百神弥太郎の推察
現場はワンルーム。被害者はうつ伏せで倒れていた。首には索条痕。絞殺だ。
Jリーグのどっかのユニフォームをまとい、腕にはリストバンド、テーブルにはブブゼラまである。実に熱狂的なサポーターだ。そういえば、昨日BSでそんな試合してた気がする。
弥太郎の回想半ば、部下の砥取が報告にきた。
「被害者はこの部屋の主、秋本兵輔38歳。近くの食品会社に勤めてます。死因は紐状のようなもので首を絞められたことによる窒息死です。首に抵抗の引っかき傷がないことから、犯人は被害者と面識があり、なおかつ犯人を大切に想っている人物だと思われます。調べたところ、一人。石積美佳子、31歳。秋本と恋仲の関係にあります。現在、石積の足取りを追っている状況です」
「そうか。その女、腕が4本あるのか?」
「はい?」
「奇妙だとは思わないか?」
砥取が眉を顰めた。「どう意味です?」
「このリストバンド、奇妙じゃないか?」
「そうですか、別に熱狂なサポーターなら普通じゃないんです? ブブゼラだってあるし」
「向きが逆だ」
「向き?」
「ほら、文字が逆さになってる。熱狂的なサポーターがリストバンドの嵌め方を間違えるものか。それも右と左で別々の色だ。サッカーにはまるで疎い誰かが付けた証拠だ」
「でも誰が、何のために」
「これを隠すためだろう」
「て、手痕」
「しかも、中学生ぐらいの小さな手痕だ」
「しかし、死因は……」
「絞殺の場合、紐で首を締めるのに両手が要る。それと同時に被害者の手を抑えるのは不可能だ。犯人が二人じゃなけりゃあ。それに被害者の左手薬指の付け根、指輪の痕。結婚してた証拠だ。恐らくその元妻子だろう」
「だから、腕が4本って……瞬時でそこまで視えたんですか」
「何事も観察だ。人殺しって奇妙なことが起こってるんだ、必ずそこに奇妙が残る」




