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静まり②

あの黒木凌の事件から今日で一週間が経った。先生から休みも貰えゆっくりしたようで慌ただしい一週間だったな…。



手の傷も大分塞がり昨日私が縫うより嫌で怖かった抜糸の時がやってきたのだ。絶対痛いと駄々を捏ねながら母に引きずられ病院へ向かう。



待合室でどんより座っている私の元に土曜日で学校が休みのエミと凛が来てくれた。



「エミと凛!」



「やっほー!アリス具合はどうよ?」



「顔色悪いけど大丈夫?」



どんより肩をガクッと落としてどんよりしている私を心配してくれている。抜糸が怖いなんて流石に恥ずかしい…




「あらエミちゃんと凛ちゃん!」



なんて言おうか頭をフル回転させる間に

自販機に飲み物を買いに行っていた母が戻ってきて2人に笑いかける



「こんにちは!おばさん」



「アリス顔色悪いですけどなにかあったんですか?」



あぁ、と待合室のソファ座っている私を上から見つめながら苦笑いする



言わないでとフルフルと頭を横にふる


ニヤッと企んでる顔をしたなと思った頃には既に遅かった




「咲桜ったら抜糸が怖いんですって」



そう答えた母の返答を思いもよらなかったエミと凛は顔を見合わせて無言になる



じわじわと笑いが込み上げてきたのか口元を一生懸命押さえて声を押し殺しながら笑う2人



「いや、アリス!今更すぎるって」



ウハハッと少し吹き出しながら笑う凛の次にエミは



「そうだよ!手切った時も縫う時もなんにも言わなかったのに」



そんなに面白いのか2人は息切れしたながら笑っている。そんな中私は恥ずかしい思いとあらごめんなさいと言わないばかりの嫌な顔をする母。絶対今顔真っ赤だよ私



「いや…だってあの時は他のことに気を取られてたから、ねぇ?」



「まぁ麻酔してくれるみたいだし大丈夫よ。」



肩をパシパシと叩く母を横目にため息をついていると私の手を縫う時も検査入院の時もお世話をしてくれた看護師さんが予備に来てくれた。



「有栖さん!抜糸のお時間ですよ〜」



恐る恐る診察室に入ったけれどやっぱりベテランの先生と看護師さん達。麻酔もしっかりと効いて痛みもなく手早く抜糸をしてくれた。

さっきまでの自分が恥ずかしい…



傷口を見て担当のお医者さんが



「ちゃんと傷もふさがってますね!流石高校生の免疫力ですよ!」



そうハハハと大口で笑うお医者さん。



「先生も看護師もありがとうございました。」



「はい!また何かあれば来てくださいね。」



お医者さんと看護師にぺこりと一礼して診察室から出た途端一気に緊張が溶けるこの感じ…やっと終わったぁぁ!




待合室で待っていてくれたエミと凛と母と合流し会計を済ませるために1階まで降りる。



「じゃあ咲桜!お会計してくるから!」



はーいと返事をして一足先に病院の外へ出て3人でベンチに座って待っていた時に病院の出入口の自動ドアが開くと同士にバタバタとこちらに走ってくる人物。



誰だろう



私達のベンチの前で止まったその人物は井上先生だった。いつもスーツ姿なので土曜日ということもありいつもに比べればラフな格好が違和感があり気づかなかった



「有栖さん!」



「え、あ、はい!」



「成瀬くんがあなたにお礼が言いたいと今そう言っていたので呼びに来ました」



「え?成瀬くんがですか」



何事かとびっくりしていたが予想を遥かに上回って一瞬思考が停止した



「えぇ、病室は変わり312号室に移動になりましたので。これから予定あったりしますか?」



「いえ、これからは予定ないですが…」



「では良ければ成瀬くんの所へ行ってあげてください。俺はこれから学校に戻らないと行けなくなりましたので付き添いは出来ませんが…」



「わかりました。ありがとうございます」




「後、面会は貴方だけとの事だったので申し訳ないんだ…」




凛は井上先生の顔を見て分かってましたと言わんばかりに頭を2回縦にふった



「じゃあアリスうちら先帰るわ」



エミも立ち上がり履いていたスカートをはたきながら



「ばいばいアリス!月曜日学校でね!」



2人は病院前のバス停へと向かっていった



「では俺もそろそろ失礼するよ」



「はい。ありがとうございました。」



先生は車で学校まで向かうようで駐車場へと急いでかけていった。



お会計の終わった母にも事情を話し先に帰ってもらうことにし、成瀬くんの病室312号室へと向かう。



ここ数日ですっかり慣れてしまった病院内。いつものようにエレベーターで三階へ。いつもと違うのは病室だけねとエレベーター内の病室が書かれた案内プレートを見ていると三階に着いた。



チンッとエレベーターの扉が空くとそこは、一角で作られた自販機があったり公衆電話にソファといった小さな休憩スペースがある。



ふと自販機の隣のスペースに目をやった時以前廊下ですれ違った栗色のブロンドヘアの女性が右手のコーヒーを飲みながら左手でスマホを触っていた。



私は何故か気まづくなり素早くエレベーターから降りて病室まで向かおうと廊下の曲がり角を曲がるどうやら逆方向のエレベーターをのったようで病室が私から見て318号室317号室316号室となっている。



看護師さんに挨拶されながらも312号室の前に着く頃にはもう心臓がバクバクいっていた。なにせちゃんと会うのは初めてだから、そして成瀬くんがお礼したいと先生から伝えられたけれど…もし、あの時の事を恨まれていたら、なんて考えるとこの扉をノックすることすら出来ない…



あれから私の体感では5分ほどたった気でいたけれど実際2分ほどだろう。



「よし!」



小声で覚悟を決めてのびらをノックしようと右手を胸の前に持ってきた時、なにやら中から話し声が聞こえる



あれ?もしかしてご家族…


そうだとすればいっそう中に入りずらい…



静かにして耳をすまし病室の前で立ち止まっているとどうやら聞こえる声は1人の男性の声と女性の声で、この男性の声とは多分成瀬くんだろう。



「あんた本当に危なっかしいんだから…」



「悪かったって」



「もうちょっと上手くやりなさいよね」



「チッ」



「あんた舌打ち!」



中からは仲睦まじい会話が聞こえる。

それにしてもこの話し方成瀬くん…?

あの時とは少し声のトーンも低くぶっきらぼうのようにも聞こえるような気もする。



そう扉の前で首を傾げ考え込んでいる私は傍から見れば怪しい不審者だろうな…



流石にいつまでもこうはしていられない、意をけして扉をノックしようとした瞬間扉がガラッと開かれた



「わっ!」



びっくりして後ろによろけてしまった私の右手をぎゃっと掴み支えてくれた



「ごめんなさい!驚かせてしまったわね。」



そういって申し訳なさそうな顔をする女性はここの病院の看護師さんだった。ふと病室に目をやるとベッドの上で慌てて眼鏡をかける成瀬くんの姿が



「えっとー、“成瀬くん”のお友達?」



看護師さんがそう私尋ねた。

成瀬くん?看護師さんにしては中々あまり聞かない呼び方とあの会話が気になったが私が気にするほどの話ではないだろうと頭を降って除けた。



「はい、成瀬くんと同じ学校で同級生の有栖です。」



「あぁ!有栖さん!先生から聞いていますよ!中に入ってください。」



扉を押さえて私を病室の中へ入れてくれた看護師さん。


ではと微笑み一礼をして扉を閉める看護師さんに私も一礼をして成瀬くんへ向き直った。

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