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四季の精霊



「……いえ、おやすみなさいませ。ジュリア様」



ブルーナの微笑む気配がしたあとすぐに私の意識が闇に溶けて、次に目覚めた時にはもう朝になっていた。


鈴の花束を鳴らして、すっかり日常になった身支度と朝食を済ませる。


食後のお茶を飲みながら、シルヴィオはよく眠れただろうかとぼうっと窓の外を見ていると、やけに張り切った様子のリータと目が合った。


思わずはっとして窓ごしに笑いかける。

そうだ、そうだった。


「ジュリア様、本日のご予定は」

「ええ。わかっています。リータ、よろしくお願いしますね」


ひとつ頷いて向き直ると、リータが嬉々として手に持っていた沢山の本をテーブルに並べていく。


「花姫様の歴史のことでしたら、他でもないわたくしにお任せくださいませ!」

「……ふふ。花姫様のことはもちろんですが、わたくし、この国のことをもっと知りたいと思っていてよ」


えっへんと胸を張ったリータが暴走し過ぎないように一つ釘をさして、いざいざ、お勉強タイムの始まりだ!


「それではまず、この国のはじまりから」


リータがぱらりと本をめくりながら、フィレーネ王国の成り立ちの話を始めた。


ーー異国より訪れし花を纏った姫と、世界を旅した精霊の王が手を取り合って、此の地に国が興った。

二人を祝福して幾人もの精霊が力を合わせて国を盛り立てていく。


はじめにプリマヴェーラが訪れて、芽吹きの時季。

二番目にヴェルーノが訪れて、成長と繁栄の時季。

三番目にハーヴェストが訪れて、恵みの時季。

さいごにイヴェールが訪れて、命の時季。



……私の知る春夏秋冬とおおよその違いはない気もするけれど、どうして冬が命の時季なのだろう。


ゆったりと首を傾げた私に、リータが一旦話を止めた。


「なにかわかりにくいところがございましたでしょうか?」

「……いえ、そうではないのだけれど。イヴェールはどうして命の時季なのでしょう?」

「おそらく、ではございますが……それぞれの精霊様にとっての得意なお力が違ったからだ、と言われております」


私が、得意な力、と呟くとリータが丁寧に説明をしてくれた。


はじめのプリマヴェーラはあたたかな空気を扱うことに長けて、凍てついた地面を温めて芽吹きを助けてくれる。

二番目のヴェルーノはお日様の光を扱うことに長けていて、芽吹いた命を守り育ててくれる。

三番目のハーヴェストはお月様の光を扱うことに長けて、全ての命を見守り照らしてくれる。

さいごのイヴェールは、冷たい空気を扱うことに長けていて、全ての地に命の源となる水をもたらしてくれる。


「……それで、命の時季」

「ええ、そう言われておりますわ」


リータが指し示す本のページには、それぞれの精霊のイメージと花の絵が描き込まれていた。


春のプリマヴェーラはバレエダンサーのようにしなやかで美しく、夏のヴェルーノは活発そうな美青年で、秋のハーヴェストは知的で穏やかそうな美女だ。

そして冬のイヴェールは、少し冷たい雰囲気の美青年として描かれている。


……人っぽい名前だな、とは前から思っていたけど、まさか本当に人だったとは。


「そういえば、すべての時季で祝祭を開いているのでしたっけ」


私の問いに頷いたリータが、数枚のページをめくって話し出す。


「四つの時季それぞれに産まれた者と、数え年で18を迎えて成人をした者、新たに結婚をした者などのお披露目とお祝いをするのが祝祭で……簡単に言えば、この地に生きる民全てのお祝いの日、でございます」

「それはロベルトから聞いていた通りですわね。……たしか、時季ごとに花を飾るのですよね?」

「仰る通りでございます」


にこりと笑いながら、本に描かれた花々を紹介してくれた。リータの口振りからして、この国ではどうやら明確な名前はついていないらしい。


名は呪いだ、とそう言ったシルヴィオの言葉ふっと思い浮かんで、どうしてかちくりと胸が痛んだ。


「……ジュリア様?」

「なんでもないわ、それから……花は花姫様と花嫁だけが頭に飾れるんだったかしら」

「ええ、ええ!その通りでございます!初代の花姫様が、花嫁に花飾りを渡したことが始まりで、祝祭で花を飾った花嫁とその花婿はずっと幸せに暮らせるという言い伝えでございます……」


うっとりとした視線を宙に向けて、リータが早口に語る。


「時季ごとに違った揃いの色のドレスを着るというのも、その言い伝えなのかしら」

「ああ、いえ。それは違いますわ。時季ごとのお色は、その時季をもたらしてくれた精霊様のお色なのでございます。ですから、花嫁と花婿以外にも、衣装の一部に産まれた時季の色などを取り入れたりするもので……」


プリマヴェーラは芽吹きの黄色。

ヴェルーノは成長の緑色。

ハーヴェストは恵みの赤色。

イヴェールは命の水の青色。

祝祭ではみんなが衣装の一部にその時季の色を取り入れて精霊への感謝を表す、とリータが教えてくれる。


色は精霊から、花は花姫から、となると。

……これは新しいドレスコードを作るのも案外スムーズに出来るかもしれない。


同じ色、時季の花、花嫁と花婿、紛れて髪の色を隠せるもの。

……あ、そっか。そうだよ!

ウェディングドレスとして考えたら、それはアレしかない。


「リータ、」

「はい?」


自分のひらめきに溢れそうになってしまう笑いを精一杯堪えて、出来るだけ落ち着いて問いかける。


「わたくし、祝祭でどうしても実現させたい事があるのですけれど……ここに仕立て屋を呼ぶことは出来るかしら?」



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