三日月墜としのヴェアヴォルフ
「一匹狼、なんて言葉があるが、実際の狼はとても情の深い生き物だそうでね。番の片方が亡くなると、遺された方は新しい番を作らず、一生独り身で過ごすそうだ。あはっ、だから一匹狼と言うのかね?」
きらびやかな金髪のその男は、自身の背よりも長い大鎌を担いで笑った。
「さて、キミはどうかな?」
降り下ろされた鎌の刃は、一瞬で彼の首を切り落とした。
銀の銃弾を撃ち込まれ、銀の鎖で縛られたこの身体は、指一本すら伸ばす事が出来無い。
歯を食い縛り、目を見開き、涙に歪む視界に彼の最期を刻み付ける事しか、出来無かった。
「あはぁ……いいね! それをキミの罰としよう! 愛する者を失って、そして一人で生き続けるがいいっ!」
「わたし、達が、なんの罪を……っ!」
「決まっているじゃないか」
男の顔から笑顔が消える。
いや、笑ってはいる。
冷たく引き吊った頬だけが、三日月のような笑みの形で、
「この世に生まれ落ちた事が、貴様らの罪だ」
夜の森を駆けながら、神崎千里はなにも怖くなかった。
前は暗闇。後ろは黒服。走る手足を枝葉が傷付け、迫る男達からは口汚い怒声。
木の根に足を取られ転倒し、黒服達が少年の身体に覆い被さっても、千里に恐怖は無かった。
「手間取らせやがって。こいつぁお仕置きが必要だなぁ!?」
男の手が振り上げられ、
その手がスパン、と切り落とされる。
悲鳴。血飛沫。
地面に転がる千里にはそれが見えた。
獣のように疾走する、夜の闇より暗く、そして艶やかな黒。それが瞬く間に黒服達を切り刻んでいく。
悲鳴は止み、血も全て流れ落ち、千里の前には女が立っていた。その手に自身の背よりも長い大鎌を下げ、指先がその柄をなぞる。
「貴方はなぜ笑っているの?」
女の問いに、千里は無邪気に笑みを深め、
「だって、ずっとキミが守ってくれていたでしょう? 今日も、それ以外だって。だからなんにも怖く無かったよ」
きらびやかな金髪を夜風になびかせ、まん丸なほっぺを上げて三日月のように笑う。
「僕は千里。神崎千里。キミは?」
「……そうね」
女は軽々と大鎌を肩に担ぐと、
「ヴェアヴォルフ。いつか三日月を墜とす、ヴェアヴォルフよ」
夜空に浮かぶ三日月を背に、女は牙を剥くように笑った。
性別逆でも良かったかな。
よくわかんない話ですが、ヴェアさんは代々人狼殺しの一族である神崎家を度々アレしていて、大鎌も何代か前に奪い取った物です。
アレな当主はヴェアさんにアレされるので、最近の神崎家は大分イイモンという設定。黒服はライバル家の手先ですかね。