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浄化の力



「私が身を犠牲にして知り得た情報のもう一つ。……それはヴァルデマール王が精霊の生き血を使って、本来の人間の寿命よりずっと生き永らえているということだ。」



静かに語られる声に、私は思わず目を瞬いた。


……えっ、それってもしや不老不死!?


古今東西、私がいた世界にだって不老不死に関する話はいくらでもあったけれど、よもやそれが目の前に。しかもそれが精霊の生き血などとは。

……趣味が悪いこと、この上ない。


うっと吐き気が込み上げてくるのをなんとか隠して、続く言葉を待った。


「もう知っているかも知れぬが、ヴァルデマールは数々の精霊を民に隠し、また多くの臣下にも隠して、その存在を秘密裏に閉じ込めている。彼等を呪縛より解放することが出来れば、奴は精霊の力を失い、長い間無理を続けたヴァルデマールの体も塵となって消えるはずだ」

「それは……わたくしもシルヴィオ様からそのことを聞いて、以来ずっと心苦しく思っています。……でもたしか、精霊避けの呪いは……その呪縛を解くのは、難しい、とも聞きました」

「うむ。精霊の血を継ぐ者には、な。」


それはつまり、フィレーネ王国の誰にも成し得ないということになるのではないだろうか。


「では……どうしたらよいのでしょう?」

「む?貴女がいるであろう。」


私の問いに、なんということもなさそうにアルヴェツィオが答えた。


精霊の血を継ぐ者がフィレーネレーヴを扱えて、フィレーネレーヴを扱えるものは即ち精霊の血を継ぐ者で、精霊避けの呪いの影響を少なからず受けてしまう。……筈だ。


……あれ?待てよ。そういえば。

私って、その血を継いでいるの?


「……どういう、ことでしょう」

「あら、花姫チャン。アタシ言ったでしょう?アタシは名付け親で伝道師だって。精霊はあくまで力を持っているだけで、その扱い方は人の発想無くして発展しないものなのよ。……それで、花姫サマと一緒に育み、フィレーネレーヴという名を付けた時、彼女にも力が宿ったの。」

「……つまり?」

「つまり。謂わばフィレーネレーヴと名付けられた力そのものがアタシと花姫サマの子供みたいなもので、この王国がそうであったように、元の世界へ帰った花姫サマの家系も代々続いてきたってことよ。」

「え、ええと……?」


混乱する頭に手を添えて、必死に整理してみる。


ええとまず初代花姫様が世界を超えてフィルと出会って、会ううちに仲良くなって、いつしか精霊の力を一緒に発展させて、魔法の名前を名付けた時に力も得た。

それからフィレーネ王国を建国して、フィルとの子供を授かって、それで……。


「え。つ、つまりその、わたくしや歴代の花姫様がフィレーネレーヴを扱えるのは……初代花姫様がみんなのおばあちゃんだからってこと、でしょうか」


ぐるぐるした頭でそう絞り出すと、なんとも楽しそうな顔でフィルが笑った。


「その通りよ、花姫チャン!だーからアタシ、花姫サマに似てるだなんて思ったのヨォ」

「なる、ほど……?」

「こういうの先祖帰りとかって言うんでしょう?……なーんて、アタシも調べて初めて気が付いたんだけどねえ。」


明るくそう言うフィルの顔が、少し寂しそうに翳った。

……それもそうか、奥さんとして愛した人が例え元の世界の人とはいえ、最終的には別の人と結ばれてたって事だもんね。


なんと声をかけたものかを悩んでいると、小さく咳払いをしたアルヴェツィオが静かに口を開いた。


「……で、あるから貴女は唯一、精霊の血を継がずしてフィレーネレーヴを扱える者。隣国イグニスの有する呪いの影響などものともせず、長年の膿を洗い流す事が叶うのだ。……それを私は、この国の王として、貴女に頼みたい。」


……ん?こういうの、見たことある。

ファンタジーな冒険物の話でよく見る、勇者の旅立ちみたいなやつじゃない?


勇者。……勇者!?


「ちょ、ちょっとお待ちください!たしかにわたくしは、精霊のことを利用する王が許せないものだとは思います。思いますけれど……」


私はこれまで、まごう事なく平和な世の中を生きてきた。

食べることに困るでもなく、住むところに苦労することもなく、着たい服は選び放題だったし、行きたいところにもどこへでも行けた。


地位や名前の為に結婚を強制されることも、ましてや死を覚悟することなんて絶対に無かった。


平和な世の中の戦いはといえば、もっぱら知識と体力くらいなもので。

そんな私が、人の皮を被った化け物だと噂されるヴァルデマール王と対峙するだなんて、とても想像が出来ない。


「わ、わたくしには、戦った経験などございません……!」


悲嘆に暮れてそう言った私に、二人がすぐ目を丸くした。

ああまた、私はやってしまったのだろうか。


……でもやっぱり、戦うことなんて出来ない。


「ですからその、アルヴェツィオ様の頼みは……」

「ああ、いや、ジュリア様。……戦う必要は無いのだ」

「……え?」


いつもは相手の素の驚きの声を聞くことが多い私が、さすがに今回ばかりは違った。


「戦う必要が、ない?」


私が思わず反復してそう言うと、アルヴェツィオがゆっくりと頷く。


「聞いたぞ、プリンチペッサでの大規模なフィレーネレーヴのことを。……あの力はまさしく、不浄を洗い流す浄化の力であった。」



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