同居
「ムスタシュ、愛してる。」
「エロディー。決して離さない。」
私はエロディーのことをしっかりと抱く。そしてキスをした。この上なく幸せだった。ひまわり畑の中だった。
「ムスタシュ。」
またキスをして、目を開けると、エロディーがいなくなっていた。
大きな音がなり吸い込まれていく。
目が覚めると夢だと気がつく。私は夢の中で人間になっていた。この夢がずっと続けば良かったのに。
私は掃除機に追いかけられた。部屋中に響いた。エロディーはその様子を見て笑っていた。
「ムスタシュ。これで吸い込んだりしないわ。」
私は遠くまで逃げた。
「おはよう。」
エロディーとマルセルはお互いハグをした。私が近づくと、彼女は私ともハグをした。
「何だこれは?エロディー!どういうことだ!」
マルセルは大声をあげた。
「朝から何?」
「ブイヨンは野菜だけにしないか?何で動物性のブイヨンがあるんだ。」
マルセルは棚を漁っていた。
「だから何?今までのには動物性ブイヨン使ってないの。私もそこまで馬鹿だなんて思われたくないわ。」
「君には呆れた。俺が言いたいのはそう言うことじゃないんだよ。」
マルセルはため息をついた。すごい怒ってる表情だった。
「どういうこと?これ以上何かあるわけ?」
「そうだよ。君は何も分かってない。君は動物虐待の犯罪行為に手を染めてるんだよ。」
どっちも極端だった。極端なヴィーガンと極端な性癖の持ち主。二人はぶつかり合う。
「畜産があるからメタンガスはたまるし、ヴィーガンは地球環境のために貢献してる。」
彼の思うヴィーガンはかなり視野の狭いものだった。彼女のようには視野が広くなかった。
「こんなの捨ててやる。」
ゴミ箱にブイヨンが捨てられた。
「これのどこが環境保護なわけ?まだ食べられる食べ物を私の許可無く捨てるなんて信じられない。外でも同じことしてるわけ?」
「黙れ!こんなのを生み出すこと自体が環境に悪いんだ。肉を食べる奴らは動物虐待だけじゃなくて、地球の空気を汚してるんだよ。」
話が通じなかった。彼女も彼女で狂った部分を隠して、いかにも落ち着いた人間を振る舞った。
「動物虐待とか気にしてるなら、私がご飯をあげたあとにムスタシュにまたご飯を上げるやめて!何回も言ってるでしょ。全然動物と向き合えてないじゃん。」
「欲しそうだったから。」
「勝手に決めつけないで。私は獣医とたくさん相談して、何をどれくらい上げるか決めてるの。勝手なことしないで。あんたは動物が好きなんじゃない。自分が一番正しいって優越感に浸りたいだけなんじゃないの?」
マルセルはエロディーをビンタした。
「マルセル…そう。あんたの気持ちは分かったわ。外出して来る。」
エロディーは勢いよくドアを閉めた。
「エロディー。あんた外に響くほど剣幕が聞こえたけどどうしてかしら?またとんでもないことでも起こしたのかしら?」
また隣の女性に馬鹿にされたがそんなことも気にしなかった。
マルセルは私のもとに近づき私をゆっくりと撫でた。
「俺は間違ったことを言ったつもりがない。」
彼は強い正義感があったが、時にはその正義感は残酷なものになる。もう一度男に危険を伝えようと思ったが、男の性格があまり好きではないのでやめた。どうやったら彼女はあの狂気じみた行為をやめるのだろう。彼女と離れるのは寂しいが、彼女は罪を償わないといけない。このままにしてはいけない。手がかりになるものは何も無かったし、伝えられる手段も無かった。
エロディーはカフェに向かった。
「エロディー、こっちよ。」
クレアに呼ばれて、カフェのテラス席に座る。
「ここのコーヒー普通に美味しいのよね。」
「エロディー、今あの人と付き合ってるんでしょ?良かったじゃん。」
「そうでもないわ。毎日対立してばかりよ。討論と言うより、何も解決策もない声あげよ。」
「何がそんなにいけないわけ?」
「考えが極端だからよ。ヴィーガンだから相性が悪いじゃなくて、人として相性が悪いのかもね。あのタイプの過激なヴィーガンって極端な肉食派の人と変わりないのよ。」
「それは聞いて悪かったわ。」
クレアはカップを置く。
「別に大したことじゃないから気にしてなんかいないわ。」
「今度良い人紹介するから乗り換えちゃえば?」
「あんたずいぶん軽いノリね。考えとくわ。」
クレアは再び、コーヒーを頼み、ショート動画を見た。
「あんたこんなのばかり見てるの?」
「そうよ。色んなチャンネルがあって見逃せないの。」
「私はそんなアプリダウンロードしないわ。自分の大事な情報がとんでもない機関に送られるのは気分悪いから。気軽に情報を売る真似なんてしないわ。」
「それ考えすぎじゃない?決定的な証拠があるわけじゃないのに。陰謀論とか信じるタイプ?」
「そんなの信じないけど、国単位でそのアプリを禁止にする国もあるのよ。私はどういう会社か調べてからアプリをダウンロードしてるの。」
「そうなんだ。」
「そろそろ髪を整えてもらおうと思うのよね。」
「それなら今度私の通いつけの美容院行く?」
「行ってみるわ。」
クレアと約束をした。
クレアと別れたあと、スーパーに行った。
「失礼。」
彼女はある女性とぶつかった。しばらく歩くとミシェルのお母さんが見えた。
「また会いましたね。」
「息子はどこにいるか分かるか?」
またエロディーに同じことを聞く。当然探すのは難しい。今頃ミシェルは死んでいるから。彼女の快感を満たすコレクションになっているのだから。
「息子さんはきっとフランスにはいませんよ。どこか遠い国に移動したかもしれませんよ。」
カゴにヴィーガン系の商品をどんどん入れる。
「あんたヴィーガンやってるの?」
「そうですよ。それが何か?」
「健康的ね。私も年だから、食生活はよく気をつけないといけないわ。死ぬ時は苦しんで死にたくないからね。」
「そうですよね。死ぬなら楽に死んだ方がよっぽど良いですからね。」
彼女の言葉には恐ろしさがあった。
「豆腐美味しそうね。」
二人の会話は少しだけ盛り上がった。
その頃、マルセルはキャットフードの袋をまとめて出かけた。
私は引き出しの鍵がないか探し回ったが無かった。彼女がおそらくどこかに隠し持ってるのだろう。
エロディーは帰宅中、1羽のカラスを見た。大きな声で鳴く。
「カラスね。よく関わりのある生き物だわ。」
カラスは過ぎ去っていく。
マルセルは家に戻り、新しく買ったキャットフードを置いた。
「マルセル。」
エロディーも戻って来た。
「ワイン買って来たわ。」
彼はラベルをよく見る。
「これはヴィーガンワインなのか。」
「そうじゃないわ。ろ過する過程で多少は動物性のものを使うけど、入ってるか入ってないか本当に分からないようなものよ。」
「それは飲まない。」
「そうそれなら勝手にすれば。」
エロディーは自分の部屋にワインを置いた。
「今日は豆腐で作ったハンバーグを作るわ。」
ここ最近エロディーの食事はヴィーガンのものばかりになった。料理を作り終わると私ご飯を与えようとした。
「ねえ、いつものキャットフード知らない?」
「知らない。」
「家にいたのはマルセルのはずよ。」
「それなら全部ヴィーガンのものに変えたよ。」
彼女は呆れたし、私も中々困ってしまった。
「猫もヴィーガンでいたほうが良いだろう?」
「猫だって偏った食事だと駄目なの。色んなものを食べさせないと駄目だわ。」
彼女は責めない言い方で言った。彼女は別室で隠した一般的なキャットフードをお皿に入れた。こうなることは予測していた。
そろそろ彼女は関係に見切りをつけることを考えていた。
「ムスタシュ、ご飯よ。」
いつものように夜ご飯を食べた。エロディーは彼が買ったヴィーガンワインを二人で飲む。
「明日までに飲まないと駄目ね。」
「何で?」
「これ、酸化防止剤使ってないから。しばらくしたら飲めるもんじゃなくなるわ。」
口にどんどんワインを入れる。二人でテレビを見る。
「この映画、フクロウが労働で使われてるな。」
動物がテレビに出るとマルセルはすぐネガティブに物事をとらえた。そのたびに彼女はチャンネルを変えた。
「テレビ消すわ。」
彼女は薬を飲んだ。そしてベッドに横たわった。マルセルもベッドに転がる。電気が消えている。かすかに月光が窓からさした。そして私はエロディーのもとに近づいた。さらにベッドの中に入り、彼女のもとで休んだ。
「ムスタシュ。」
彼女は私の夢を見ているようだった。私はその様子を見て、少し喜んだ。