プロローグ 「血濡れの紫陽花」
これは僕が・・・異世界に転移する前の話
僕が神さまを大嫌いになった理由
僕がいたこの世界は、普通の世界だった
16歳の高校一年生、前髪の一部を結んでいるショートカットの黒髪の少女が学校の校庭の紫陽花を見ていた
僕は八尋結、神社の跡取りとして生まれた
運動が得意で剣道の大会で優勝したりとか勉強も成績良くて料理や工作も得意で周りからは天才美少女とか言われたりするけど、別になんのことない雨が好きなただの普通の子供だと思う
大好きな両親と、祖母と祖父、弟のとまりのと妹のひまわり、それと兄の刀也が一人
普通の家族みたいに、家族で食卓を囲み談笑する
学校へ行き、部活動や友人と遊ぶ、毎日が変わり映えしない日々
「ねえお父さん、神様って何で助けたり助けなかったりするの?」
「うーんそれはね・・・神様は気まぐれだから、かな」
昔から、神さまという存在に懐疑的な自分だった
神社には、お祈りする人がよく来る
でもそれは神さまにお願いを叶えて欲しくて救くって欲しくて
でもお金なんていれても救ってくれくなて
救われる人もいるけど救われない人もいる
いじめも虐待も不幸な事件や事故も全て神さまが決めてるんだろうか
なんで人を不幸にするんだろうか
そんな神さまの存在が疑問だった
「おねーちゃん、お誕生日プレゼント!」
「私も!」
「ありがとう、綺麗な色の傘だ」
「このお花も綺麗だね」
弟と妹から、誕生日のプレゼントを貰った
綺麗な色の傘と、紫陽花の花
だけどそれは今日までのことだった・・・
その日は雨が降っていた
ある日突如として現れた、現代世界に侵略してきた魔物・通称テラーと呼ばれる存在
その存在が確認され一年
でも、そんなもの軍隊がやっつけてくれると思った
関係のない出来事だと思っていた
だけど魔物の前に軍隊も無力だった
学校の下校時間に起きた出来事
私は、突然現れた化け物に襲われ逃げることしかできない、友人も知り合いのおじさんもおばさんも襲われる
命からがらたどり着いた、家
そこには最悪な光景が広がっていた
怪物は一瞬で私の大切な物を奪っていった
家族の住む家が・・・
境内は崩壊し、ご神木が薙ぎ倒され石で出来た頑丈な灯ろうや狛犬さえ粉々に粉砕されや神社の全て滅茶苦茶に壊されていた
私はまだ半壊状態の母屋へと向かう
お願い
どうか全員無事でいて・・・!
そんな私の気持ちをあざ笑うかのように運命は・・・いや神さまは残酷な現実を突きつけてきた
水溜まりに流れる赤い色の血液
壁や床に飛散する血痕
兄の姿は見えない
両親や祖父母が地面に倒れていた
祖父は背中を化け物の爪で抉られ、祖母は胸に穴が空いていた
お母さんは胴が二つに切り裂かれていた・・・
お父さんは首が切られ無くなり、その首がこちらを向いていた
僕は声にならない声を出し
壁に背をつけ座り込む
声が聞こえる・・・
この声・・・
とまりとひまわりの声!
まだ生きてる!
僅かな希望にすがる僕は、声の方へ必死に走る
そこには・・・
目の前を見ると・・・
三メートルはある人型の山羊のような見た目の化け物
その化け物の手に捕まってるとまりがいた
とまりは頭から血を流している
「おねーちゃん・・・」
辛うじて意識がある
その下にいるひまわり、足を怪我している
雨なのか涙なのか分からないくらい顔を涙で濡らしながら
姉である僕へ助けを求める
「おねーちゃん・・・助けて!とまりが・・・!」
僕は無我夢中で傘を鈍器として、化け物へ向かう
傘を化け物へ叩きつける
「放せっ!・・・・・放せよ!」
何度も何度も
だけど、化け物はびくともしない
化け物が僕に気づいた
「ああ・・・・あ」
怖くて足がすくむ、声がでない
化け物は鋭い爪がある腕を、僕に向かい振る
速くて避けることもできない
何もできず僕の体は傘と一緒に引き裂かれる
突き飛ばされ地面へと叩きつけられる
僕の傍に折れた傘が乱暴に投げつけられる
僕が倒れた時に下敷きになった紫陽花の花が潰れる
傷口から出血した血が紫陽花を鈍い黒い赤に染め上げる
薄れゆく意識の中、絶望の光景を目の当たりにした
化け物の鋭い爪で切り裂かれるとまりとひまわり
意識が遠のくもはや弟達の声さえ届かない
神様へお願いした・・・
必死に・・・何度も何度も
どうか私達助けて・・・せめて弟達だけども・・・助けて
その願いは無常
誰にも届かず聞こえず声も出せず
僕の意識は水溜まりの底へと沈んでいく
深い
深い水溜まりの底へ落ちていく
雨の中へ溶けていく