事件
地下に続く扉の先を彼女に気がつかれないように入った。すると部屋にはホルマリン漬けになった2人の男性がいた。目をつぶっていて、不気味だった。
「これで3人目ね。新たなコレクションの誕生ね。」
彼女は大きな容器の中にミシェルを入れてホルマリン漬けにした。
「ずっとこの時を待っていたの。」
彼女はわざと駄目な男とばかり付き合っていたのはこの計画を成功させる為だった。男運がないわけではなく、意図的にこの状況を作って、利用していた。
「快感ね。私達はこのために出会ったの。私を好きになってくれてありがとう。」
彼女はホルマリン漬けになった裸の男性達を見て興奮していた。彼女はとても狂っている。外は雨が降っていて、雷が鳴りっぱなしだった。
「何?新しい友達が欲しいの?」
彼女は独り言を言った。
「それなら私が探してあげるよ。女は無理よ。この家には女は私だけで良いから。所有物として言う事聞いてくれれば良いわ。」
彼女の声が頭の中に残る。私はリビングに戻った。エロディーはミシェルの私物を全部片付けた。
「こんな物もあったのね。」
彼女はミシェルと撮った写真を見つめる。
「もう、私達はこんな関係に戻れないけどね。」
彼女は写真に火をつけた。煙が上に向かっていく。
「写真より、標本になったほうがもっと魅力的。セクシーで色気があるわ。」
写真はみるみると焦げていく。彼女はそれをすりつぶす。
「ムスタシュ、出かけてくるね。」
彼女は外出すると隣の家のポストに向かった。燃やした写真の焦げたクズをポストに入れた。彼女は特に考えずにこの行動に出た。何事も無かったかのようにその場を去る。
「エロディー。ここにいたのね。」
クレアが彼女に話しかける。
「突然逃げてちゃんと話せなかった。」
「謝罪なんてするつもり?別にそんなのいらないけど。」
「罪悪感を感じてる。ミシェルの誘われたからそのまま誘いにのったの。最初からそんな行動に出るつもりは無かったの。」
「その程度のことで私はクレアを咎めない。おかげで大金を取られる前に別れられたわ。私もそんなこと気にしてるほど暇じゃないわ。もう次の候補を探してるの。」
「そんなの?どんな人?」
「付き合ってから紹介するわ。」
もちろん恋人が出来そうなのは嘘だった。彼女の言う候補というのは恋人になる候補ではなく、彼女の歪んだ快感を満たす所有物としての候補だった。
「それで旦那に話したの?」
「話すわけないよ。」
「私も同じ立場なら話さないわ。隠すなら最後まで隠し通す人間だから。」
「何それ?隠し事でもあるわけ?」
「そうなったらの話よ。」
エロディーはクレアと映画館に行った。
「ホラー映画好きなの?ホラー映画って普通に怖いし、見たい意味が分からないわ。」
「鳥が好きなだけよ。嫌なら違う映画にする?」
「そうしようか。」
有名な女優が主演をつとめる映画を見た。暗い映画館という箱の中に彼女達はいた。飲み物を片手に映画を見ていた。映画館では寝る人もいれば、映画に夢中な人もいた。エロディーとクレアのかさなり、摩擦し合う。
「エロディー?」
エロディーはクレアの口を塞ぐようにキスをした。暗闇の中で誰も気がついていない。
「何してるの?」
「そういう気分なの。でも今は映画を見る気分だわ。こういうの嫌い?」
「別に。いきなり過ぎて驚いただけよ。」
クレアは彼女を拒否しなかったが、これ以上何もなかった。
映画が終わると、彼女達は少し疲れた様子だった。
「さっき何であんなことしたの?」
クレアはエロディーに聞く。
「何のこと?」
「私にキスしたことよ。」
「自然の流れでしょ。女同士だから嫌ってわけ?」
「そうじゃなくて、あんたのイメージがどんどん変わっていくような気がするの。」
「スーパーで見てる私と普段の私は多少違うかもね。だから何?」
「気になっただけよ。それよりあの映画どうだった?私は大女優の演技が良かっただけであとはあまり面白みを感じなかったわ。無駄にカメラワークが騒がしいわ。」
「私も今日の映画は良さを感じなかったわ。見るからにお金の臭いが漂ってるような映画じゃない。もう一回見ようだなんて思わないわ。」
「ヌーベルバーグの時の映画のほうが見る価値あるわ。ゴダールとかの映画は中々面白さがあるわ。」
「心に響く映画が減ったのは事実ね。こんな映画がいつまで続くのかしら。」
二人は本屋によった。
「ここの店主とかどうなの?」
クレアが聞いた。
「あんた男を紹介するために私を本屋に連れ込んだわけ?」
「まさかそんなわけないでしょ。」
「さあどこにでもいるような男なんじゃないの?旦那とはどうなの?」
「たまに喧嘩する程度で今のところ関係に亀裂はないわ。」
「でもたまにアヴァンチュールをしたいから、ミシェルと一線を超えたわけね。最近してないわけ?」
「そうじゃないわ。それに深い関係にはなってないし、肉体関係にもいたってない。心から繋がった関係でもない。ちょっとした冒険よ。」
「私はミシェルと付き合ってたことが冒険そのものよ。」
彼女達は本屋を出た。彼女は道に座り込むホームレスにお菓子をあげた。
「ありがとう。」
何事もなかったように進む。しばらく進むと、シャンゼリゼ通りに出た。高級デパートが立ち並ぶ。振り向くと凱旋門が見えた。マロニエの葉がかすかに落ちた。二人はチュイルリー公園に入った。
「散歩のコースにはぴったりね。」
カモが目の前を通る。
「あの観覧車乗ろう。」
二人は観覧車に乗った。車内は揺れていた。二人は何も言葉を発せず見つめたり、外を見たりした。
「今日、エロディーの所泊まっていい?」
「良いよ。猫は大丈夫なの?」
「旦那に任せてるから大丈夫だわ。またムスタシュを見てみたいし。とても良い子だし。」
「たまに不思議な行動をすることがあるわ。突然、部屋をめちゃくちゃにした日があったわ。あの時はたくさん怒ったけどね。あれから特に何も無かったけど、何がそうしたのかしら?」
「もしかしたら、ミシェルのこと苦手だったのかもね。」
「彼は性格は終わってるけど、猫には優しいわ。本当にそれが理由?」
「相性よ。」
誰も私の本心は分からないない。私は他の猫より感情的だから。理解するのはきっと難しい。
「そろそろね。」
観覧車は一周した。
帰り道、地下鉄を使わず歩いて帰った。
「これ落としましたよ。」
親切な男性がエロディーのノートを拾い、渡した。これはエロディーが小さい時に描いた理想の物件のノートだ。
「ありがとうございます。あなたなんて言うの?」
「マルセルです。」
「悪くない名前ね。また会ったらよろしくね。」
彼女達は家に直行した。
「今の人親切ね。都会にこんなに親切な人がいるって、一瞬新手の詐欺だと思ったけどそうじゃないわね。」
「見るからにそんなことするよう人じゃないわ。」
「この辺に住んでるんじゃない?」
「そうかもね。」
彼女達は家についた。
「ムスタシュ、もう少ししたらご飯用意するから。」
クレアが私に近づこうとしたが、私はそっぽを向いた。彼女に撫でられても抵抗はしなかった。
「いつもこんな感じなの?」
「彼、シャイなのよ。あんたの所の猫にも同じ態度だったわ。そう言えば、白ワインと赤ワインあるけどどっちが良い?」
「白ワインお願い。」
グラスに白ワインをつぐ。気がつくと夜になり、夕ご飯を食べて長話をしていた。
「そろそろ眠たいわ。」
「先に歯磨きしないと。」
「その前にタバコ吸わせて。」
「吸うなら、外でして。ムスタシュもいるから。」
「私も猫飼ってるから、そうそう煙草は吸わないわ。」
クレアは香水を手にとった。
「何これ?私の好みじゃないわ。こっちのほうがいい匂いね。」
クレアはカバンから香水を出す。
「これとかどう?」
「悪くないわ。もう少し弱めの匂いでも良いわ。」
就寝の時間になると狭いベットで二人で寝た。クレアは後ろからエロディーに抱きついた。私はその様子をゆっくり見た。そしてエロディーに近づき、彼女の上にのる。
「ムスタシュ。」
私はゆっくりと名前を呼ばれると、ゴロゴロと鳴いた。この音はリラックスの合図。さらに部屋中に響く声で鳴いた。言葉が発生出来たら良かったのに。
朝起きると、クレアはいなくなっていた。
「もう帰ったのかしら。」
封鎖している問題の部屋は何か異常がないか確認した。特に何もなかったので、床の隠し扉に荷物をおいた。
「もしもしエロディー。タクシー捕まえて帰ったわ。これから仕事だから。」
「分かったわ。気をつけてね。」
何事もなく、彼女はシャワーを浴びて、着替えた。髪をドライヤーで乾かした。すべての準備が終わると彼女はお気に入りのカバンを持って外出した。私は彼女が離れていく音を聞いた。そしてずっとドアを見つめた。