第2話「向かい来る影」
「…」
「蘇生さんっ、こっちにも死亡者が!」
「はい、今行きます」
…僕は心の底で思う
死亡した人間を蘇生させ、死という恐怖を無くしている
こんなあまい事言ってたらいけないんだと思うけど…
でも、やはり少々納得できない点があると思うんだ
そこに、メイドのアリシルさんが入ってきた
事前にフィレさんから紹介は受けている
「皆様、フィレ様より伝言です」
そう言うと、紙を開き読み始めた
「6名ほど、治療師は出撃部隊の援護に回れ。残りの者は、引き続き負傷者の治療を。蘇生は、死者復活の役割も兼ねて、ゾンビ達を増やし出撃部隊の援護…」
「無茶言わないでください。ただでさえ蘇生で忙しいのですよ?」
僕はつい、口答えをしてしまった
しかし
「ですが、フィレ様のご命令です」
「ならいいですよ!直々に文句言いに行きますから!」
「ですが、フィレ様は今資料を見つめ何か考え事を…」
「そんなの関係ありません」
「…わかりました。御用事なら、フィレ様にではなく、寮様にお願いいたします」
「相手の態度によりますけどね。第一、僕等に関係のない事じゃないですか…」
「…魔術界の」
「これは寮さんのためですがね、寮さんの頼みじゃなけりゃ断ってますよ。散々嫌われてきた僕等ですからね」
僕は何をカリカリしているんだろう
魔術師の戦争に巻き込まれた事?
魔術師の都合に乗せられた事?
よくわからないけど、僕はモニター室へ乗り込む
すると、驚いた表情の寮さん、そしてそれを無視し資料を見つめ、モニターを見つめと忙しそうなフィレさん
「る、ルカ…。わざわざこんな所へ何しに?」
「文句なら、聞かないわよ」
その冷たい態度に、僕はマジギレしそうになった
でもここで騒ぎを起こせば大変な事になるのは間違いない…
「…ぼ、僕…、今手が空いてなくて人手がほしいなって思ってたとこなんですよ!そこで…」
「手が空いてないなら自分の仕事に戻りなさいよ。それと、封印は出さないわよ」
ただでさえストレスのたまっている僕に対し、こっちを一歩も向かず仕事に集中している
思わず技を解放しそうになる僕…だったが
「…フィレ、お前は引き続き調査を。ルカ、お前にはその方がいいと思う…が、絶対美里を守れ」
「え、あ…。はい」
「ちょっと寮!ここで封印をバテさせたら…」
「大丈夫。それに…お前だって、いや。皆この状況、ストレスたまってんだ。オルフェリトの怒りを買って殺されたくないだろ?」
「う…。そ、そうね。寮がそこまで言うなら…。私、まだ命惜しいから。…アリシル、聞こえてる?」
モニター画面にアリシルが映った
「はい、何でございましょう?」
「封印を、今すぐ治療室へ案内しなさい!これは私の命令って事じゃなく、寮の命令って事で伝えといて。あと、蘇生がそう望んだからって事もね」
「かしこまりました。…お仕事の方、がんばりくださいませ。失礼します」
通信を切って、寮さんに資料を押し付け始めた
「寮、あんたは私の仕事をやってなさい。私は戦闘に出る」
「え、おいっ…相手は…!」
「…その前にお仕置きも必要かしら…ここでは私の命令絶対って、わかってるわよね」
すると、倉庫からライフルとマシンガンを取り出す
「恐怖を味わいなさいっ!」
「いや、あ…お前の仕事は全部片付けとくから!だから今暴れ…」
「問答無用!」
僕はその場をそーっと離れ、扉を閉める
『覚悟しなさぁぁぁぁいっ!』
『どぉぁっ!ここでやるな!当たったらどうすんだよ!』
『魔術でどうにかしなさいよ!』
『んな事…っ!』
数秒の間が空く
すると、中から物凄い爆発音と叫び声が聞こえた。
『ぎゃあああああああああああっ!』
中から出てきたのは、スッキリしたような顔をしたフィレさんだった
「ふ〜。罰完了!さ、あんたも突っ立ってないで行くわよ」
「…はぁ。フィレさん、魔物相手に科学が通用すると思いますかね」
フィレさんの持ち出した道具に目をつけてみた
…帰ってきた返答
「効かなかったらその時でしょ。ま、当てにはしてないけど…。弾丸全部吸収〜なんちゃってね」
「…これは昔の僕だったら…ですけど、銃が魔物に効いてたらとっくに魔物を人間界送りです。魔物を流して人間に片付けてもらえば手間が省ける」
「そうよね。その手もあるわね。少し同意してあげるわ」
「ほんとに、あなたって人はわからない」
「見かけによらず私、結構黒いから。気をつけなさい」
「…そうですね、僕もあなたに気をつける」
「まぁ、素直すぎてイジリたいくらいだわ」
「僕、素直ですから」
そんな会話をしつつ、治療室へ戻った僕
門の所へ行くには、治療室前を通らなければならないのでフィレさんと来たわけなのだが
妙に静かだった
「…普通なら負傷者の痛々しい叫びが聞こえるんだけど…おかしいわね」
「何事、でしょうか」
僕がドアを開ける…すると
残っていた治療師メンバーは全滅している
それに、横たわるアリシルさん、怯える美里さん
美里さんの目の前に立っている黒いスーツを着こなした男
…ん、黒いスーツを着こなした…
まさか…まさか、あの人が来るはずは
フィレさんは、アリシルさんの所へ駆けつける
「アリシルっ!…あなたね、私の大事なメイド、アリシルに傷をつけた奴は」
「ほう、君がここのボスかい?」
「ま、そう言った所。封印に手を出すつもりかしら?だとしたら許さないんだけど」
「いや。上からの命令でな、治療師を全滅させろとの事だ。邪魔者が増えてうろちょろされては敵わんからな」
「ふぅん。ま、正しい判断かもね」
「…うむ、死亡者を蘇生する奴がいると聞いたんだが…そいつも潰さないとな。どこにいるかわかるか?」
「いやいやいや、少しは周りも見渡したらどう?」
「そう言って…」
「影薄ッ、あいつ影薄ッ!」
男の反応と、フィレさんの言い様が胸に突き刺さる
何だか鬱になりそうだった
「む…?」
男がこちらを振り向いた
「いたのか!」
「いましたよ、さっきから!」
「ルカ…!いたんだね!」
「いましたよ…さっきから」
男の発言と美里さんの発言がダブルで突き刺さる
精神的に崩れそうだった
「…それより。来ていたんですね。やはり魔界から」
「あぁ、そうだとも。我が弟よ!迎えに来たぞ!」
「えっ、えぇぇ!?あんた達兄弟!?うわ、似てねぇ」
フィレさんの発言は兄さんに突き刺さった様子
僕は結構すがすがしい顔していた
「ひ、酷いな。どこが似てないって言うんだよ」
「え、影薄と何か目立っちゃってる所?強情と控えめ?敬語とタメ口?」
なんだかな…と言いたかったが、僕と兄さん。胸に突き刺さりまくり
「あとは〜…、あ…似てるといえば!背と天然!」
しばらくの沈黙。
そして兄さんが
「あっはっはっは!そうだろ、そうだろ!似てるだろっ!」
「うわ、何コイツ。きめぇ」
フィレさんのショックな一言
「…ずーん」
兄さん、とうとう精神崩壊。自分で効果音言いながら隅で体育座り
「ガキかあんたは!」
またもフィレさんの先制?攻撃
そして僕は断ち切る
「もうその話はやめてくださいよ…」
「それもそうね、本題よ」
「…兄さん、何を企んでいるんですか」
そして兄さんは立ち上がり、言った
「企んでいる…?そんなに聞きたい?うん、いいよ、ルカにだけ教えてあげる」
「うわ、こいつきめぇ。マジきめぇ」
フィレさんの言葉にまたも
「…ずーん」
「うわー…なんか付き合いにくいよこいつ。あんたこんな兄持って苦労しない?」
「苦労ありあり。ベタベタ気持ち悪いですよ」
すると兄さん。こっちを向いて、企みを暴露
「俺の企み。それは魔界を手助けする行為なのだ」
僕達は息を呑んで兄さんの発言を聞く…が
しばらくしても兄さんはかっこうつけたままだんまり
「…そんだけかい!」
フィレさんのキックは兄さんの腰に激突
「だって、企み聞きたいんでしょ!だから言ってあげたじゃん!」
「全部吐けやゴルァッ!殺すぞてめ、魔界ぶち破るぞてめっ!」
激しいフィレさんの言葉
…改めてわかった。フィレさんの恐怖。寮さんが怖がるのも無理ない
「…うるさいなぁ。もう。うるさい女の子は嫌われるよ?」
「んなっ!…うぅ」
胸倉を掴んでいたフィレさんは離す
兄さんの殺気に気付いたのだろう
「ま、いいや。俺が話した所で止まるわけじゃねぇし」
そう言うと、服を整えて喋り始めた
「オルフェリトの増幅」
その一言。僕は驚く
「知ってのとおりオルフェリトは、各種類1人のみだ。だが俺は成功させた…。新オルフェリト作成と、増幅に」
「ちょ、待ってください…。それは…」
「…新たな種類のオルフェリト。そしてオルフェリトが増える。世はオルフェリトだらけとなり、科学などに頼らない世界を…」
「兄さん!そんな事したら世界のバランスが…!」
「なぁに、面白いではないか」
その一言…僕は兄さんに激しい怒りをぶつけた
「…あなたは…人間を何だと」
「んー…どうだろ?おもちゃ?俺の遊び道具」
「僕は、僕は絶対…!」
その時。フィレさんが僕の前に手を出す
「フィレさん…?」
「…魔物さん。世界を崩そうとするのはご勝手だけど、何故魔術界を?」
「なっ、何を言ってるんですか…フィレさん」
「それこそ魔界の企み。世界バランス崩壊は俺の企み。バランスを崩すのは君等魔術師がとっても邪魔なんだよ。ま、俺に言われた理由はそれだけど、もっと別の理由があるに違いねぇ」
「そう、わかったわ。で、世界バランス崩すの楽しい?」
「あぁ、そりゃもう。人間の悲鳴聞こえるよ。でも人間、力を手に入れた後は物凄い歓喜するんだ。いやぁ、まさに世の中力だねって思わされてさ」
「…悲鳴?…それは、オルフェリトをつくるに当たって人間をどうかしちゃうわけ?」
「人間に我々の魔力を掛け、体内を狂わせ衝撃を与える。その時、負担が肉体へ大きく掛かってしまう…。だが、その痛みを乗り越えたら…その先に待つのは楽園。力!」
「ふぅん。そう、あなた達の目的わかった」
楽しそうに言う兄さんを見て、僕は耐えられなかった
「…兄さん…やっぱり、僕は…っ!」
「…ルカ。俺ガッカリ。何でこの理想わからないのかなぁ〜」
その時、鋭い痛みが腹部に走る
「…どう思う?この力の差。蘇生はやっぱ、治療師レベル。攻撃面じゃ何の役にも立たない」
「っ、うっ…兄さんっ…僕はっ。ぐぁっ!」
倒れる僕の背中を踏み付け、睨む
その時の視線は…とても痛かった
「…ルカならわかってくれると思った。でも無理だね、人間と関わったお前は昔を忘れてしまった」
「…人間、だって。悪い人ばかりじゃないんです。兄さん、だって…。僕がオルフェリトってわかった瞬間…見捨てたくせに」
「…ッ。あれは…仕方なくだ、俺だって魔物ってわかった瞬間見捨てられたさ!どうして世界は…俺等みたいな奴を拾ってくれないんだ」
兄さんは一瞬、昔のような顔を見せた後僕に乗せた足を下ろす
「…皆同じさ、あぁ同じだよ!俺を大事にしてくれるのは…、気持ちがわかってくれる人は魔王様しかいないんだ!」
「つまり。頼る人がそんなやつしかいないんですよね。不思議です。同じ道から歩み始めたのに、道を間違えると人ではなくなる」
「そうさ、そうだよ。俺は傍にあの方さえいてくださればいいんだ。どんな侮辱を晒されてもいい。精神が壊れてもいい。操られても血の繋がった血族を殺してもいい…!」
その言葉に酷く打たれた
…兄さんは、母さん達に見捨てられこれほどにまで苦しかったんだ
僕は今こうして、美里さんに救われている…けど、放りっぱなしだとこうにまでなるのか
…うぅん、ただ道が逸れてしまっただけ
今からでも戻れる。…そう思いたかった
でも兄さんは
「…ルカ。お前も望んだ通り、あのバカな親共を殺したぞ」
「えっ…」
「何を今更驚く。お前も望んでいたじゃないか」
「…兄さん…僕は」
「出来ればお前まで殺したくないよ。でも…昔みたいに言葉で何でもしてくれる奴じゃないんだろう?」
僕はとっさに身を守ろうとした…だけど、やっぱり…
攻撃に優れていない蘇生では、勝ち目が無かった
「…っ、早いッ!」
「…これはお前を連れて行く最後の手段だ。悪く思うなよ」
僕の首を掴む。そして猛スピードで壁に強く押し付けられた僕は
その激痛に悲鳴を上げる事しか出来なかった
必死に兄さんの手を離そうともがいたが、手に力が入らない
所詮…蘇生の力じゃあ。…そう僕は諦めた
「蘇生、伏せなさい!」
フィレさんの声が聞こえる
僕は言う通りに伏せた
「…ちっ」
兄さんはドア側から発射する棘をよける
「…蘇生、ごめんなさいね…助けなくて。美里ちゃんは助けようとしたのよ?でも私が彼女を止めたの」
ふとドアの方を向く…すると
「すっごいスピードで本部に向かったからさ、マジ驚いたよ。…ねぇ、魔物」
凄い人相で睨むルインさん
そして兄さんは
「崩壊…か。…今日はこれくらいだ。ルカ、また会いに来るからな!兄さん楽しみにしてるぞ〜っ!」
それはどんな意味で会いに来るのか
あまりの陽気な言い方に、寒気がしてならなかった
「ルカ、大丈夫か?…遅れてすまねぇ」
「いえ。…僕は大丈夫ですよ」
「無理すんなって!ほら、今の奴に押し付けられて…」
「無理して…ませんから。僕なんかに気を遣わないで」
「…ほんと、どうしたんだお前。顔色悪いぞ」
「…ごめんなさい。…ルインさん、僕に近寄らないでいただけます?今、凄く気分悪いので」
「え、あ…すまん。俺って〜ほら、雰囲気とか読めないタイプだから!」
――僕はここに来て、初めて嘘をついてしまった
気分が悪いのも嘘。無理していないのも嘘…気を遣ってほしくないのも嘘。
最初フィレさんに文句を言おうとしたつもりなのに…
手が空いてないって、更に嘘をついた
僕は嘘を付く人が嫌いだ。
…でも、僕だって今…こうして嘘をついている
――僕は最低の人間だ
本当に、最低な…
続く




