21. 秘密
ビーディー教に関する記述は、実在する特定の宗教を批判するものではありませんが、ご不快になられた方がおらましたらご報告いただければ幸いです。記述を改めます。
ビーディー教とは、大陸中東部にまたがる国々の住民に幅広く信じられている宗教である。
宗派がいくつかあり、控室の絵画に見られるような「救世主の降臨」を信じる人々は「原理主義者」と呼ばれていた。
「原理主義者」は経典の教えを文字通り解釈する人々である。
「原理主義者」のなかでもとくに過激な人々は、救世主の降臨を起こすための条件を整えるために、経典に書かれている過去の出来事を再現しようと戦争を起こすこともあった。
彼らはそれを「聖なる戦争」と呼んだ。
たしかにビーディー教の経典には、ビーディー教の拡大や防衛のために信者は戦闘行為を行えると解釈できる記述があった。
ロイドは、チェンバレン侯爵は「原理主義者」であると睨んだ。
そしてビーディー教徒による国家統一を目指しているのであれば、貴族のなかに支援者がいるはずである。
ロイドの今の姿はペーター・フォン=ブルグ、生物学者である。
調査旅行として大陸中東部に行った話を出し、それとなく相手の様子を伺うことにした。
ロイドが大陸中東部に行ったのは外交の一環であり、あちらの生物に関する知識はないが、そこは何とかなるだろう。
「イジドアに行ったときなんですが…」
ロイドが大陸中東部の大国の名前を唐突に出すと、一瞬顔が強張った貴族が数人いた。
そして明らかに顔色が変わったのが、今ロイドの目の前にいるジェシカ・ヒル子爵夫人だった。
「あちらの国では、女性が抑圧されてるんですって?」
ヒル夫人は目をキョロキョロとさせながらロイドに聞いた。
「抑圧と呼ぶのか、庇護下に置くと呼ぶのかは、人によって解釈が変わるでしょう」
ロイドは微笑みを深くした。
「私は女性がお医者様にみてもらえないって聞いたんです」
「女性は夫以外の男性に肌を見せてはいけないので、戒律の厳しい国だと、女性医師にしか診察してもらえないということはあるでしょう」
しかし、とロイドは続けた。
「アブダンだと女性が仕事をを持つことを禁止しているので、女性医師は法的には存在しないことになる。そうなると、ヒル夫人のおっしゃるように女性は医師にかかれないということになりますね」
ヒル夫人は顔を青くした。
「この国がもしビーディー教を国教としたらどうなるのかしら…」
ロイドはさも驚いたというように両手を軽く挙げた。
「この国は信教の自由が保障されていますよ。そんな心配は不要です」
ロイドは安心させるように微笑んだ。
しかしヒル夫人は落ち着きなく目を逸らしただけだった。
*****
カラカラカラカラ
ロイドは帰りの馬車に乗るなり詰め物をしたブレザーを脱ぎ捨てた。
「ハァ、これすごい肩が凝った」
「お飲み物を」
セバスチャンがグラスを差し出す。
「ありがとう。唇の化粧が取れないように何も飲まなかったから喉がカラカラだよ」
ふぅと息をつくとロイドは話し出した。
「チェンバレン侯爵はビーディー教徒だ。恐らく原理主義者でもある」
「ビーディー教原理主義者とは…!」
セバスチャンは驚いた。
「貴族には少ないが、平民の20%はビーディー教徒だ。貴族では、辺境のナッセーラ子爵がビーディー教だったか。別に隠すことではないんだ」
「そうですね」
「隠すということは、原理主義者であると考えて間違いないだろう。ここからはだいぶ憶測になるが、異教徒を排除してビーディー教にもとづく国家をつくろうとしているのではないかと考えられる」
ロイドは控室で見た絵画について話した。
「詳しい計画は、セバスチャンに探ってもらいたい」
「かしこまりました」
「ヒル子爵夫人にアプローチしてほしい。少し押せば口を割りそうだ」
ビーディー教、楽しくなってきてついつい長くなってしまいました。ただ、恋愛要素薄めなので、次でサクサクっとビーディー教のところは終わらせたいと思います!




