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国をあげての大掃除





私がオシオキの開始を宣言してから、どれだけの時間が経っただろうか。


いつの間にかエドアルドの姿に感化された人々が続々と参加して、どこにどの人が居るともわからないような、国をあげての大掃除となっていた。


もうエドアルドやエミリアの姿も見つからないけれど、特別騒ぎになっていない事からしても、このオシオキはきっと上手くいったのだと思う。


やがてフィネストラ越しに見えていた領地の掃除も終わり、誰の顔にも清々しい笑顔が浮かんでいた。


ヴェルーノもその光景に微笑んでいるようで、抜けるような空には雲一つない。


頃合いを見ていたフィルが全領地へ向けてオシオキの終わりを告げたところで、丁度、あの綺麗な鐘の音が鳴り響いた。


空を見上げた全ての人々はみんな、笑顔でその音を聞いていた。


「ーー皆、オシオキはこの鐘の音と共に、今、正しく遂行された。……我が息子エドアルド、エミリア、ルイーゼご夫妻、……皆の心は、此度のオシオキを通じて彼らをどう判断しただろうか」


最後に段上に上がってそう言ったアルヴェツィオの服もよく見れば薄汚れていて、何故だかうっすらと汗をかいていた。


王の言葉に一部の訳知り顔の人々が力強く手を打って、次々とその拍手の波が全領地へと広がっていった。


「皆、しかと見届けてくれたこと、心から感謝申し上げる。……ありがとう」


アルヴェツィオが頭を下げれば人々の歓声は一層大きくなって、すっかり青い布に染まったフィレーネの王国中が、人々の笑顔に溢れていくようだった。


……決して一件落着ではないけれど、ひとまず、これで良かったはずだ。


美しい鐘の音と人々の歓声の中でふぅ、と一息漏らすと、隣に立ったシルヴィオが優しく目を細めた。


「……ありがとう、ジュリ」

「え?」

「この音をはじめに聞いた時、……その時の私は、こんな未来が待っているとは思いもしなかった。父上が真に立派な王であったことも、兄上があのように立ち直って、……誰ともなく許しを請おうとすることも。」


想像が付かなかった。と小さく呟いて、シルヴィオが遠く、人々を超えて、海の向こうを見た。


「未だ見ぬイグニスとの戦争がどうなるかはわからないが。……どこまでも私の発想の上を行くあなたとなら、きっと……」


大丈夫だと言いかけたシルヴィオの言葉を、不意に後ろから聞こえたエドアルドの声が遮った。


「私もその道行きに加えてくれ」


はっとしてその声を振り返ると、体格からして男性と思われる人物の両腕を雑巾で縛り上げたエドアルドが立っていた。

エドアルドによって両腕を拘束された男の顔は、古びたマントで深く覆われている。


大掃除を終えた人々が家路へ向かい始める中で、シルヴィオが少しだけ声を潜めた。


「兄上、」

「此奴が、今のイグニスの状況をご丁寧に教えてくれたのだ。……私も、共にイグニスへ行かせて欲しい」

「……その者が?」

「ああ。……皆がよく知っている人間だ」


エドアルドが捕らえた男の背をぐっと押すと、いつしかに聞いた覚えのある声で小さく呻いた。

瞬間、被っていたマントがずり下がり、男の顔が少しだけ見えるようになった。


「ーーお前は、」

「うう。あ、あのぅ、そのぉ、お久しぶりでございます。はは、シルヴィオ第二王子に花姫様っ」


すっかり薄汚れた見覚えのある顔には、城にいた頃のふくよかさは無く、わざとらしく笑った顔にはいくつもの皺を刻んでいて。ほんの数週間の差とは思えないほど、随分と老いているように見えた。


「アーブラハム、なのか……?」


私と同じように怪訝に首を傾げたシルヴィオへ、やつれた男が何度も頷いた。


「ええ、ええ!アーブラハム、アーブラハムでございます!」

「どの面を下げて、」

「まあ待て、シルヴィオ。……そう、悪いことばかりではないぞ」


アーブラハムを捕らえたまま、片腕で汗を拭ったエドアルドが、おもむろに一通の封筒を取り出した。


「……兄上、それは」


エドアルドの持つ封筒には赤い封蝋のようなものが施されていて、炎を象ったような、独特な紋章が焼き付けられているようだった。


ごくりと喉を鳴らしたシルヴィオへ、エドアルドがなんとも皮肉そうに笑った。


「願っても無い、ヴァルデマールからの招待状だ」



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