企業Vtuberオーディション落選女が給料三ヶ月分で個人勢Vtuberになる!ーいまさら所属してくださいと言われてももう遅いー
企業オーディション落選女が給料三ヶ月分で個人勢Vtuberになる話
「ここも落ちたか」
私は深い溜め息をつきながら、オーディションに応募していた企業の新人Vtuber初配信を眺める。
画面の中の女の子は、嬉しそうな声でもはやお決まりとなった流れでSNSのタグを決めている。
別の動画投稿サイト動画で聞いたことのある声がその子の喉から発せられている事実に、やはりネームバリューと実績がなければダメなのかと卑屈に項垂れる。
違う、私が夢を見すぎているだけだ。
Vtuberはもう乱立状態で、動画編集ができるとかゲームが得意とかのちょっとしたスキルだけじゃ企業勢採用なんて夢のまた夢なのだろう。
何十万再生の動画を持つ動画投稿者や有名配信者の草刈り場となったVtuber界隈。
草刈りというよりも前世から魂を刈り取って受肉するのだからVtuberは死神かもしれないなと現実の仕事の疲れと妬みを洗い流すためストゼロのプルタブを勢いよく持ち上げる。
カシュっという音が耳に着く前に口元に運ばれた缶を傾け、嫌な現実から目を背けてしまいたくなる。
それでも、魂を叩き売りながらでもVtuberになりたいのは憧れの人がいるからだ。
私は彼女に魅入られてしまった。
彼女は特別に魅力的な声かと言われれば違うし、特別に歌が上手いわけでも、特別にゲームが上手いわけでもない。
彼女の武器はひとつ。
企画力だ。
自分のやりたいことをエンタメに昇華するセンスが飛び抜けている。
学生生活に悩んでいた私は、彼女の面白さに取り憑かれてしまった。
ときに面白くときに癒しを与えて、そして目標のなかった私にやりたい事を見つけてくれた彼女。
私はVtuberになって彼女に直接感謝の言葉を伝えたい。
意思が決まれば行動は早かった。
まず最初に彼女の所属する時間を冠する事務所へ応募した。
最初に動画を撮って送った時はドキドキして夜眠れなかった。
結果は書類落ち。
次に新しい事務所に送った。
どこがダメだったかわからないが、前回の動画とは別でキャラクターとして演じて動画を提出するものだった。
私は動物が好きなので、ハリネズミのじゃろり娘としてゲーム実況する動画を提出した。動画編集も少し勉強してSEやBGMを使ってみた。
結果は面接落ち。
そのあともいろいろな事務所を受けた。
アイドル系、ホラー系、学園系、ゲームガチ勢向け、ASMRメインの事務所。センシティブなのと、問題があった事務所以外は一通り。
まあ、全敗したんですけどね。
今回もダメだった悔しさから配信を閉じようとした時、私もオーディションで受けた新人Vtuberの声が聞こえた。
「個人勢さんとも絡んでいきたいです!リプ待ってます!」
…………個人勢???
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酔っ払いの行動はバカバカしく時に難解である。
私は仕事終わりにストゼロを開ける習慣があるため、自宅にいるときはシラフではない。
そのため朝起きて出勤前によくわからないものが自宅に増えていることがある。
酔っ払いが通販でポチって別の日の酔っ払いが受け取ったというのんべえが一度はやらかしたことがあるアレをしょっちゅうやるのだが、今回はスケールが段違いだった。
「2DのVtuberの体が届いてたんですけど??!?!?」
通帳見たら初任給から三ヶ月分の貯金が消えてました。
流石に血の気が引いた。
どうやら1ヶ月前にオーディションで落ちた子の初配信で個人勢というワードを聞いて速攻で依頼していたらしい。絵師さんとモデラーさんとのメールのやり取りが残っている。
その上絵師さんの方は昔から一方的にフォローリツしてる大好きな絵師さんにDM突撃して依頼を受けてもらっていた。Vtuberのママになるって呟いているのを見つけてしまった私はSANチェックです。
どうしよう、今更酔っ払いの戯言でしたとはいえない。
個人勢って全部自分でやるってことだよね。
四天王のおじさんは知ってるけど、実際最近始めた個人勢ってバズってる人聞いたことないし生き残れるのか?数字出せるのか?
……それでもやるしかない。
絶対あの人とコラボできるまで人気になってやる!!!
とりあえず今はお仕事いってきます!
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今日も上司にクソみたいな理由をつけられて怒られました。モラハラ常習化してるしはやくこの職場辞めたい。
トイレ休憩中にSNSのアカウントは作っておいた。
名前はケモ耳合法ロリニート@新人Vtuber準備中。
送られてきたVtuberの外見が部屋着クマ耳娘だったのでそのまま名前にした。初見のVtuberをフォローするきっかけは好きなキャラ属性があることだろう。
お昼休みに隠れてアカウントを覗いたら結構な人数フォローしてもらってて、嬉しかった。
まぁフォロワーのほとんどが個人勢Vtuberだったので、フォローはしても配信には来てくれなさそうだと項垂れながら一応フォローは返しておく。
今日の夜20時頃から初配信予定ということと、体の一部を公開してスマホを消した。
10人くらい来てくれたらいいなぁ…………
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珍しくストゼロを入れないまま自宅で過ごしている。配信のためだ。
動画サイトはオーディション動画を限定公開で投稿するために、昔作ったまま休眠状態のアカウントを利用することにした。
新規でアカウント作ると1日配信できないのを思い出したからだ。
アカウント名を変えて、画像とヘッダーをアップロードし、サムネイルと待機画面も作った。
機材の使い方は勉強しておいた通りやればすんなりできたので、問題ない。
各種設定と準備を済ませ、晩御飯を食べておく。今日は禁酒だ。
「これでよし」
…………やっぱり一本だけ。
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このあと、初配信でストゼロを哺乳瓶でリアルにキメる女として新人個人勢としては脅威のバズりをみせた。
しかし、憧れの人からドン引きのリプを頂いて認知されて嬉しいやら引かれて悲しいやら酒でやらかしてママに申し訳ないやら感情がぐちゃぐちゃになったのはまた別のお話。
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