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想いの力



「私、帰るまでに魔法はマスターしたいです!」



シルヴィオと無言のまましばらく見つめ合った後で、やや重たそうに彼の唇が開かれた。


「すまない、もう一度言ってくれるか?」

「私、帰るまでに魔法はマスターしたいです!」


一言一句違うことなく、そっくりそのままをもう一度告げた。しかし、シルヴィオの反応はない。


「……私、帰るまでに、」

「わかった、言いたいことは、わかった」


無言を貫く姿勢に負けじともう一度言おうとしたところを、すかさず遮られる。

やがて、その言葉の全てが理解出来ないといった顔でシルヴィオが頭を抱えてしまった。


「……正気か?」

「正気も正気です、多分。ここが全部、私の夢じゃないのなら。」


深い深い溜息を吐いたシルヴィオは、ぼんやりとした遠い目で二重に造られた窓の外を見る。


……なんとも承諾を得るのが難しそうな雰囲気である。が、魔法を使えるチャンスを逃す選択肢は私の中には無い。


駄目押しに思いつく言葉をぽんぽん投げかけることにした。


「だ、だってほら!私が思い出せたのは母のことだけですし……祝祭までみんな忙しいし?」

「それは……」

「それに、あなたのお兄さんをギャフンと言わせる為には、祝祭でこの国の人たちに私がちゃんと花姫様だと認められないといけないですよね?」

「……たしかにそうだが」


やっとシルヴィオがこちらを見た。

いいぞいいぞ、ここで畳み掛けねば!


「その為にはやっぱりこう、派手な魔法が必要だと思うんです!……私も魔法体験が出来て、お兄さんもギャフンと言わせられて、シルヴィオ様も王位を担うものとしてみんなからの認識を強められる。……ね、良いことしかないと思いません?」

「し……しかしそれでは、」


シルヴィオの心がぐらり、と揺れる気配がする。ようし。ならば、ここでとっておきだ。


意味深に自分の手を触ってみせてから、ゆるりと首を傾げて問う。


「約束、したでしょう?」


一瞬息を詰まらせたシルヴィオが、観念したようにがくりと肩を落とした。


「……ごもっとも。」

「じゃあ決まりですね!花石を光らせる第一段階はクリアしましたし、次は一体何をすればいいんですか!?」


きゃっきゃとはしゃぐ私を呆れたように見て、今度はシルヴィオが首を傾げる。


「その前にひとつ聞いていいか?」

「はい?」

「その……度々あなたの言う、ぎゃふん?とはなんなのだ」

「ああええと……驚いたというか、まいった!というか……」


どこからどう考えてもやっぱりギャフン!という感覚的な言葉しか出てこない。


「……やっぱりギャフン、はギャフンなんですよねえ」


私の言葉に頷いたシルヴィオが、小さな声で何かを呟いた。


「ふむ。……だとすれば私は君にぎゃふんと言わされっぱなしだな……」

「ん?いま何か言いました?」

「ああ。いや、なんと言うこともない。気にするな」


ひらりと手を振って話を片付けて、懐から紙の束を取り出した。それを広げていくつかの文字列を指差す。


「さて、フィレーネレーヴを使いこなすにはこういった詠唱が必要になる。これは言ったな?」

「はい、とても大事なんですよね!」

「ああ。一口に詠唱といっても、その者の素養によって扱える力の種類が個々人で異なってくるのだ。……力が作用するところを想像して唱えることで初めて、その力を扱えるかどうかがわかるわけだが」


シルヴィオが指差す文字をさっと読むと、鍵の閉まった扉を開けるものであったり、火を灯すものであったりと様々だ。


つまり、やりたいことを実行する為に必要なのは想像力ってことかあ。


……うん?それじゃあさっきのお母さんは成功したってこと?


「フィレーネ王国では個人の扱えるフィレーネレーヴを認識すると共に育成を行い、その素養によって職を振り分けている」

「たしか、フィルが言ってたやつですね」

「うむ。だからこそ、この部屋には種々の物が揃っているのだ」


言われて辺りを見回すと、たしかに普通の部屋と同じようにたくさんの家具や物に囲まれている。


「まず、どれを試す?」


突然なんということもないように言われて、思わずシルヴィオの顔を二度見する。


「えっ、いきなりですか!?」

「第一段階は終えてしまったからな。」

「そうでしたあ……。でもそれって失敗したら……例の、暴れるってやつですよね!?」


青い光がパーンとはじけて、それで漫画のように一瞬でパラパラと壁が崩れていくところを想像してしまった。いやこれはさすがにただの想像じゃすまないと慌てて首を振る。


「まあ概ねその通りだ。だがフィレーネレーヴを使うのに必要な想いの調節がきちんとできれば、滅多にそんなことにはならないぞ」

「……想いの調節、ですか」


少し思案するように視線を泳がせて、ブルーナを引き合いに出した。


「ああ。例えばブルーナだが、得意とするのは守りのフィレーネレーヴで、あなたの部屋に施されているのは扉の内側にいる者以外の一切の侵入、関与を許さないものだ」

「ふおお、そんな大層な魔法が……!」

「彼女はその素養で城に仕えることとなったが、ブルーナが対象を守りたいと思えば思うほどその力は強くなる。当然だろう?」


言われてみれば、フィレーネレーヴが想いの力であるなら、その源が強ければ強くなるほど、それに比例して作用した力も強くなるのは道理だ。


「……たしかに、そうですね」

「あなたは先程、……既に想像を形に出来ただろう?」


わずかに、言いかけた言葉を選び直すような間が空いた。

明確に誰を、と告げないシルヴィオの優しさで、ふっと気が緩む。いい意味で。


……お母さん、お母さんはいつもやってみようの人だった。


やらない後悔よりやって後悔、愚痴ならいつでも聞く!さあいってこい!


なんて。


母の言葉を思い出すと不思議と送り出されるような気持ちがして、何も恐れずに花石を握りこむ。


お母さん、私、やってみます!


目をつぶった裏で想像するのは花吹雪、笑顔の花咲く街に大量の……


「……ジュリ……?待て、どうして」


うん?なにかおかしい。

花石は思った通りに青く光っているけれど。


……ちょっと待ってちょっと待って、私、そうだよ!

私知らないよ、だってさっきチラッと見ただけだもん!ねえ、一体全体、


「詠唱の言葉ってなんでしたっけーー!?」



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