~出合い・前編~
月が明るい。
カーテン越しでも、薄っすらと明るい。
今日はきれいな満月だ。
なかなか、眠れない夜。
私はベッドから起き上がり、膝を抱えて座り込む。
眠れないのは、満月のせいだけじゃない。
私は水泳が好き。泳ぐのが好きだ。水泳が楽しくて好きという気持ちだけで、今までは泳いできた。
だけど、最近はタイムが伸びずに、友達に追い越されるようになってきた。
正直、焦ってる。
友達がライバルになってきてる。
勝ち負けがすべてではないし、友達も好き。
友達も水泳も好きなのだけど、友達に水泳で負けるのは嫌で、それが友達を裏切っているようで私の胸をチクチクと刺す。
私は、さらに膝を抱えて丸くなる。
外から、シクシクと小さな泣き声が聞こえる。
家族は眠ってしまっている。
誰⁉
怖いのだけど、ちょっとだけカーテンを開けてみる。
窓の外には花壇があって、色とりどりのジニアの花が咲いている。その先の庭に、月の光に照らされて小さな影が見えた。
私より小さな影は、丸まって泣いていた。
大きな耳があって、毛がフサフサしているみたい。人間じゃない。
うさぎ⁉
うさぎが、人間のように泣いている。
私はビックリして、動けなくなった。
そのまま固まっていると。
うさぎが顔を上げた。
あ。
顔を上げたうさぎと、目と目が、合っちゃた・・・。
僕は月うさぎ。月の地下に住んでいる。
幼なじみのニーナのために、僕は人間の世界に降りてきた。幼なじみのニーナは、心臓病だ。月うさぎの病院では、もう治せない。
地上の「奇跡」に頼るしかない。
満月の夜に、月の砂漠から地上の月の砂浜に降り、ラトナ山に行く。
ラトナ山には女神がいて、「3つの試練」を与える。
その試練を乗り越えれば、「奇跡の願いを叶える金月花」を持ち帰る事ができるのだ。
僕は、地上に降りられた。ラトナ山の場所も分かっている。
ただ。
僕は、「3つの試練」が怖くてたまらない。「奇跡の金月花を持つ女神」は、どんな試練を僕に与えるのだろう。足がすくんで、動けなくなった。
ここまで来たのに、僕自身が情けなくて涙が出てきた。小さく丸くなって、泣いた。
ちょっと泣いて疲れて顔を上げようとしたら、人間の家から小さなスーッとした音がした。
カーテンが少し開いていた。
視線を感じる。
人間の女の子が、ビックリした顔で僕を見ていて、目と目が合った。
こうして、1人の人間の女の子と1羽の月うさぎが出会った。