寝間着姿になっている。可愛いな。あと、お風呂上がりなのもあり、髪が少し湿っており、シャンプーやボディーソープの甘い香りがしてきて。肌の血色もいいのもあり、艶っぽさも感じられてドキッとする。
あと、千弦も俺も寝間着姿だから、今はお泊まり中なのだと実感する。
「おかえり、千弦。千弦も寝間着姿似合ってるぞ」
「ありがとう、洋平君。嬉しい」
えへへっ、と千弦は声に出して嬉しそうに笑う。
「俺も寝間着姿の写真を撮っていいか? お互いに寝間着姿だから、一緒の自撮り写真も」
「うん、いいよ! ツーショット写真は送ってほしいな」
「分かったよ。ありがとう」
俺はスマホで寝間着姿の千弦の写真と、俺とのツーショットの自撮り写真を撮影した。自撮り写真を撮影するときは身を寄せ合ったので、千弦から香る甘い匂いが濃くなって。そのことにドキドキした。
約束通り、ツーショット写真はLIMEで千弦のスマホに送信した。千弦は自分のスマホでさっそく確認する。
「いい写真だね。ありがとう」
「いえいえ」
「さてと、スキンケアしたり、髪を乾かしたり、ストレッチしたり……毎日お風呂上がりにやっていることをやっちゃうね」
「ああ、分かった」
その後、千弦は俺と誕生日パーティーのことや俺が読んでいた漫画のことで雑談しながら、スキンケアをして、ドライヤーで髪を乾かして、ストレッチをした。
千弦は毎日これらのことをお風呂上がりにやっているんだな。この習慣が、千弦の肌が綺麗だったり、髪が柔らかくてサラサラだったり、スタイルが良かったりする理由の一つなのだろう。
「よし、これでストレッチも終わった」
「お疲れ様。これがいつもお風呂上がりにやっていることなんだな」
「うん。今日は洋平君とお話ししながらやったけど、いつもはアニメとかドラマを観ながらやっているから結構楽しんでやってるよ」
「そうなんだな。……千弦のいつもやっていることは終わったし……これから何をしようか」
「そうだね。何、しようかな……」
千弦はそう言うと、頬をほんのりと赤くして俺のことをチラチラと見てくる。俺との初めてのお泊まりだからドキドキしているのかもしれない。
俺は……ドキドキしている。千弦の家での初めてのお泊まりで、お互いにお風呂に入って寝間着姿になって。千弦の部屋でこうして千弦と2人きりになっているから。それに、お泊まりが決まった日から、お泊まりのときは千弦との仲を深めたいとも思っているし。千弦も同じことを考えているかもしれない。
「……アニメを観たいな。この後10時半から、洋平君も私も楽しみにしている今日からスタートの日常系アニメがあるから。リアルタイムで観たいな」
赤い顔に笑みを浮かべながらそう言う千弦。
リアルタイムで一緒にアニメを観るのか。それは魅力的だ。俺達が一緒に観るアニメの多くが夜に放送するから、リアルタイムで一緒に観られるのはお泊まりのときくらいだし。千弦はそういうことも考えてアニメを観たいと言ったのかもしれない。あとは、今の時刻が午後10時15分なので、放送開始までもう少しなのもあるかも。
「リアルタイムでアニメ観るのいいな。いつもは録画したものを観るし。お泊まりだからこそできることだもんな」
「うんっ。じゃあ、一緒にアニメを観よう!」
その後、放送開始までの間に、千弦が冷たい麦茶を用意してくれた。麦茶を飲んで雑談しながら放送を開始するのを待つ。
そして、午後10時半になり、楽しみにしている日常系アニメがスタートした。
このアニメは4コマ漫画が原作で、千弦も俺も持っている。それもあり、キャラクターやシーンのことを中心に千弦と話しながら観ていった。
千弦と一緒にアニメを観るのはこれまでに何度もしてきたことで。アニメはもちろんのこと、千弦と話が盛り上がったのもあってとても楽しくて。それもあり、さっき抱いていたドキドキは収まっていった。
「面白いから、あっという間に終わったね」
「そうだな。原作も面白いけど、アニメになっても面白いな」
「うんっ。来週以降も楽しみだよ」
アニメがとても楽しかったので、千弦はとても満足した様子だ。
「あと、リアルタイムで観るのもいいね」
「そうだな。今日みたいに、楽しみなアニメが放送される日にお泊まりするときの恒例にしようか」
「うんっ」
千弦はニコッとした笑顔で頷いてくれた。
「この後もアニメを観るか?」
俺は千弦にそう問いかける。
すると、千弦の顔が段々と赤くなっていく。それまでは俺を見つめていたけど、視線がちらつくようになって。
「アニメを観ることでも、他のことでもいいよ。千弦のしたいことをしたいな。千弦の誕生日はまだ終わっていないし。千弦にとって、17歳の誕生日がもっといい日にできたら嬉しいから」
千弦の誕生日も残り1時間ほど。千弦がいいなって思う中で誕生日を締めくくりたい。
少しの間、静寂の時間が流れた後、千弦は再び俺に視線を向け、
「洋平君と……したいな。キスよりも先のことを洋平君としたい。えっちしたい」
真っ赤になった顔で千弦はそう言ってきた。
えっちしたい……そのシンプルでストレートな言葉に物凄くドキッとして、一瞬にして全身が熱くなっていくのが分かった。きっと、千弦のように俺の顔も真っ赤になっているんだろうな。
「そうか。したい……か」
俺がそう言うと、千弦は「うん」と頷く。
「付き合い始めた直後から、キスより先のこと……えっちすることには興味あって。1ヶ月前、パーティーとお泊まりを誘ったときには、このお泊まりのときにえっちできたら嬉しいなって思ってたんだ。それ以降も洋平君と一緒に過ごす中で、えっちしたい気持ちが膨らんで。特に、プールデートのために水着を買ったときやプールデートのときは。ナンパから助けてもらった後に抱きしめ合ってキスしたのがきっかけで、お泊まりのときはえっちしようって決めたの。そのために、一人で学校から帰る途中で、うちの近くにあるドラッグストアで洋平君に付けてもらう避妊具を買ったの」
千弦は俺を見つめながら、赤面した顔でそう言った。
「そうだったのか。俺も同じような感じだな。付き合い始めた直後からキスをよくするから、その頃から千弦と恋人との仲を進めたい気持ちがあって。お泊まりすることが決まったときは、お泊まりのときに千弦との仲を深めたいとも思ったし。水着を買ったときやプールデートのときに千弦の水着姿を見たときはドキッとしたし、ナンパから助けた後に抱きしめ合ってキスしたときは……ムラムラした。だから、俺も……今日のために、バイト帰りにドラッグストアで俺が付ける避妊具を買ったよ」
「そうだったんだ。洋平君も私とえっちしたくて、そのために準備してくれていたんだね」
「ああ。俺も……千弦とえっちしたい」
千弦の目を見ながら俺はストレートに言う。
えっちしたいって言ったから、さっき以上にドキドキして。ドクンドクンと激しく心臓が鼓動する。体が物凄く熱い。さっき、千弦が俺にえっちしたいと言ったときもこのような感じだったのかな。
「そう言ってくれて嬉しい!」
千弦は嬉しそうな笑顔でそう言うと、俺のことをぎゅっと抱きしめて俺にキスしてきた。
千弦の唇からも、そして体からも千弦の熱が強く伝わってきて。俺の体はこんなに熱いのに、千弦から伝わる強い温もりはとても心地良くて。
少しして千弦は俺の唇から唇を離すと、
――ちゅっ。
「あっ」
俺のデコルテにキスしてきた。予想外だったから思わず声が漏れてしまった。体もピクッと震えたし。
「これからえっちするから……体にもキスしたくなっちゃった」
「そうか。予想外だったから、ちょっとビックリした」
「そうだったんだ。体がピクッと震えて、声が漏れたの可愛かったよ」
ふふっ、と千弦は可愛い笑顔でそう言ってくれる。体の震えや声が漏れたことを指摘されたけど、可愛い笑顔で言ってくれるから恥ずかしさはない。
ただ、やられたことはちゃんとやり返さないとな。それに、俺も千弦の体に触れたいから。
――ちゅっ。
「んっ」
千弦の寝間着から覗く綺麗なデコルテにキスをした。その瞬間、千弦は甘い声を漏らして、体をピクッと震わせて。可愛いな。
唇ほどではないけど、デコルテ部分の肌も柔らかさがあって。ボディーソープのピーチの甘い香りもしてきて。凄くいいな。
千弦の顔を見ると、千弦ははにかんで俺を見ていた。
「お返しでキスした。千弦こそ可愛い反応をしたな」
「は、初めてだったからね。お返しでされちゃうかもって思っていたけど」
「ははっ、そっか。……デコルテにキスしたらもっと興奮してきた」
「ふふっ。じゃあ、もっともっと興奮もらおうかな」
そう言うと、千弦は寝間着を脱いでいき……水色の下着姿になる。下着が似合っているのはもちろん、白くて綺麗な肌や大きな胸の谷間が露わになってもっともっと興奮する。
「どうかな? プールデートの水着は水色を選んでもらったから、水色の下着を着けたの。洋平君にいいなって思ってもらえるかなって」
「そうだったのか。本当によく似合ってるよ。もっともっと興奮させられてる」
「良かった」
千弦はとても嬉しそうな笑顔になる。正直に感想や気持ちを言って良かった。
「洋平君。そろそろえっちしようか。凄く興奮してきたし。それに、今は11時を過ぎているし、お母さんもお父さんもパーティーでお酒を呑んだから、2人はたぶん寝ていて、部屋に来てえっちを見られることはないだろうから」
「そうか。……じゃあ、しようか」
「うんっ。……ちなみに、洋平君はえっちするのは初めて?」
「ああ、初めてだ」
「そうなんだ。じゃあ、洋平君の初めてをもらえるんだね。嬉しいな」
えへへっ、と千弦は嬉しそうに笑う。千弦の嬉しそうな笑顔はこれまでに何度も見たことがあるけど、今は下着姿なのでこの笑顔に興奮させられる。
「ああ。千弦に初めてをプレゼントするよ。千弦はどうだ?」
「私も……初めてです。だから、私も洋平君に初めてをプレゼントするね」
「ああ。嬉しいよ。初めてだけど、千弦が気持ち良くなれるように頑張るよ」
「私も頑張る! 一緒に気持ち良くなろうね」
そう言い、千弦は再び俺のことを抱きしめてキスしてきた。
それからは、主にベッドの中で千弦と肌を重ねた。
一糸纏わぬ千弦の姿はとても綺麗で。ただ、俺が体に触れることで甘い声をたくさん漏らす千弦はとても可愛くて。千弦と肌を重ねるのは気持ち良くて。そういったことに本能が刺激され、千弦のことをどんどん求めていく。
千弦がリードをするときもあり、そのときは千弦は積極的に体を動かして。時には激しいときもあって。千弦が俺を求めているのだと実感できて嬉しい。
また、お互いに「好き」とか「気持ちいい」といった言葉をたくさん言ったり、唇を中心に体にたくさんキスしたりした。そういったとき、千弦は笑顔を見せてくれて。
肌を重ねる中で、どんどん幸せな気持ちになっていった。
「凄く気持ち良かったね、洋平君」
「そうだな、千弦。凄く気持ち良かったから、何度もしたな」
「そうだねっ」
何度も肌を重ねた後、俺と千弦はベッドの上で身を寄せ合う。もちろん、今もお互いに何も着ていない状態で。ただ、千弦が俺の左腕を抱きしめて脚も絡ませているし、掛け布団も胸のあたりまで掛かっているので寒く感じない。むしろ温かくて気持ちがいいくらいだ。
今は部屋の照明を消して、ベッドライトを点けた状態だ。ベッドライトの暖色の灯りに照らされる千弦がとても綺麗だ。
「私達、体の相性もいいね」
「そうだな。本当に気持ち良かったから」
「そうだね。これからも、お泊まりのときとかにえっちしようね」
「ああ、しような」
「うんっ。……洋平君と初めてえっちできて、洋平君の初めてをもらえて。みんなから素敵なプレゼントをたくさんもらったけど、これが一番のプレゼントかも。日付を跨いでえっちしたから、最高の形で誕生日を締めくくれたよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう。俺も千弦と初めてえっちして、千弦の初めてをもらえて嬉しいよ」
「ありがとう」
えへへっ、と千弦は可愛らしく笑う。
「洋平君とお泊まりして、えっちもできたから……17歳の誕生日はより最高で忘れられない誕生日になったよ。ありがとう、洋平君!」
千弦は満面の笑顔でそう言ってくれる。だから、今の言葉が本心からのものであることが分かって。胸が温かくなっていく。
「いえいえ。最高だと思える誕生日になって嬉しいよ。改めて、17歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「来年も再来年もそれ以降もずっと……毎年、千弦の誕生日を祝わせてほしい」
「うんっ! 嬉しいし、幸せだよ。ありがとう。私もこれからずっと、毎年、洋平君の誕生日を祝わせてね」
「ありがとう。まずは今年の誕生日を楽しみしてる」
「うんっ!」
千弦はニコッとした笑顔で首肯してくれる。9月6日に迎える17歳の誕生日が今から待ち遠しいよ。
「ふああっ……」
千弦が大きめのあくびをする。可愛いな。あと、千弦があくびをする姿は全然見たことがないから新鮮だ。
「あくび出ちゃった。洋平君と一緒にいっぱい体を動かしたからかな。眠くなってきちゃった」
「俺も眠くなってきたな。体を動かしたし、千弦のベッドに一緒に入っているし……ふああっ」
強い眠気が襲ってきて、俺もあくびしてしまう。
「ふふっ。あくびってうつることあるよね。じゃあ、そろそろ寝よっか」
「ああ、そうしよう。ベッドライトのスイッチは俺の近くにあるから俺が消すよ」
「ありがとう。あと……このまま腕を抱きしめて寝てもいい? 抱き心地いいし。それに、普段はぬいぐるみを抱いて寝ることが多いし。洋平君にゲットしてもらった猫とかペンギンのぬいぐるみをね」
「そうか。このまま抱きしめて寝ていいぞ」
「ありがとう! じゃあ……おやすみのキスをしてくれますか?」
「分かった」
俺がそう言うと、千弦はそっと目を瞑る。
キス待ちの顔も可愛いなと思いながら、俺は千弦におやすみのキスをする。
肌を重ねる中で数え切れないほどにキスをしたけど、キスは何度してもいいな。幸せな気持ちになれる。
少しして唇を離すと、千弦はニッコリとした笑顔を見せてくれる。
「ありがとう。おやすみ、洋平君」
「おやすみ、千弦」
おやすみの挨拶を交わすと、千弦は俺の左腕を抱きしめる力を少し強くして、そっと目を瞑った。
大きめのあくびをしただけあってか、千弦はすぐに可愛らしい寝息を立て始める。さっそく眠りに落ちたのだろうか。あと、千弦は寝顔も可愛らしい。
「おやすみ、千弦」
千弦の肩の近くまで掛け布団を掛けて、ベッドライトを消す。
千弦のベッドがふかふかであることや、千弦の温もりや柔らかさや甘い匂いが感じられる心地よさ。ついさっきまで千弦と一緒に体を動かしていたことの疲れもあって、目を瞑ってから程なくして眠りに落ちていった。