18. デヴィッド・チェンバレン
隣国王都東地区。
エリナはD&D商会の前に佇んでいた。
『思ったよりも、ずっと立派な建物… 』
カランカラン
エリナは受付と思われるガラス張りのドアを開けて中に入った。
その部屋は、華美ではないが、品の良い調度品で飾られていた。
入ってすぐのカウンターにカタログがたくさんあり、その奥に顔の綺麗な大人しそうな女性が座っていた。
「いらっしゃいませ…」
エリナの顔を見た瞬間、女性の顔が青ざめた。
『ああ、この人がデヴィッド様の恋人なのか』
エリナはどこか冷静にその様子を観察していた。
女性は、亜麻色の髪をゆるく三つ編みにし、片側に垂らしていた。
それが何とも愛らしいのに、顔の造りが綺麗なので、妙な色っぽさもあった。
二人のあいだに沈黙が流れた。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
女性が恐る恐る口を開いた。
「デヴィッド・チェンバレン様にお会いしたいのだけど、いらっしゃるかしら?」
「主人にどのようなご用件でしょうか」
女性はキッとエリナを睨んだ。
「昔話をしたくて」
エリナは毅然とした自分自身の態度に少し驚いていた。
以前のエリナであったら、下位の者だろうが誰であろうと、攻撃的な態度を取られると怯んでいた。
だからこそ、クラスメイトに迫られてロイドに告白したわけだが…
「昔話…とは…?」
「私、デヴィッド・チェンバレン様に婚約破棄されましたの。彼はそのまま恋人とこの国に逃れてしまって、お話しできていないままなの」
女性は気まずそうに目を逸らした。
「彼が今幸せなら、別に邪魔するつもりはありません。ただ私は、なぜ彼が私を裏切ったのか、私の何がいけなかったのか、そういったことを知らないと次の愛に進めないのです」
エリナはこうしたことを見ず知らずの女性にペラペラと話している自分に驚いていた。
高位貴族の令嬢としてはしたないことを、何の躊躇もなく行った自分に。
それほどエリナは必死だったのだ。
一方の女性も、驚いたようにエリナをまじまじと見つめていた。
そしてスッと立ち上がると、深々と頭を下げた。
「エリナ・ストッケル様、本当に申し訳ございませんでした。ストッケル様は、何一つ悪くありません」
「いったいどうしたんだ?」
そこへ現れたのは、デヴィッド・チェンバレンその人であった。
背が高く、そこそこハンサムで人好きのする顔つきをしたデヴィッドは、エリナがよく知る少し困ったような表情を浮かべていた。
デヴィッドはエリナを見ると目を見開いた。
「エリナ嬢?!どうしてここへ?!」
「お久しぶりです、デヴィッド様。今、デヴィッド様の奥様にお伝えしたところです。私は別にお二人の邪魔をするつもりはありません。ただ私は、私の何がいけなかったのか知りたいのです」
「エリナ嬢…」
デヴィッドは痛ましそうに顔を歪めた。
長くなりそうなので一回切ります。寝落ちしなければ続きを今日中に、寝落ちしてしまったら明日の午前に投稿します!