~ラトナ山を登る~
目の前のラトナ山に、足場になりそうな場所がある。
シエルとがそこに着地しようとしたら。
何かにぶつかった。
「え?」
シルトが驚く。
「壁がある!」
アリサが目の前に手を伸ばして、触る。
何もないはずの空間に、見えない壁がある。
「本当だ。これはラトナ山に、簡単に月うさぎが登れないようにしてあるんだ。月うさぎは空を飛べるから。人間は麓から登らなきゃならないけど」
シルトは前足で見えない壁に触りながら言う。
「じゃあ、私達も麓から登って行かなくてはならないのね」
アリサも壁に触って言う。
「うん。それしかない」
シルトは山の麓を見る。
「それなら、麓に降りましょう」
アリサとシルトを見つめ合う。
ふたりは山の麓へと降りて行った。
シルトとアリサは、ラトナ山に一番近い小さな町の側に降りた。ここからなら、山に登って行く道も近い。
「登山の支度でも持ってくれば、よかったわ。」
アリサはラトナ山の頂上を眺めて言う。
ラトナ山は、麓はハイキングコースがあって楽しいが頂上に登るにつれて険しい山だ。寒い頃は雪が降ることもある。
「僕も、頂上まで行けるかなぁ」
シルトも呟く。月うさぎだから、地上の重力に慣れてない。どれほど、ラトナ山を登れるか、わからない。
「辛いだろうけど、登ろう!」
シルトは、気合を入れて言う。
「がんばろうね!」
アリサも言葉に力が入る。
ふたりは山に登って行った。
歩き始めてから、しばらくは満月の月明かりで安心して歩けた。
だが、道を進んで行くにつれて、木々が月明かりを遮っていく。
シルトもアリサも、だんだんと不安になる。
そして、道が三叉路になる場所へと、出てしまった。
「どの道なら、ラトナ山の女神様に会えるのかしら?」
不安な声で、アリサが言う。
「う~ん、頂上を目指すしかないけど、どの道も上に行く道だ・・・」
シルトが頭を抱える。
すると。
ガサガサ。
「!!」
シルトとアリサが、草をかき分ける音に気付く。
ガサガサ、ガサガサ。
恐怖で、シルトがアリサに抱きつく。
「イエーイ!!」
大きな声が山の中で響く。
「「きゃあ~~~っ!!」」
アリサもシルトに抱きつき、ふたりで悲鳴をあげる。
「満月の訪問者達。ラトナ山へ、ようこそ!!」
その大声の持ち主の方へ、ふたりは目を向ける。
そこにいたのは、月うさぎのシルトよりも小さな、きらきらとした黒い眼をした灰色の毛のねずみだった。