4. 王子様の計画-1
「はぁ、かわいい。」
ロイドはエリナのシルバーブロンドの髪を梳きながら呟いた。
「やっと僕のものになった。」
ロイドとエリナは幼なじみであるが、ロイドがエリナへの恋心を確信したのは4年前であった。
幼い頃、高位貴族の子供たちは親に連れられてロイドの遊び相手としてやってきていた。
エリナも、そんな一人としてロイドのもとに度々通っていた。
彼らは側近候補、王妃候補であり、同時に将来貴族社会を牽引する者たちでもある。
幼い頃からお互い仲良くしておくことに、親たちは利点を見出していた。
しかし、選ばれる側近は数人であるが、王妃は一人である。
親たちの目論見どおりに子どもたちは仲良くせず、女子たちは争うようになった。
親の爵位で言えば、エリナは最も高位の貴族令嬢であった。
美しい公爵令嬢であるエリナは、他の女子たちからすると目の上のたんこぶであった。
女子たちは、エリナがぼんやりしていることに気づくと、徒党を組んでロイドに近づけないように仕組んだ。
聡明なロイドは、そういったことがよく見えていた。
貴族の諍いを治めるのも王子の技量であると学んだばかりのロイドは、エリナと他の女子たちとを分けて招待することにした。
必然的に、ロイドとエリナは二人で時間を過ごすことになった。
二人で会うように手配するなど、最初からエリナのことを気に入っていたのだろう。
実際、エリナはなかなか聡明で、一緒に読書をし、その感想を言い合うのは思ったよりも楽しい時間だった。
ある日、高いところにある本を取ろうと梯子に登っていたエリナが足を滑らし、ロイドがとっさに抱きとめるということが起こった。
その時、ロイドは13、エリナは12歳になっていた。
12歳のエリナは、もう子どもではなかった。
抱きとめた時、エリナの身体はとても軽く、柔らかく、そして良い匂いがした。
13歳のロイド少年は、思わずエリナの身体をまじまじと見て、エリナの腰が細くくびれ、胸元には二つの小さなふくらみができていたことに気づき、顔を赤くした。
それ以来、エリナのシルバーブロンドの髪に触れ、彼女のロイヤルブルーの瞳に見つめられたい、と願うようになっていった。
次第にロイドは、エリナと会っていないときも、エリナのことを考えるようになっていた。
エリナも、満更ではなさそうに見えた。
ロイドを見つめる瞳はしっとりと濡れており、じっと見つめると顔を赤らめて目をそらした。
ある日、14歳になったロイドは父である国王に呼ばれた。
「そろそろロイドの婚約者を決めなければならない。」
この頃にはもう、ロイドの頭にはエリナしかいなかった。
「僕は、エリナ・ストッケル公爵令嬢と結婚したいです。」
「ふむ、エリナ嬢か。なかなか聡明な娘だと聞いている。ストッケル公爵に打診しよう。」
しかし、話はトントン拍子には進まなかった。
ストッケル公爵が、エリナの気弱さで王妃は務まらないと言い出したのだ。
ロイドはストッケル公爵を呼んだ。
「僕はあなたの娘のことが好きなのだが。僕がしっかりと彼女を守る。」
ストッケル公爵は眉尻を下げた。
「殿下、とてもありがたいお言葉で、親として大変嬉しく思います。しかし、僭越ながら申し上げますと、女性の関係は、私たち男性の管轄外でございます。現にエリナは、他の子女たちと上手く関係を築けず、殿下にご配慮いただいております。」
「それでも・・・!」
「殿下、大変ありがたいお話しですが、エリナに王妃は務まりません。エリナには婿を取って、公爵家で守っていきたいと考えております。」
娘に甘いストッケル公爵は意見を曲げなかった。
そんななかロイドは、エリナの婿候補として、とある侯爵家の次男が挙がっているとの報告を受けた。
王令で婚約に漕ぎ着けられないよう、ストッケル公爵が動き出したのだ。
ロイドは婚約を潰してやろうと、その侯爵家を訪れた。
当の侯爵家次男はロイドの1歳年上の、なかなかハンサムな男だった。
次男はロイドを愛想よく迎え、庭に連れ出した。
「殿下、私はこの婚約話を受ける気はございません。私には思い人がおります。」
「なんと。君は思い人とは婚約しないのか?」
「彼女は平民でございます。私は18になるまで何とか理由をつけて婚約を避け、18になって学園を卒業したら家を出て彼女と一緒になるつもりです。」
「ふむ・・・その話・・・協力しよう。君が私に協力してくれるなら。」