~女神の広間へ~
案内役のトオルを前にして、シルトとアリサは並んで歩く。大小石ころが転がり、ゴツゴツとした岩がある女神の庭を通って行く。
「寂しいところね、シルト」
「うん。そして、草1本もない厳しい場所だね」
シルトはアリサに答えて、思う。女神は金月花を欲しがる者を快く思ってない。女神の3つの試練は、とても辛いものに違いない。今まで金月花を手に入れることができなかった者が、ガッカリと肩を落としてしまう気持ちが、なんとなく、わかる。最初から、拒まれている。
「シルト、下を向いてるよ?」
アリサが心配する。アリサからしたら、予感が的中した。10歳のシルトからしたら、灰色の岩ばかりの、とても辛い景色。月の表面もゴツゴツと寂しい世界だけど、シルトの住んでいる地下は、穏やかな世界に違いない。
そんなアリサも11歳なのだが。
アリサは水泳が好きで、ずっと鍛えてきた。厳しい訓練も耐えてきた。好きだから、がんばれてきた。だけど、今はーーー。
「どうしたの、アリサ?アリサも下を向いてる」
シルトの声で、アリサは、はっとした。自分が考えこんでる場合ではない。
「ごめんね、シルト。考え事をしただけよ」
アリサは顔を上げる。
「ふたりで、顔を上げて進もうね!」
「そうだね!」
3つの試練のチャレンジャーらしく。
「さて、元気が出たみたいだね!」
少しの間、黙って歩いていたふたりを、コッソリ心配していたトオルが言う。
「女神様の住まいへようこそ!!」
ふたりは、洞窟の前には立っていた。
「この洞窟に女神様が住んでるのね」
アリサもシルトも、洞窟の中を見ながら歩く。
洞窟の中は、光る苔でいっぱいだ。明るくて、歩くのに何の心配がない。
「どこまで歩くのかな?」
シルトが言うと。
「すぐに広間に入るから、心の準備をしてね!」
トオルが深呼吸する。
シルトとアリサは緊張してきた。
「心の準備、必要そうだね・・・。僕たちも深呼吸をしておこうか」
ふたり共、ゆっくりと顔を見合わせて深呼吸する。
「じゃあ、ふたりを広間に通すから」
トオルが歩いて行く先が揺れて、姿が見えなくなった。
「行こう!」
シルトがアリサに声をかけ、ふたり一緒に足を踏み込んだ。