日常
美容室でエロディーはクレアと隣り合わせになる。
「ねえ、エロディー。」
「何?」
クレアはエロディーに声をかけた。
「猫って恋愛するの?」
「それを聞いてどうしたいわけ?満足するような答えを待ってるわけ?」
「深い意味は無いわ。ただ聞きたかっただけ。猫は恋愛なんてせず、性欲しかないのかしら?」
「恋愛なんてしないと思うわ。食欲と性欲のままに生きてると思うわ。飼われてるのには性欲がないかもね。オスを見る機会もメスも見る機会もそうそう無いから。うちのムスタシュも性欲がないと思うわ。」
彼女達は私の知らない間で官能的な話をしていた。私の名前まで出す。
「そうか。この前、うちの猫のゾエがムスタシュに向けてたのは欲なのね。」
「ムスタシュは興味なさそうな感じだったわ。そう言う所が好きだけどね。冷めてて、ドライな感じが。」
確かに時には私は冷めてる時がある。
「猫が恋愛するわけないわ。」
美容院の店員が不機嫌そうに言った。
「お姉さん、この人昨日彼氏にふられて不機嫌なのよ。」
「もうあんな男なんてどうでも良いのよ。」
他の店員は少しからかいつつ、慰めた。
「また今度パーティーでも開くから、来ないかしら?今度はどんな男を連れて行くつもり?」
「連れて行くような男はいないわ。」
「この前、紹介した人はどうだった。」
「私のタイプではないわ。」
「結構優しくて好青年よ。」
「これ以上興味を持つことはないわ。」
「そう、せっかく紹介したのに残念ね。まあエロディーの選ぶ人って癖があるから、くせ者好きなエロディーとは釣り合わなそうね。」
「どういう意味?」
「皮肉っても何でもないわ。怒ってるわけ?」
「そう見える?」
「そう見えるわ。」
「怒ってなんていないわ。」
クレアも彼女がわざと男運がないフリをしてるのを分かっていない。
「クレア、今度のパーティー私を招待して。」
「もちろんよ。猫も連れて行く?」
「そうするわ。」
「今度はちゃんと遊び場も用意するわ。」
「その方が良いわ。」
「来週の金曜日にするけど、来れそう?」
「もちろんよ。その日は用事ないから。独身だから。」
「色んな人を紹介するから、もしかしたら良い男と出会えるかもね。」
「それなら期待してるわ。」
彼女達の髪は整った。二人はお金を払って、美容院を出た。
「少し目がチカチカするわ。」
「私は少し肌がチクチクするわ。まさに美容院から抜け出した後って感じね。」
「またカフェに行く?」
「そのまま食事に行こう。」
彼女はオペラ・ガルニエの近くにあるレストランで食事をした。
「このピノ・ノワールのワインでお願いします。」
食事と一緒にワインを頼んだ。
「あれからマルセルから連絡はあるの?」
「連絡なんてないよ。望んでもないわ。私は過去の男なんてどうでも良いのよ。どんな惨めな姿になっても。」
残酷だけど、人ってそんなもんだ。
「結構ドライなのね。自然消滅ならしばらく気になって仕方ないけどね。」
彼女はオムレツを口に入れた。口の中でとろけるような食感だった。
「ジュリー、君とはもう付き合えない!こんなにメール送ってるのにちゃんと答えてくれないなんて。僕にも感情があるんだよ。」
「ピエール、忙しかったのよ!」
隣の席のカップルが喧嘩していた。よく響く声で。
「他の男と仲良く話してだろ!もう、良い。君の分は払うから僕に関わらないでくれ。」
「ピエール!誤解よ!待って!行かないで!ピエール!」
大きな声で叫んだ。
「落ち着いてください。」
女性はウェイターにおさえられた。
「あら、修羅場を見たわ。」
エロディーは女性にハンカチを渡した。
「これで吹いてください。次がありますから。」
「ピエールと結婚前提のお付き合いだったのよ。」
「それなら、良かったのでは。相性が悪かっただけですよ。」
そう言って彼女はもとの席に戻った。
女性はお金を払い、レストランを出た。
「すごかったわね。最近、色んな人の失恋話を聞くわ。エロディーだけじゃないのよ。」
「そう。あれはただの自然消滅よ。」
隣の席にゲイのカップルが座った。
「クロード、付き合って今日は1周年だな。」
「そうか。もうジャックと付き合ってそれくらいか。」
エロディーは無言で無心だった。
「ムスタシュ。」
私の名前をボソッと言った。
「エロディー!」
「何?」
「考え事でもしてたの?」
「心を無にしてたのよ。」
再び、音が消えて彼女の視界には私しかいなかった。もちろんこれは彼女の妄想。
「もうレストラン出よう。」
二人はレストランを出た。
「これからまたどこか行く?」
「クラブで踊ろう。」
二人はクラブで踊った。二人はダンスを楽しんだ。私は行くことが出来ないところだ。
「君、時間ある?」
「これからこの子と帰るので。」
男性は残念そうな表情をした。
「金曜日の夜7時にパーティー開くから来てね。」
「分かったわ。」
エロディーとクレアはタクシーで帰った。彼女が家に着くと、私はすぐに彼女のもとに寄った。待ち遠しかった。彼女の足は冷たかった。足によりかかり温めた。彼女は歯を磨いて寝た。
次の日、またシャワーを浴びて朝食を食べた。マルセルといた時のように完全ヴィーガン食ではなくなった。もとの生活をやっと取り戻したようなものだった。私のキャットフードも捨てられることはなくなった。
彼女は仕事に行き、ドアが閉まる。また彼女の帰りを待つ日々だった。
昼休みになると彼女は道端で寝ているホームレスの男性と犬を見た。彼女が近づくと犬がすごい勢いで吠えた。
「ちょっと私は敵なんかじゃないよ。落ち着いて。」
エロディーはホームレスの男性に食料をあげた。
「ありがとう。」
犬にもドッグフードを与えようとした。犬は彼女が敵じゃないと分かり、落ち着いた。
小学生くらいの子供がホームレスと犬に悪ふざけでボールを当てる。犬はまた吠える。
「何してるの!」
エロディーは小学生達に怒った。すぐに親たちが駆けつけた。
「あんた達、何やってるの!そんなことやって面白いの?すぐに家に帰るよ。」
「好きで皆、あんな生活してるわけじゃないの。ワンちゃんもイジメないで!」
「面白かったのに。」
「馬鹿!もう行くわよ。」
子供達は親に怒られていなくなった。
「大丈夫ですか?」
「昔よりこういうのは少なくなったほうだよ。平気さ。」
「ずっとこんな生活を?」
男性は無言だった。
「犬まで一緒に受け入れてくれる施設なんて無いんだ。だからこうやって、この生活をするしかない。居場所は路上しか無いんだ。施設に連れてくと相棒と引き離される。仲間を見捨てることは出来ない。」
男性は悲しそうな表情だった。犬が男性を見て、駆け寄った。
「冬は寒いので、気をつけてください。」
エロディーはそう行って、男性と犬のもとを離れた。
彼女は家で昼ご飯を作り、食べた。外で犬を散歩させる女性を見ながら食べた。少量のワインを口の中に入れる。食後は薬を飲んで、出かけた。
金曜日、仕事が終わり彼女はドレスを選んでいた。
「こっちのほうが良いかしら?」
鏡を見ながら確認した。
「ムスタシュはこれを着てもらうわ。」
彼女の選ぶ服はセンスがあった。再び私と鏡をチェックした。
「これで完璧ね。ムスタシュ行くよ。」
お気に入りのヒールを履いて、私と出かけた。タクシーが目の前に止まっていたので、彼女はタクシーに乗る。
「この住所までお願いします。」
運転手は無言だった。気がつくとクレアの家に到着した。
「お名前は?」
「エロディー・ロバンです。」
また彼女の自宅でパーティーすることになった。
「クレア!」
「エロディーとムスタシュ!」
二人はビズをした。
「ムスタシュはこっちよ。」
私は遊べる所に移動させられた。
「ムスタシュ。しばらくしたら来るわ。」
遠目で彼女のことを見つめた。
「何で来たの?」
「タクシーよ。猫を連れて、公共機関には乗りにくいわ。タクシーのほうが安全よ。」
「そうか。無事ついて良かったわ。乾杯。」
「乾杯。」
彼女達はシャンパンを飲んだ。その様子を私はずっと見た。