同居
部屋にどんどん荷物が積み上がっていく。私はひたすらミシェルの邪魔をする。ミシェルは何回か床に転んだ。
「ミシェル。大丈夫?今日は引っ越し作業これくらいにしたら?」
部屋にほこりがよくまう。
「まだまだ大丈夫だ。」
インターホンが鳴る。
「ちょっと、何の騒ぎ?」
「紹介するの忘れました。今度同居することになったミシェルです。」
「ころころ男が変わるのね。あなたって、淫乱だわ。」
隣の家の女性は嫌味を言う。男のことはどうでも良いが、エロディーのことだけは悪く言わないで欲しい。むしろ隣の女の方が終わってる性格が顔に出ている。理由もなくエロディーに嫌味を言う。
「男がころころ変わる?そんなに気になるなら色んな男性と付き合えば?何か怪しいものでも信じてるわけ?」
隣の女性は自分の恋愛は棚に上げる。
「気になるも何も事実じゃないの。ただ私はあなたの彼氏に警告しておいたの。気にしてるのはあんたのほうなんじゃないの?」
「そんな人のことが気になるなら自分の人生見つめ直したらどうですか?」
エロディーは気にしてない様子だった。私が彼女の彼氏なら隣の女に嫌味で返すだろう。右隣は普通の夫婦が住んでいる。隣の女は引き返す。
「毎回あんな挨拶代わりに嫌味を言うのか?同じ30代と思えないな。」
「世の中色んなタイプの人間がいるのよ。人の人生に突っ込んでないと気がすまない人もたくさんいるわ。そういう人間って自分の人生の汚点を人を蔑むことによって綺麗に見せたいだけなの。だからわざわざエネルギーを使って言い返すほどの相手ではないわ。」
彼女は精神的に強かった。
「ころころ男を変えるのは本当か?」
「本当よ。男好きというか、私に見合う男性とまだ出会えてないだけよ。私はそういう人間なの。嫌いになった?」
「別にそんなつもりはない。ただ聞きたかっただけだ。」
「私がすぐ裏切ると思ってるの?」
「そんなこと言ってないよ。ただの質問だ。エロディーを信じてるよ。」
彼は彼女の顔をそっと触った。
「ムスタシュ!ムスタシュ!こっちおいで!」
ミシェルに呼ばれても私は反応しなかった。
「新しいおもちゃ買ったよ。」
ミシェルが私のことを悪く思ってないのは分かっている。しかし受け入れきれない現実が目の前にある。私とエロディーが結ばれないということ。結ばれてはいけない関係だと言うことを。どうあがいてもここのラインは越えてはいけない。越えていい条件が誕生するのであれば、どちらかが同じ種族になることだ。
「反応なしか。中々打ち解けるのには手強い子だな。」
私は退屈そうに男から貰ったおもちゃで遊んだ。
「ムスタシュ!こっち来て!」
とっさにエロディーの体に飛びかかった。
「反応が違うわ。やっぱり彼って少しシャイなのかもしれないね。バカンスとか行くときも私以外の人間にはそっけないのよ。」
「そう言う所が猫らしいけどね。」
くれぐれも他の猫と一緒にして欲しくない。その発言は私のプライドにけがすような発言だ。私は他の猫と違って教養もあるし、人の気持ちをくみとるのが得意だ。馬鹿なことだってしない。
「それに他の猫がいてもずっと一匹で行動したり、あまり集団にも馴染めてないよ。他の猫にも興味ない態度よ。どんな性格でも私の大事な友達だけどね。」
エロディーは私のそっけない理由に気がついていない。私は他の猫にない欠陥があるから。それは嫉妬しやすい所だ。
「見捨てたりなんてしない。」
どんな男と付き合おうと彼女を嫌いになることは出来ない。彼女がいなければ私は生きる意味をなくしてしまう。性格も好きな彼女を傷つけることも出来ない。
またミシェルは花を用意して、花瓶にさす。
「今日はバラを買ったよ。」
「私バラ苦手なのよね。」
「このバラはそんなに匂いきつくないよ。」
おそるおそる匂いをかぐ。
「悪くないわ。流石花屋ね。」
「用事があるから、出ていく。すぐ戻るから。」
「分かった。」
男は駆け足で家を出た。彼女はその間に別室に移動した。しばらくすると地下からかガタンと大きな音が鳴った。彼女はどこにいるのか?怪我をしていないか心配だ。ただ私の知ってる限り地下には部屋なんてないから不可解だった。彼女はもしや私になにか隠してるのだろうか?彼女を疑いたくないが、何かを隠してるかもしれない。しばらくすると彼女が戻って来た。
「まだ戻って来てないのね。良かったわ。あんなの見られたら計画が台無しだわ。」
計画?何を企てているのだろうか?
「ミシェルそろそろ戻ってくるかしら?」
私は彼女に近づき、丸まった。
「ムスタシュ。ミシェルと仲良くしてね。意地悪な人じゃないから。」
エロディーがそう言うから極端に無視とかするのはやめようと思った。私は彼女と見つめ合う。彼女の顔を見たら、さっきの出来事を気にしなくなった。
「帰って来ないから、買い物行くわ。」
彼女が買い物行くので、私は留守番した。その頃、彼女は外にいた。
「尻軽女。」
隣の女は彼女の耳元でそうささやいていなくなった。そんな彼女をビンタした。
「何するのよ!痛いじゃん!」
「虫が止まってたから潰しただけよ。逃しちゃったけどね。それよりさっき何て言ったのかしら?皆に聞こえるように大きな声で叫んでみたら?どうせ大声でそれを言った所であんたと協力するのは流石に目に見えているよね?そこまで馬鹿じゃないもんね?」
「何妄想膨らませちゃってるの?あんたこそ味方になってくれる人なんていないでしょ。」
エロディーは何を言っても無駄だと思い無視した。隣の女の顔がぼやけて、灰色の塊になった。
通いつけのスーパーに行く。エシャロットが無くなっていたので、カゴの中にいれる。大好きなワインも手にとった。ブルゴーニュワインとロワールワインだ。彼女はボルドーワインはそんなに好きではない。
「お姉さん、そこのワイン取ってくれないか?」
背の低い70代の女性にそう言われるとワインをとって渡した。
「これで良いですか?」
「そう、それ。ありがとう。あんた優しいね。」
エロディーは女性に笑顔で返した。女性は再び振り向く。
「そう言えば、ここ最近息子が引っ越して来たみたいだから、私もこっちに引っ越してきたんだ。」
「そうなんですね。」
彼女はそのままレジに並んだ。
「よう、エロディー。元気?」
エロディーはスーパーのある女性店員と仲が良い。
「この前、教えてくれた物件中々良い所だよ。前の所と違って水回りもそんな悪くないし、Wifiもすごい調子が良いわ。」
「それは良かった。それより私、彼氏で来たの。」
「良いじゃん。今度うちのパーティーに来ない?」
「本当?連れて行くわ。いつなの?」
「来週の日曜日よ。」
「特に予定ないから。ホームパーティー行くわ。猫も連れて行って良いかしら?」
「もちろんよ。うちも猫飼ってるから。女の子よ。」
「私のは男の子よ。パートナー成立ね。」
会計が終わると。店員のクレアに手を振った。
彼女が家に戻ると、ミシェルがいた。
「ミシェル、おかえり。ずいぶん長かったけど、何の用事だったの?驚くけど落ち着いて聞いて欲しい。」
「そんなに言えないことなの?」
「すごく恥ずかしくて言いにくいんだ。」
「それなら、私を信じて話して。」
暖かかった空気は肌寒くなった。彼女はとっさにカーディガンを羽織る。
「俺、母さんが入院中って言っただろう?今月お金を払わないと母さんの病気が治らないんだ。だから頼む!お金を貸してくれ!」
「あんた何言ってるの。」
「自分でもこんなお願いするのは恥ずかしいことだって自覚はある。でも信頼できる人がエロディーしかいないんだ。頼む!必ずお金は返すから。」
彼女は数分間無言で考えた。空気はどんどん寒くなる。ついに彼女は口を開く。
「分かった。」
「分かったわ。ミシェルの口座に振り込めば良いんだよね?」
「うん、ありがとう。俺にはお前しかいないよ。」
彼はゆっくり彼女に抱きついた。
彼女は本当に男を見る目がない。俺がどんなに自分や家庭のピンチでもお金をせがむような馬鹿な真似はしない。
「話してくれてありがとう。」
彼女の口癖だ。彼女の付き合う男は悪い男しかいない。そんな恋ばかりをしては彼女は悲しんでいた。今回の男もいつもの男とは何も変わらなかった。
「ねえ、今度お母さんの所にお見舞い行くわ。」
「それは出来ない。」
「何で?」
「母さんは見知らぬ人を見ると不安になるからだよ。ストレスは良くないからそっとしといてくれないか?」
「分かった。」
私はただその様子を見ることしか出来なかった。