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ひとりでに揺れる船



「……コホン。ご婦人方との楽しげな話に花を咲かせたいのは山々だが、もうそろそろ本題に入っても良いだろうか?」



アルヴェツィオの言葉を受けて、自分の口元に手をあてたナターシャが和やかにその場を引いた。


「あら、わたくしとしたことが失礼をいたしました。」

「はは、そうだったそうだった。ごめんなさいね、アルヴェツィオ様。」


二人の笑顔に頷いて、それからアルヴェツィオの目がゆっくりと私に向けられる。


「本題というのは、昨日ジュリア様に染めていただいた布のことに他ならぬのだが」

「ええ、ロベルトから伺っております。無人船の件での確認のお話だと」

「うむ」

「話が早くて助かること。」


アルヴェツィオと頷き合ったアリーチャが、じゃ、早速見てもらおうかしらね。と言いながら何もない宙空に手をかざす。


「フィネストラ・ウノ……プリンチペッサ」


アリーチャの声に合わせて青い光の四角が浮かび、ややあってから見覚えのある、プリンチペッサの港の風景が映し出された。


「これは……」

「これは今のプリンチペッサの港の様子さ。ええと、船、船……と。あった!」


アリーチャが集中した様子で目を伏せると、同時に青い四角に映る景色も変わっていく。いくつかの大きな船を映した後で、私の染めた景色を、まるで帆のように掲げた青い小型船が何隻か映った。


映像で見るだけではわかり難いけれど、小型船といってもその大きさは私が乗せられていた小舟とそう変わらないくらいな気がする。

違いは人の乗る場所が一切無さそうなところだろうか。


「こんな風に掲げてみたけど、……これで大丈夫かい?」


ふっと目を開けたアリーチャが、映し出される船を見ながら首を傾げた。


「大丈夫だと思います。これならば問題なく国の位置を錯覚させられるかと」


それに船が青いのもすごく良いですね、と付け足すと、アリーチャがぱっと顔を明るくして笑った。


「そうだろう?!あれからニコルとも話して、すぐに青いインクを吸わせたんだ。おかげで船の強度自体も増したよ。」

「なに、強度が?」


アルヴェツィオがはっとして問えば、優しい目をしたアリーチャが海に浮かぶ船を見て笑った。


「ああ。元より花石から作られた青のおかげなのか、作り手達の想いを汲んで、……塗装としての効果以上に、なんだか一層護りを固めてくれた気がするんだ」

「……そうか……なるほど、言われてみればたしかに道理であるな。よし、明日からは出来得る限りで船を染めるとしよう。」


アルヴェツィオに向かって頷くナターシャやシルヴィオの顔を見て、今にも相談を始めそうな空気を察知したのか、アリーチャがやや苦い笑いを浮かべた。


「それはとても良い案だと思うし、アタシもおすすめするよ。……ただその前に、あの子達を出発させなくっちゃ。何と言っても時間は有限だからね」


そう言ったアリーチャが四角に映る船を指差すと、その動きに応えるように船が揺れた。……ひとりでに。


「え、」

「もう出しても良いかい?」


その問いに向けてアルヴェツィオが頷くが早いか、アリーチャの金の瞳と、四角越しに船を差す指先が青く光った。


「アックア・レーヴ」


ぽう、と船の周りの青が淡く光って、動力らしきものもよくわからないまま、四角に映った船が動き出した。

それはぐんぐんと速度を上げて、次第に一つ、また一つと見えなくなっていく。


私が気がついた時には、アリーチャに宿った青色はいつの間にか消え失せていて。


目の前で起こった魔法への混乱と、覚えのある船の動きに、私は一人頭を悩ませるのだった。……不思議な力には流石にもう慣れたと思っていたのに、まさか遠隔で船を動かせるだなんて。うん?……ということは、私が最初に乗っていた舟も、誰かが……?


私が一人で思考を巡らせているうちに、アルヴェツィオとナターシャがこの場を纏めに入ったようだった。


「順当にいけば、三日後にはあちらはこの海域か……先行する船から染め上げるとして、……」

「青い布は皆のおかげで順調に染まっていますし、アリーチャ様の船もあります。きっとヴァルデマール様自らが指揮を取られることは無いでしょうから、上手くいけば向こうの船や船員を丸々無傷で捕らえることも可能かも知れませんね」

「そうだな。……と、すまない。このままでは長居させてしまうな」


本題も済んだ事だし、と、居住まいを正して解散を告げようとしたアルヴェツィオを見て、ふっとエミリアやエドアルド、ジャンの声が頭の中を巡り、私はすかさず声を上げた。


「お待ちください、アルヴェツィオ様」

「……ジュリア様?」


首を傾げたのはナターシャの方で、隣に座るアルヴェツィオはただ静かに私を見ていた。


「わたくしにも、本題のお話があるのです」



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