~ラトナ山へ~
アリサは星空の中を飛んでいた。シルトと手をつないで。
「シルト、ラトナ山が見えてきたわ!」
肩までの髪をなびかせて、アリサが叫んだ。
「うん。アリサ、見えてきた!」
シルトも興奮気味に叫んだ。
アリサの住む街コーテから北、国の真ん中より少し東にある、高いラトナ山の黒いシルエットが見えてきた。
飛んでいくにつれて、黒いシルエットが大きくなっていく。
「ラトナ山の、どこに降りるの?」
アリサがシルトにたずねる。
「このまま真っ直ぐ、降りれる場所を探そう」
シルトが赤い眼で、アリサの顔を見て答える。
アリサは、シルトに付いて行くことに決めた。
シルトに幼なじみのニーナへの優しさ、地上に降りてきた勇気をみた。
そのシルトが怯える、「金月花を持つ女神」が与える「3つの試練」がどんなものか。シルトに聞いてみた。
昔、「願いを叶える金月花」を求めて、何羽もの月うさぎがラトナ山へ向かった。月うさぎと仲の良かった人間も、己の願いを叶える金月花を求めてラトナ山へ登って行った。皆、故郷には帰れてるものの、失意に落ちていった者が多いと言う。
そして、金月花を手に入れた者は、どんな試練を受けたかは話さない。どんな願いを叶えたのかすら、話さない者もいたという。ただ、「試練は人それぞれだから」と言うだけ。
アリサは、シルトが心配になった。
シルトは10歳。
10歳のシルトが「3つの試練」に耐えられず脱落し、その先にずっと苦しむのは、想像しただけでも悲しい。
ラトナ山の女神様は厳しいのかもしれない。
「シルト、私も一緒に行っていい?」
アリサはシルトに言う。
「アリサまで、苦しんじゃう!厳しい試練が待ってるのに!」
シルトは叫んだ。
シルトには、アリサが優しい女の子なのが、よく分かった。だからこそ、傷つけたくない。苦しい思いをさせたくない。
「僕が受ける試練なんだから、僕は1人でも行ける!さっき泣いていたのは、僕が弱かったから。もう、泣き虫にならないよ!」
シルトは必死にアリサを止める。
「もう、決めたの。試練の苦しみを半分こにしよう。シルトは10歳、私は11歳。これで、大人1人分にしてもらおう!」
覚悟を決めた真剣な目のアリサを、シルトは止められなかった。