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本題



「ご機嫌よう。……お久しぶり、ジュリア様!」



それにシルヴィオ様も、と言い足した笑顔に応えるべくシルヴィオと共に軽い礼をして、再び顔を上げる手前で私はふとアリーチャのお腹に目が留まった。


アリーチャの身に纏うドレスがゆったりしているせいか、以前に会った時と比べてそのお腹がふっくらしているように見える。

……妊婦さんを間近で見た経験がないから何とも言えないけれど、今どのくらいの時期なんだろう。


モンターニャの地からお城までの道のりを思うと、例え数日といえど、馬車の揺れや眠る場所など妊婦さんには辛いものがあったのではないだろうか。


私の視線に首を傾げたアリーチャにはっとして、私は内心で慌てながら挨拶を返した。


「お久しぶりです。ご機嫌よう、アリーチャ様。……お体のお加減はどうですか?」


少しばかり不安になってそう問うも、アリーチャからは私の心配を丸ごと吹き飛ばすような快活な笑いが返ってきた。


「ええ、それはもう。ひっさしぶりに船に乗って絶好調よ!」

「……船に?」


私とシルヴィオが目を丸めていると、私たちの向かいに座っていたナターシャが小さく笑うのが見えた。

その隣に座るアルヴェツィオも目を細めてやや呆れた様子で肩を竦めていて、全員を見渡すように座ったアリーチャだけがなんという事もないといった表情を浮かべていた。


「ああ。さっきナターシャ様にも聞かれたんだけどね。アタシはいくつかの船を従えてモンターニャの地を流れる川を下って、その川伝いにリーヴァの街を抜けて、そんで、それから海を周ってプリンチペッサの港に来たってわけさ」


得意げにそう言ったアリーチャを見て、ナターシャの笑みがますます深くなった。……なんか面白いところってあったっけ?


私が首を傾げたのに気が付いたナターシャが、今度は私へ向けて微笑んだ。


「ふふ。船を融通してくれる約束があったとはいえ、まさか自ら船で来るなんて、と驚いたでしょう?」


わたくしも、リーヴァに暮らしていた頃はよく驚かされたものです。と続けたナターシャが、アリーチャと視線を交わして軽やかに笑った。


「そう、だったのですね。……確かに、馬車の揺れよりは、……水の上を進む方がお体に障らないかもしれませんね」


私が頰に手をあててそう言えば、同じく目を丸めていたシルヴィオも納得したように頷いた。


「ま、アタシの場合は陸を進むより水を伝った方がずっと早かったしね。……それに、波の揺れはもう家族みたいなもんだし。この子もきっと楽しんでくれたに違いないよ」

「……それを見守る者は気が気でないだろうがな」


静かに口を挟んだアルヴェツィオに、自分のお腹をさすったアリーチャがニヤリと笑った。


「そういや、エドアルド様やシルヴィオ様が産まれるって時のアルヴェツィオ様も大概だったねえ」

「ーーそう、なのですか?」


シルヴィオがぱちぱちと瞬きをしながら問うと、すぐさまアルヴェツィオが気まずそうに目を細めた。


「……それは、そうだ。お前も、父になればわかるとも。」


アルヴェツィオの怖い顔から出てきたとは思えないほど、その声音はとても柔らかく、あたたかな声だった。

それを受けたシルヴィオもまた少し嬉しそうで、その光景に私は思わず胸を締め付けられた。……良い、意味で。


お父さんも、私が産まれる時には気が気じゃなかったのかなあ、なんて思ったりして。

そしてふと、この場に居ない人物の事が気にかかった。


「そういえば、この場にはお姿が見えませんが……ニコラウス様も、ご一緒に?」

「いいや。ニコルは船酔いが酷い性質でね。わざわざ馬車で来させるのもなんだし、今はモンターニャの地を任せてるよ」


肩を竦めてあっけらかんとそう言ったアリーチャに、自分の頰を押さえたナターシャが夢見る少女のような顔で笑った。


「うふふ。そのように大変な性質があっても、アリーチャ様を一心に慕って。遥々イグニスから海を越えて、ずうっと通って来られたのだと思うと、……こう、何度聞いてもあたたかな気持ちになりますわねえ」

「……ううん、まあ、ねえ」


ナターシャの笑顔と、ナターシャにつられてやや照れ臭そうに笑うアリーチャの間に挟まれたアルヴェツィオが、なんとも気まずそうに咳払いをした。

そうして、やや重たそうに口を開く。


「……コホン。ご婦人方との楽しげな話に花を咲かせたいのは山々だが、もうそろそろ本題に入っても良いだろうか?」



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