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てるてる坊主



「あなたならどうにかすると信じている。……晴れの日には私も呼んでくれ。」



シルヴィオのその言葉から、早くも三日が過ぎた。

未だレナードが目覚めたという報告も無い。


この三日で起きた変化はといえば、ブルーナとリータに不審がられながらてるてる坊主を作ったことと、この国の知識が増えたことくらいだろうか。


てるてる坊主の効果は未だ得られず、勉強に集中するには打って付けの日ばかりだった。


フィレーネ王国は大きな島の上にあって、その多くが海に面した十の領地から成っている。

お城と大きな港のあるプリンチペッサを中心として、内地は山や畑を利用した特産物があり、海は海でその領地ごとに収獲出来る魚や貝が違うらしい。


どの領地も時季に一度の祝祭にその季節特有の名物を持ち寄って、どこの街でもそれはもう盛大なお祭り騒ぎになるということだ。

おめでたい出来事が一同に集まるのだから当然といえば当然かもしれない。


ふと子供の頃、お母さんと行ったお祭りを思い出す。

……思い出せないけど、お父さんもたしかに居たはずで、大切な人と行くお祭りはずっと記憶に残る、はずで。

そんなお祭りをシルヴィオと一緒に回れたら、なんて考えると、気重だった祝祭が少し楽しみになった。


お祭りの様子を想像しながら歴史の記された本を眺めていると、扉の外から衛兵の声がした。


「ブルーナ様、ナターシャ様の使いの者がお待ちでございます」


そう、もうひとつ変わったことがあった。

エドアルドの襲来からすぐに、私の自室には衛兵が立つようになり、ブルーナかリータが必ず私の側に控えるようになったのだ。


あれからエドアルドが訪ねてくることはないが、わざとらしく部屋の前を通り過ぎることは何度かあったらしい。


ちなみにリータにはエドアルドのことは詳細に話してはいない。……話せばどうなるかわかったものではないし、何より今の現状では彼女の立場を守れないからだ。


対エドアルドへの警戒を増したこの三日、シルヴィオもあれからずっと仕事漬けのようで、食事も基本的にこの部屋で摂っている。


天気も良くはないし、特別出来ることも思いつかないのだが、勉強にも少し飽きてきた。


「ナターシャ様のお使いとは一体どんなご用件でしょう?」


一人首を傾げて呟いていると、扉の外から手紙を持って戻ったブルーナがにこりと笑った。


「……ジュリア様、ナターシャ様よりお茶会のお誘いでございますわ」


その願ってもない誘いに意気揚々と立ち上がろうとして、咄嗟に取り繕う。


「ほ、ほほ。……まあ。ナターシャ様からですか、喜んでお受けしますとお伝えしてくださる?」

「ええ、けれど、一つ条件があるそうですわ」

「なんでしょう?」

「……本来ならばお誘いいただいた方のお部屋にお邪魔するものなのですけれど、出来れば此度はジュリア様のお部屋で、と」


淑女としてのマナーを教えてもらった時にも、たしかにそう聞いた。普通に考えても、誘った側が招待して持て成すのが常なのはわかるけれど。


ナターシャの側には、あのアーブラハムが付いている。……しかし未婚の淑女である私の部屋でのお茶会となれば、アーブラハムを連れては来れない。だから、だろうか。


「そうですか……、ちなみにナターシャ様のご都合は書かれていて?」

「このお手紙からですと……そうですわね、明日にでもというところでしょうか」

「……おもてなしの準備は間に合うかしら」


困りましたね、と頰に手を添えると、リータが胸を張って一歩前に出た。


「それでしたらどうぞ、わたくしにお任せくださいませ!ナターシャ様のお好みは父からしかと受け継いでございます」

「まあ。頼もしいわ、リータ。ではリータにお願いするとして、ナターシャ様にお返事を」


用意されたガラスのペンでさらりと返事を書く。……今更ながら、ほんとに日本語が通じるとこで良かった。


封をした手紙を託し、手持ち無沙汰になった私はもう一つてるてる坊主を作ることにした。

もう三つ目だ。ただの紙を丸めて、もう一枚の紙で包んでから、出窓にそっと置く。


明日……はナターシャ様とのお茶会だから、明後日、晴れますよーに!太陽のヴェルーノさん、よろしくお願いします!


目をつぶって神頼みをするようにパチパチと手を叩くと、ふっと風が吹き込んだ気がした。


雨のせいか少し冷たい風はこの国で初めて感じたものと同じで、風で窓が開いてしまったのかと慌てて目を開ける。


しかし目の前の窓をいくら確認しても、そこには少しの隙間もなく、もう風も吹いていなかった。


「……気のせい、だったのかしら」


一人首を傾げて、静かに椅子に座り直す。

明日のお茶会の準備に走り始めた二人を眺めながら、知識を増やすべく本を捲った。


そのページには領地の名前と特産が細かく書かれていて、領地内に有した街の大きさの順に並んでいる。


国の中の領地の位置によって時季の特色も少しだけ違うようで、秋にあたるハーヴェストは、来たるイヴェールの冬に備えて領地間での収穫物の取引が盛んになるらしい。

しかし近年では、季節に関係なくフィレーネレーヴを利用して時季違いのものの育成も順調に進んでいる、と書かれてあった。


……温室栽培とか、そういう感じかなあ?

見たことない果物も多かったけど、どうやって育ててるんだろう。


残念ながら今開いている本は字ばかりで、わかりやすい絵も育成の方法も特別書かれてはいなかった。


そんな風に本を捲りながらひたすらふむふむ、と頷いているだけであっという間に一日が終わってしまった。


あの二人に任せておけばナターシャとのお茶会も心配ないだろう、と楽観的に考えて、私は早々に眠ることにした。


目も頭もよく使ったからか、すぐに深い眠りに落ちた。

……次に目が覚めたとき、そんな私を待っていたのは。


「……此処は、どなたの部屋でしょう……」



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