KAIJINー怪人ー
俺は格闘技イベント『KAIJIN』のリングの上で殴られていた。殴られなければいけないらしい。
「大したことねーな!チビ!まっ!どこを殴られてもこれ以上不細工にはならいなっ!」
人気ファイターの実桜はKAIJINの人気ナンバーワンだ。実力もある。いいパンチだ。俺の純白の道着が血で染まる。
(格闘技人気の為だ。すまねぇな。獅子)
館長にそう言われたら俺はそれに従うしかない。勝てるのに。ミオは強いが俺は勝てる。勝ちたい。
(格闘技業界が求めてるのは強さじゃない。『スター』なんだ。だから。スターじゃないお前は勝っちゃいけない)
そのスターがミオらしい。ネットで素人を殴り、素人の殴り合いの戦いを放送して大人気。理解出来ない。俺だってインターネットをやっている。
一度ライブとやらをやったが10人しか集まらずコメントもなく一時間正座で黙っていた。
悔しい。俺の方が強いのに負けるのは嫌だ。
「ボコボコのボコにしてやる!……あっ?」
俺は額でミオの拳を受け止めた。ミオの拳の骨が砕ける音がした。
「いいぃっ!?レフリー!?こいつやば……」
「キャッ!!」
膝上を狙った渾身のローキック。ミオの爪先が膝上に触れた。
状況を理解できていないミオの心臓に腰を落とした正拳。これでほぼミオの絶命を確信したが俺は止まらなかった。
「アキャッ!」
『へ』の字を描くかの様な飛び蹴り。
・
「次の試合も『殺すつもり』でやりたいと思います」
70万人が俺の正座ライブを観ている。気持ちがいい。ほとんどのコメントが『人殺し』だの『ミオを返せ』など悪口だが気にならない。無関心よりは遥かにいい。それに俺は知っている。皆綺麗なフリをしているが汚い物を求めている。これだけ多くの人が観ているのが証拠だ。
・
「キィィィヤァァァッ!」
女の悲鳴がよく響くホールだ。俺は肘に全体重を乗せて外国人選手の喉を潰す。
眼球が飛び出て血の泡を吹いているが関係ない。レフリーが止めなければ試合は終わらない。
「ストーップ!ストーップ!」
「……チッ!」
一生リングには立てない体にはしてやったが、殺せなかった。自分の未熟さが憎い。
・
『不甲斐ない試合をしてしまい申し訳ありません。『皆さんの期待』に応えられませんでした』
130万人が俺を観ている。俺がミオに代わる『KAIJINの主役』なのだ。
『次の試合も殺すつもりでやりますよ』
・
「おうっ?」
まさか花束贈呈で花束を落とし、花束に注目させてナイフで刺してくるとは思わなかった。
「ミオの敵だ馬鹿野郎!」
あぁ。クソ。対戦相手の事しか考えていなかった。こんな死に方は考えていなかったがリングの上で死ねるなら……
・
202⚪年代。あの時は皆狂っていたなと思う。
……『大格闘技ブーム』。当時俺も格闘技雑誌の
ライターだったがどいつもこいつも獅子の影響を受けて『いかに残酷な倒し方をするか?』ばかり考えていた。
ありゃあ運営もファンも悪い。悪口を言いながら、社会問題に取り上げながらも客は残酷を求め運営も金を求めた。
『迷惑系ファイター』は流行語にもなった。
過激は刺激。だが飽きられるのも早い。今じゃ格闘技ブームも終わりKAIJINも消えた。
「レスラーにインタビュー許可のある記者の方はこちらへどうぞー!」
「はいよ。はいはい」
今のブームはなんつってもプロレスよ。エンターテイメントとしてちゃんと成り立っている過激はもはや芸術。本物の殺し合いの記事なんか俺は二度と書きたくないね。
『おいっ!なろプロレス!俺達を舐めるな!お前んとこの新人をぶっ殺してやんよ!』
カクヨプロレスのダイナモ伊東は迫力があっていいねぇ。団体のエースなのに『新人覆面レスラー』をぶつけられたらそりゃ怒るわ。本気じゃないだろうけどね。まぁある程度新人に華を持たせてスープレックスで3カウントってとこかな?
「おいなんだおめぇっ!おいおいおいっ!」
「……」
やりやがったよ!噂をすりゃあ注目の覆面レスラー『ライオン仮面』だ!ダイナモの会見に乱入してパイプ椅子で襲撃!絶対台本無視だろこりゃあ!インタビューしねぇと!
「ライオン仮面!今日の試合の意気込みを!」
「……殺すつもりでやりますよ」
「え?」
この言葉をきっかけに両団体のレスラー達が雪崩れこんで乱闘を始め、殴り合い、絞め合いながらはけていった。プロの乱闘芸だ。
「……」
俺はライオン仮面の覆面ごしの眼差しを見て『獅子』を思い出した。獅子。一命をとりとめたが意識不明でいつ目を覚ますかは分からないってとこまでは俺も知ってたが……
『ダイナモ伊東選手の入場ですっ!』
おっと。試合が始まる。早く行こう。
・
「週間ファイティング」
『緊急追悼!ダイナモ伊東フォーエバー』
『歓声は悲鳴に変わった。ダイナモ伊東のラリアットをかわしたライオン仮面はスープレックスを放ち……』