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3枚目【ぬけちゃった!?】

「ええ。今のところは大丈夫......だと思う」


 通勤電車の中。

 ラッシュ時より30分早い時間にもかかわらず、それでも車内はサラリーマンや学生たちで多い。


 運よく開かない側の扉を背に位置取りができ、俺はなぎさをできるだけ他者の目から見えないようにして立っている。

 これでスクールバッグでスカートの前も抑えていれば、とりあえず何かの拍子でめくれる心配はまずない。

 作戦成功だった。


「.........」


 とはいえ初めて公衆の面前、一時的とはいえ閉鎖空間にもなる場にノーパンでいる緊張感と恥辱からか、渚の顔は上気し唇からは吐息が漏れる。

 無理もない。

 やっていることは痴女そのものなのだから。


「考えてみたら、あんたとこうして一緒に学校に行くの、久しぶりじゃない?」


 少し気持ちに余裕が出てきたらしく、渚が声をかけた。 


「小学生の頃は、集合時間になっても全然家から出て来なくて、よく後から走って追いかけてきてたわよねー」


 言われてみればそんなこともあった気がするな。

 俺は過去を振り返らない主義なので、すっかり記憶の片隅に乱雑放置してある。


「こんなことでもなかったら、あんたとまた揃って通学する機会なんてなかったのかもね」


 渚の言う通りだ。

 集団登校が義務づけられていた小学校とは違い、中学に入ってからはお互い別々に通学をしていた。

 高校に入ってもそれは変わらず、同じ学校・同じクラスになったといっても、簡単に関係が昔みたいに戻るわけがない。

 時の流れは、残酷だ。


「――え? ウソでしょ...?」


急に絶望の眼差しを向けた先を目で追うと、駅のホームには人が大量の蟲のようにうごめき、溢れていた。

 まだラッシュ時には早過ぎる。

 どうやら他の路線で人身事故があったようで、その路線の利用客がこちらに流れてきたようだった。


「ちょっと、あんまりこっちに体近づけないでよ」


 電車がホームに止まるなり、大量に乗客がなだれ込んできた影響で、あっという間に車内はいつもの見慣れた満員電車状態に。


「あんた、朝ごはんに納豆食べたわね? さっきからあんたが息をする度に、納豆のにおいが私の可愛い顔にかかって臭いんだけど」


 辛うじて俺は渚を壁ドンするような形で周囲から死守しているも、その口からは辛辣しんらつなクレームが入る始末。


 もう渚のパンツやめちゃおうかな?


 とかなんとか考えているうちに、電車はあと一駅で学校のある最寄駅に到着する。

 ここさえ乗り切ってしまえば、ツンツンノーパン女に顔前で睨まれることはなくなる――はずだった。


「キャッ! もー、今度はいったい何なの!?」


 駅のホームまであと少しという距離で電車が急停車のブレーキをかけ、反動で車内が大きく揺れた。

 体勢を崩した俺の左足は渚のスクールバッグの前、すなわち股間部分に移動してしまった。

 

「ん......」


 膝がスクールバッグ越しに渚の守備力が極端に薄い部分を刺激し、ため息混じりの甘い声がこぼれる。

 

「......早く足をどけなさいよ」


言われなくてもそのつもりなのだが、満員電車の中で一度固定された姿勢を変えるのは中々に至難の業であることを渚も知ってるでしょうが。

 俺の両サイドは体の大きい中年サラリーマンに固められていて、動こうにもぴくりともしない。

 ただいたずらに渚をピンポイントに刺激してしまう。

 

「ふぅっ!......あんた、絶対わざとやってるでしょ!?」


 熟れたりんごのように顔を真っ赤にした渚は、必死に声を殺して俺に訴えかけた。

 幼馴染相手に目の前で堂々と痴漢行為を働く奴がどこにいる?

 こっちだって、朝っぱらから幼馴染の女の顔を至近距離で拝見していろいろと苦しいんだよ!


 その後も俺がもがく度―― 


「んぐっ!」


「あぅっ!」


「はぅっん!」


 ――なんて、甘く魅惑的に反応し、再び電車が動き出す頃には息も絶え絶えになっていた。


 ようやく駅のホームに電車が入り、扉が開いたと同時に俺は渚の手を掴んで電車を降りた。

 階段は使えないので、エレベーターを利用して改札に行こうとした時だった。

 

「......ハハ、どうしよう? 腰、ぬけちゃったみたい......」


 その場で渚はガクリと膝を折って崩れ落ち、力の無い笑みを俺に向けた。


 ――マジ?


 周囲の人間の視線が突き刺さる中、俺は腰の抜けた渚をなんとか慎重に駅構内の女子トイレまでひっぱり運んだ。

 まぁ、その......なんだ......初ミッションにトラブルはつきものである。

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