14. エリナとタマラ
本日2作目!
学園の休み時間
「タマラ…仲直りしよう?」
アンソニーがタマラに話しかける。
アンソニーは何だかんだ真面目だった。
ロイドと約束した以上、任務はこなす。
タマラはチラリと訝しげにアンソニーを見た。
「エリナ様を懐柔できなかったからって私と関係を築き直そうと?」
アンソニーは眉尻を下げてタマラの髪を一房取る。
「タマラは結局俺よりも殿下のことが好きだから。結局この関係は政略なのかと。どうせ政略なら、より利益の多い縁談を、と思ってしまって」
「それで政略で私とやり直したいと?」
「タマラ、一つ確認してほしい。俺は嘘をつかないようにしている。俺は頭がキレる方ではないから、嘘をつかない方がいいらしい」
「そうね、貴方は素直で犬みたいなところが憎めないわ」
アンソニーは美しい顔を悲しそうに歪めた。
タマラは顔を赤らめた。
アンソニーは顔だけはめちゃくちゃに良いのだ。
悲しそうな顔をすると、ゾクっとするほど色気があった。
「嘘偽りなく言う。俺はタマラのことを一番美しいと思ってる。それに結構好きだ」
タマラは、美しい顔のアンソニーにそんなことを言われてドキドキしてしまっている自分のチョロさを悔やんだ。
「何よ!ちょっと顔がいいからって!」
タマラは走り出した。
「うーん、なかなか脈アリ?」
アンソニーはタマラの後ろ姿を見送りながら微笑んだ。
*******
エリナが廊下を歩いていると、いきなり角を曲がってきた華やかな女子にぶつかられた。
二人は倒れ込み、エリナはその令嬢の下敷きになった。
「い…痛い…」
「嫌だ!エリナ様?!」
エリナが令嬢の顔を見ると、それはタマラだった。
「タマラ様…」
エリナはタマラに壁ドンならぬ床ドンされている状態だ。
下から見る髪の乱れたタマラは、息を飲むほど美しかった。
タマラはさっと立ち上がると、エリナを起こしチラリとその顔をうかがった。
「お怪我はなくて?失礼したわね」
「いえ、大丈夫です」
「あなた、婚約したそうですね」
「はい」
無表情なエリナを見て、タマラはカッとなった。
「何で嬉しそうじゃないの?!ロイド様と婚約したと言うのに!あなたロイド様の妻になるのよ!天にも昇るほど幸せなんじゃなくて?!」
エリナは驚いてタマラの顔を見た。
タマラは怒りで顔が紅潮していた。
『幸せ…うん、幸せなのかな。でも戸惑いの方が大きいのかも…』
エリナは冷静に自分を分析した。
タマラはエリナの張り合いのない様子に、自分の感情が抑えられなくなっていることに気づいていた。
それでも、こんなロイドの有り難みのわかっていない女に彼を奪われたと思うと、涙が込み上げてくるのを止めることができなかった。
エリナはタマラがハラハラと泣き出したのを見てギョッとした。
「タ…タマラ様?」
「私、貴方が大嫌い。親の爵位の低い私から言うのは不敬だわ。でも伝えないとやってられない。
貴方は、ロイド様の側にいられることがどれだけ幸せなのかわかってない。そんな貴方に王太子妃、ひいては王妃の役割が務まるのか私には疑問だわ」
エリナは目を見開いた。
タマラは言い切ると、気まずそうに顔を逸らした。
「大変失礼な発言を申し訳ございませんでした。失礼いたします」
タマラは踵をかえすと現れたときと同じように素早くいなくなった。
残されたエリナはポツンと立ち続けていた。
「私がロイド様に恋心を抱いていることは間違いないけど…」
エリナの瞳に涙がにじんだ。
「まだ婚約破棄のことを乗り越えられていない。頭を切り替えるべきだとわかってるけど、私はそんなに器用じゃない…」
エリナは毅然と前を向いた。
「私、やっぱりあの方に直接会ってお聞きしないと。なぜ恋人と駆け落ちしたのか。なぜ私に何も言わなかったのか」
明日も2-3話更新を目指します! 読んでくださった皆さま、おやすみなさい。良い夢を♪