3. 公爵令嬢は美味しくいただかれる
カラカラカラカラ
「はぁ、ずっとこうしたかった」
ロイドはエリナの手を握ったまま、髪を一房取ってキスを落とした。
エリナは真っ赤だ。
「ロ、ロイド様…あの、少し近いです」
「なぜ?やっと思いが通じたのに。君も僕のことを思っていてくれたなんて。」
『こんな美しい顔でそんなこと言われると、心臓が持たないんですけど!!てゆーか距離!!近い!!近い!!』
エリナはハッとする。
『あれ?!思いが通じる?!ロイド様はゲイなのよね?あ、違うの?そういえば私のことが好きって。なに、どういうこと?』
エリナは今さら状況がおかしいことに気がつき、チラリとロイドと正面に座る端正な顔つきの護衛騎士を見る。
「あの、ロイド様。大変不躾なご質問をしてもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「ロ、ロイド様は、その、ええと、噂では、あの…」
「うん?」
「ロイド様はこの騎士のお方と…」
「ああ、それか。」
ロイドは微笑みを深くした。
「そう思わせておけば、しばらくのあいだ王妃からの婚約のプレッシャーを躱せるからね。」
「婚約避けに使われた私は、非常に迷惑でしたけどね」
騎士が憮然と付け加えた。
「こんやくを、さける…」
エリナは意味がわからなかった。
「エリナ…僕は君が婚約破棄されるのを待っていたんだ。」
「ロイド様が…?」
エリナはますます意味がわからなかった。
「僕はずっとストッケル公爵に、エリナと結婚したいってお願いしていたんだ。」
「ええ!初めて伺いました!」
「そうだろうね。ストッケル公爵は、君には気弱なところがあるから王妃は務まらないと断られた。何度お願いしても、娘の幸せを考えるなら婿取りしかないと、意見を変えなかった。」
「お父様…」
「だからね、外堀から埋めたんだ。」
「はい?」
「公爵にわからせてあげたんだ。君を心から好きな男と結婚すべきであることを。」
「えーと?」
「あ、着いたよ。」
エリナは訳がわからないまま、促されて馬車を降りた。
そこは王宮であった。
「さぁ、こっちだ。」
ロイドはエリナの手を引いてどんどん進んでいく。
「あの、ロイド様。こちらは王族の方々の居住区域では…」
「そうだね。さぁ、着いたよ。」
ロイドが扉を開けると、そこは豪華だが居心地の良さそうな広々とした私室であった。
「僕の部屋だ。」
パタン
『え、護衛の方はまだ外なのに、ドア閉めちゃうの?』
エリナはオロオロした。
一般的に、独身の高位貴族の女性は、男性と二人きりにならないように教えられるからだ。
「あの、ロイド様…」
ロイドの美しい翡翠色の瞳がエリナをとらえた。
「エリナ、さあおいで。」
エリナはぐっと引き寄せられ、バランスを崩した。
すかさずロイドが抱きとめ、そのまま横抱きにした。
「ロ、ロイド様!!」
ロイドはエリナを愛おしそうに見て、そっとベッドに横たえた。
「エリナ、好きだよ。ずっとずっと君が欲しかった。」
「え、あの、ロイド様…?」
2時間後、ぐったりとしたエリナは、一糸もまとわぬまま、同じく一糸もまとっていないロイドの腕のなかで眠りについた。