6. 気弱な公爵令嬢は流される
『うーん、何だか暖かい・・・』
エリナはぼんやりと目を覚まし、自分がロイドの腕の中で寝てしまったことに気がついた。
そして、先ほどまでロイドとあんなことやこんなことをしたことを思い出し、一気に顔を赤らめた。
『そうだった、私ロイド様と一線を超えてしまったんだわ。ずっと紳士だったロイド様が、いきなり私に・・・』
それなのにエリナは全く嫌ではなかった。
否、それどころか嬉しかった。
もっと触れてほしいと、はしたなくも思ってしまった。
この目の前のロイドに、確かにずっと憧れを抱いていた。
『そういえば、侯爵家次男のあの方と婚約してからロイド様と会えなくなって、最初のうちは寂しかったな・・・』
しかしロイドはエリナにとって憧れの雲の上の存在で、現実的に恋人になる相手ではなかった。
絵に描いたようなキラキラの王子様の容姿で、優秀で、完璧すぎたため、ぼんやりとしたエリナの相手になるなど考えたこともなかった。
その王子様が、エリナの前に降臨した。
「ロイド様・・・綺麗な顔・・・」
エリナがロイドの顔に手を触れると、ロイドがパチリと目を開けた。
エリナの姿を認めると微笑んで抱きしめた。
「エリナ・・・かわいい。僕のエリナ・・・」
「ロイド様・・・」
夕暮れ前、痺れを切らしたロイド付きの侍女頭が部屋に突入し、エリナを湯浴みに強制連行するまで、ロイドはエリナを離さなかった。
エリナが湯あみ中、ロイドにはやることがあった。
チリンチリン
「お呼びでしょうか、ロイド殿下」
ロイド付きの執事が現れる。
「やぁセバスチャン。僕らが帰城して、王族の居住区域に入っていたのを、何人くらいが見ていたかな。」
「なかなか賑やかにお帰りになられたので、まず馬車留めで貴族数人がお二人を見かけております。それから、マクイーン侯爵がちょうど国王様にご用事があったようで、居住区域の近くにおられました。」
マクイーン侯爵とは、今朝エリナに迫っていたタマラの父である。
「マクイーン侯爵!うん、なかなか良い感じの人物が目撃してくれたね。彼は僕とエリナの事実確認に奔走するだろうね。」
「何か対策をいたしますか?」
「いや、何もしなくて良い。僕とエリナが結ばれたことをできるだけ多くの人に自然な形で知ってもらいたいからね」
「左様でございますか」
セバスチャンはちょっと非難するようにロイドを見た。
「エリナが気の毒だと思っているのか?」
「正直に申し上げますと。エリナ様がこれから立ち向かわなくてはならないお噂などを考えますと」
ロイドは微笑んだ。
「これは必要な過程だよ」
エリナはその日、公爵邸に返してもらえなかった。
ロイドが駄々をこね、エリナはロイドの私室に泊まることになった。
「エリナをもう誰にも取られたくないんだ。婚約は今週中に早急にまとめるが、それまでずっと一緒に過ごしたい・・・」
ロイドの翡翠色の瞳に見つめられると、気弱なエリナは断れなかった。