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家の猫  作者: ピタピタ子
1/20

女性

夜が明けて、しばらくすると窓から日がさす。次第に鳥や虫達が歌う。いつものように彼女を起こす。

「マックス。」

私の同居人、エロディーは私の頭を優しくなでながら起きる。エロディーはパリ17区に住む32歳のフランス人女性、最近パートナーと自然消滅して、独身だ。一人で広い一軒家に住んでいる。私としては彼女が独身の方が好都合だ。彼女の細い指が私の毛に当たるのをよく感じる。この上なく心地が良い。

「ムスタシュ。今日もあなたは素敵ね。」

彼女は持ち上げて私にキスをする。彼女の柔らかい唇が私の口に当るのを感じる。お互いの熱が絡み合って伝わる。この時間がこの上なく幸せだ。私が人間ならもっと幸せだっただろう。残念ながら私は一匹のオス猫だ。品種はフランスが誇る、シャルトリューだ。だがそこら辺にいる猫たちとは一緒にしないでもらいたい。そこら辺の猫と違い頭も良いし、人間の言葉や考えてることをある程度読める。それに人間が必要としてる秩序などもよく理解している。私は人間の女性が大好きだ。メス猫には興味がない。メス猫に何回か興味をもたれたことがあるが人間の女性じゃなければ駄目だ。特にエロディーは特別だ。彼女の姿や中身も魅力的だ。

「ムスタシュ!ご飯よ。」

エロディーに呼ばれて、キャットフードを口に含む。エロディーは私のためにオーガニックキャットフードを用意する。栄養バランスもよく、私はいつも健康だ。彼女にはいつも感謝している。たまに私のために有機野菜や肉などを使った料理を作ってくれる。今、彼女は独身だから、ずっと独り占めできる。食べてる時に私の頭をよく撫でる。エロディーも朝ご飯を食べる。彼女は焼き立てのクロワッサンとサラダ食べる。アーモンドミルクも一緒に飲んだ。彼女は仕事に行く。不動産会社で働いている。彼女は職場の同僚や上司からも信頼されている。私はそんな彼女を見届ける。

「ムスタシュ行ってくるからね。」

彼女は私にゆっくりとキスをした。朝のキスと違い少し早いキスだった。ドアが閉まり、鍵が閉まる音が鳴る。私はひたすら甘い声を出して鳴いた。そして彼女と私が写る写真に近づいた。写真でも彼女は綺麗だ。こんな美しい女性は中々いない。

見つめている写真は夏のバカンスでアヌシーに行ってた時の写真だ。アヌシーは綺麗なビーチがある。その時も彼女はちょうど元彼と別れたタイミングだった。彼女の水着姿に私は惹かれていた。水着で足が美しさが強調される。他の女性によそ見をしそうになったが、何だかんだ彼女以外は魅力を感じない。エロディー、本当に美しくて美しくて仕方がない。

外からカササギは窓をつつく。窓から見える私を挑発してるのだろうか?私はそんな低レベルな挑発にはのらない。空を見上げるとカラスとカササギが数羽飛んでいた。鳴き声がだんだん小さくなる。どんどん私の視界から遠くなり、ついには消えていった。私は部屋中を歩き回った。香水が何個も並んでいたが、ほとんど私もつけられる香水だった。私は猫だから人間の香水はほとんどが匂いがきつい。しかし彼女がしてるのは猫用の香水。エロディーは外に出る時たまに人用の香水をしている。私も人間ならもっと色んな香水を楽しめただろう。残念ながら、たしなめるのは猫用の香水だけだ。

数時間後、ドアが開く。エロディーが帰って来た。

「ムスタシュ。いつも良い子ね。」

彼女はまた私を持ち上げて抱き上げる。彼女のつけてる香水も好みの香りだ。彼女の体の匂いと香水の匂いが調和して私に鼻に伝わる。彼女は私の匂いをどう感じているか?彼女に抱きてもらうために毛づくろいは必須だ。女性と一緒に過ごすには清潔なのは必須条件だ。

「もしもし、ミシェル。」

彼女は誰かと電話していた。

「うちのムスタシュを連れて、カフェに行こう。猫アレルギーとかないでしょ?」

ミシェルということは男とも捉えられるし、女とも捉えられる。男なら彼女とはどんな関係か気になって仕方ない。そんなに彼女とふさわしい男なのだろうか?

「了解、明日の15時ね。」

私は彼女と夕ご飯を食べる。彼女は白ワインを飲みながらご飯を食べる。ワインの香りを楽しんでいた。

「今回も良さそうな男ね。」

やはり、会うのは男だった。相手はどんな男だろうか?気になって仕方がない。彼女の綺麗な足に寄りかかる。

「ムスタシュ。明日は一緒にカフェに行くよ。」

カフェは彼女とだけが良い。

「ミシェルは良い人よ。猫が好きって言ってたし。」

彼女に見合う男なのか審査しなければいけない。

夜になると彼女は寝ていた。いつものように彼女のベッドに潜って、彼女の上にのる。エロディーは少し目を開けていた。私をしなやかな手で撫でる。彼女の顔まで近づいて、たくさんキスをした。寝ている顔も美しい。

また朝になると彼女を起こした。

「ムスタシュ、おはよう。」

今日は晴れていた。エロディーが窓を開けると、そよ風が入ってくる。耳、頭、鼻、全身へとそよ風が当たる。どこか心地が良い。彼女は少しメイクをしていた。メイクをしなくても十分美しい。彼女は口紅だけを塗る。基本的にそんなにメイクをせず、少し張り切る時だけ口紅を塗る。きっと今日会う男性のことが気になっているのだろう。

「こっちの色の方が良いかしら?」

彼女は鏡を見ながら考えていた。どの口紅の色が彼女にあうか考えていた。その様子を後ろからずっと見る。

「ダークレッドが良いわ。」

バックもいつものと違うものにした。私はリードでつなげられる。

「ムスタシュ、きっとあなたもミシェルのことを気に入るわ。」

カフェのテラス席に座ると、男がやって来た。私は男を睨みつける。

「ミシェル待ちくたびれたわ。」

彼は花束をエロディーに渡した。

「これ君に渡す。」

「これって花屋のセンス?どれも私の好きな花ね。カモミールがいい香りね。」

私はカモミールは好きでも嫌いでもない。

「よく来てくれるから、今日は特別サービスだよ。花屋以外で話すのはじめてだね。エロディー。いつも見ても綺麗だ。」

あの男は下心が丸出しだ。彼女は足を男性に絡めた。中々大胆なことをする。これをする時は相手に興味津々の合図だ。この程度の男で本当に良いのだろうか?

「ここのコーヒーあまり好みじゃないわ。デザートは悪くないかな。」

「それなら、俺の飲むか?」

彼女は言われるように飲んだ。

「こっちは普通ね。平坦な感じ。」

「君の猫可愛いね。」

ミシェルは私に気安く触って持ち上げた。エロディーに下心を抱く男の顔は見たくないのでそっぽを向いた。

「どうやらミシェルに慣れてないみたいだわ。今すぐおろして。恥ずかしいのかしら。」

床に降ろされた。私はエロディーの足にくっついた。

「いつから飼ってるの?」

「子猫の時からよ。私の大事な友達よ。」

「俺ならエロディーとそれ以上の絆築けるよ。」

「何それ?自信満々ね。」

彼の冗談で彼女は笑う。エロディーと私はかけがえのない存在で、どちらかの損失は心も損失してしまう。しかしながらエロディーとは友達以上の関係にはなれない。

「本気だよ。」

彼は着実とエロディー心を掴んだ。

「エロディー。」

彼の手が彼女の手にのって重なり合う。のぞるように指で手を触る。

「何かペット飼ってるの?」

「いや、飼ってない。俺にはペットを飼えるほどの責任はない。」

「それはペットを失ったトラウマから?」

「そうかもな。過去に猫を飼ってたけど、病気にかかって死んだんだ。あれから動物を飼わず、一人の時間を過ごしたいと思う。だけど今日は君と過ごしたい気分だ。」

「ミシェル。今日は家に来れる?」

私にはエロディーをどうにかすることは出来ない。彼女の目は恋をする女性の目だった。相変わらず恋多き女性だ。そんな彼女でも離れたいと思った日はない。

「ここよ。」

ミシェルとエロディーが服がベットの下に転がっていた。二人は暗い部屋で抱き合っていた。

「ミシェル、もっと見て。」

「エロディー。」

その様子をかすかに開くドアから見ていた。私は何も言わずにずっと見ていた。二人の声が部屋中に響く。二人の足が絡み合う。ベットがキシキシとなる。私は無言だった。ベッドが揺れている。暗闇の中、2匹の蛾が飛んでいた。手を伸ばして1匹だけ仕留めた。どんどん蛾はボロボロになっていく。もう1匹飛んでいて私は気にしなかった。しばらくすると2人も1匹の蛾も大人しくなった。

「エロディー聞いてくれ。」

「何?」

「俺、母さんが病気で入院してるんだ。ステージ4までいってる。かなり深刻な状態なんだ。日に日に弱っていく母さんを見てて苦しかった。でも君を見てると、俺を支配してる苦悩が自然と無くなっていく感じがするんだ。」

二人はおそらくもう付き合っているんだろう。

「私は何もしてないわ。そんな中私と会ってくれてありがとう。話してくれてありがとう。お母さん、早く良くなると良いね。」

「うん。そうだな。今度お見舞い行ってくれないか?」

二人はキスをした。私とする時よりも長く。蛾の死体を部屋の隙間に挟んだ。

「もちろんよ。近々ミシェルの両親に挨拶するつもりだったから。」

「俺、父親いないんだ。兄弟もいない。母さんしか大切な家族はいないんだ。」

「本当はペット欲しいんじゃないの?本当は寂しくて寂しくて仕方ないんでしょ。その気持ち、私で埋め合わせするわ。」

「エロディー。お前しかいない。僕達の炎は簡単に消えない。」

これだけじゃまだどんなやつか分からないが、あまり良い予感がしない。

「私に心を開いてくれて嬉しい。守ってあげるから。」

夜が明けると、男はゆっくりとエロディーにキスをして、部屋をさった。私はあの男と顔を合わせたく無かったので呼ばれてもそっぽを向いた。

「ムスタシュ。俺はもう帰る。また遊びに来るからな。」

小声で私にささやく。もう2度と帰って来なくて良い。彼はドアに向かった。鍵は空きっぱなしだった。エロディーに一言声をかけられないのか?

しばらくすると彼女は電話した。

「ミシェル。どうして鍵閉めてくれなかったの?最近、事件とか起きて物騒なのよ。セキュリティがしっかりしたこの家でも物盗むような悪い奴は絶対入ってくるの。今度から合鍵渡すから絶対戸締まり忘れないで。」

合鍵?何故そこまで深い関係じゃない男に渡そうとするのだろうか?

次の日、ミシェルは大荷物で私達の家に入った。

「ムスタシュ。良かったね。新しい男友達よ。」

急遽エロディーは彼氏との同居が決まり、私のイライラは加速する。男は私だけで良いのに。


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