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金色に揺らめく瞳



「そして今日は、その為に話をしたのだ。今までの謝罪と、感謝と。……これからの皆の未来の為に」



それからアルヴェツィオが一つ咳払いをして、それに応えるようにフィルが頷いた。


「フィル、情報は揃ったか」

「ええ。さっきやっと揃ったわ。マルチャンには感謝しなくっちゃ。……ていうかアタシが言うより、本人から聞く方が良いかしら」


少し疲れたように笑うフィルが、そう言って首を傾げる。


「……そろそろ戻る頃合いか。いや、その前に各領地の状況を教えてくれ」

「はぁい。じゃあ手っ取り早く結論から言うわね。フィレーネ王国における移住者の中では誰一人として、今回の計画に加担した者は居なかったわ。話を持ちかけられた者は数人いたようだけれど、みーんなスッパリ断ったみたいヨォ。」

「そうか、それは……嬉しい誤算であったな」

「そうね。みーんな、元いた国の王様よりずっと、この国が好きだって言ってたみたい。……衛兵もしっかり機能して計画を断った者への報復も防いだようだし。守備は上々ってところかしら」


肩を竦めて笑うフィルに、微笑ましげなナターシャとアルヴェツィオが頷き合った。


婚姻を理由として移住してきた人がこの国にいることは知っていたけれど、元いた国や地域よりも好きになってもらえるということが、どれほどの意味を持つのか。

きっと、私には本当の意味で理解することは出来ないけれど、とてもすごいことなのだと思う。


私は一人しか知らないけれど、……たしかにアリーチャと居るニコラウスはとっても幸せそうだったし。


……それに何より異世界から来た私だって、たった一月でこれだけこの国を好きになったのだ。

立場や身分、生まれ育った環境が違っても。

人として、自分と同じような思いを抱いた人がこの国にたくさんいるのだと思うと、それだけでなんだか嬉しくなった。


「アタシが精霊のみんなから聞いた各地の様子はそんな感じで、……次に捕まえた子達の話だけど……と、ちょうどよかった」


そのまま話しだそうとしたフィルがピタリと止まって大きな扉を振り返ると、それと時を同じくして外に立つ衛兵がジャンの来訪を告げた。


「マルチャン、今日までの報告をお願い出来る?」


入室を許されたジャンが、問いかけるフィルに対して神妙な顔で頷いた。


「……では、お目汚しになることも覚悟して。失礼します」


ぱちぱちと複数回瞬きをしたジャンの瞳が、元の紫色から薄く金の光を帯びていく。

そっと宙へ手をかざして、ジャンが何かを呟くと、祝祭と同じ薄い液晶のようなものが浮かび上がった。


『俺たちはアドリエンヌ様から直々に頼まれた、だなんて口が避けても言えねえ!』

『精霊なんてもんはよくわからないが、ヴァルデマール王と親しいアドリエンヌ様が居てくださればこんな事態でもなにも心配はない。』

『大領地アメルハウザーの娘に取り入っておけば、我が家は今後も安泰だ……きっと助けに来てくださる』

『いまいち何がしたいのかわからない人だが、このフィレーネ王国をアドリエンヌ様が手に入れれば。きっとこの後、俺たちだっていくつもの領地を好きに出来るはずだ。それまで、ただ黙ってさえいれば。』

『王族を牛耳ってフィレーネ王国さえ手に入れられれば、かの王が統べる息苦しい土地にはもうおさらばさ。』

『ヴァルデマール王はしばらく海戦の準備をしていると聞いたしな。海に囲まれたこの国が堕ちるのだって時間の問題だ、そうなればアドリエンヌ様に取り入った我が領地は大きな進出を果たせる』


映像には次々と捕らえられた人の顔が映るが、皆一様に口を開いている気配がない。

不思議に思ってジャンの金を帯びた瞳を見ると、目が合った途端にジャンが笑った。


「……花姫様。私は少しの間だけ、母より受け継いだ精霊の目で人の心を聞くことが出来るのです。」


それはすごい、アルヴェツィオは未来を見ていたけれどそれとはまた違うのかと関心した瞬間に、ジャンが得意げに笑った。


「お褒めに預かり光栄の極み。……やはり、私の方が」

「……悲しいことだ」


完全に調子に乗ろうとしたジャンが、アルヴェツィオの言葉でハッとしてすぐに映像が光になって消えていく。

瞳に揺らめいていた金色も、すぐに元の紫に戻った。


「国を、民を統べるというのは斯様に容易なことではないというのに。……今映った者達は皆、自分のことばかりではないか」


アルヴェツィオの話を聞いて、隣に立つシルヴィオの肩が少し揺れた。


「かの王は自らの子を闇に葬るばかりか、民を育てる事もないときたか。その上戦などと……このままではかの国そのものが滅んでしまうぞ……」


深い溜息と共に玉座から天井を見上げて、考え込むようにアルヴェツィオが目を伏せた。


「一刻も早く、かの国から精霊達を救い出さねばな」


静かに呟いた言葉が広間に響いて、やがて手を握りしめたシルヴィオが力強くアルヴェツィオを見据えた。


「……父上、どうか私を花姫様と共に闘わせてください」

「それは、どちらの花姫様のことだ?」

「……どちらの?」


目を眇めて問うアルヴェツィオに、シルヴィオがやや訝しげに首を傾げた。


……たしかに、今この時にはもう一人、花姫様が居る。


どくりと脈打つ心臓が、嫌な音を立てて私の心を揺らがせる。

彼女のことを、シルヴィオがどう、思ったのか。

……それを聞くのは、恐ろしく思えて。


シルヴィオに贈られた花石を握って、思わずぎゅっと目を閉ざす。

暗く染まった視界のすぐ近くで、ふと微笑む気配がした。


「私が誓った花姫様は、生涯に唯一人。この場で共に立つジュリア様以外に在りません」


耳に届いた言葉にハッとして目を開けると、優しげに細められたシルヴィオの瞳がまっすぐに私を見ていた。


「……それに、ジャン。何か聞いたのだろう?」


向き直ったシルヴィオの視線で、名指しされたジャンが軽く肩を竦めた。


「件の女性と初対面の時、それから広間に入る直前までお前の瞳の色が変わっていたぞ」


言われて、はたと気が付く。あの時にジャンへ感じた違和感は瞳の色だったのか。


「……気付かれてましたか。ええ、まあ。聞きましたとも」

「何を聞いた?」

「うーん。ちょっとシニョーレとしてはシニョリーナが可哀想なので思っていたことの全てを言うのは憚られますが。」


そこで一旦言葉を切って、ジャンが困ったように自分の頬をかいた。

そうして、すっと表情を消して口を開く。


「……端的に言えば、彼女は花姫様ではありません」



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