厳格そうな場
「失礼いたします」
ブルーナに続いて一礼をした人物はロベルトだった。
「ロベルトも来たのか」
その姿を認めて頷いたシルヴィオに、ブルーナを手伝うロベルトがゆったりと笑った。
「はい。私めはアルヴェツィオ様よりの伝言を言付かって参りました。」
「父上から?」
「ええ。先刻、モンターニアよりアリーチャ様が到着されまして。件の無人船を出港させるにあたって、ジュリア様と確認等のお話がしたいとのことでございます」
「なるほど、では」
私を見て口を開こうとしたシルヴィオに向かって、何度も頷きながら笑いかける。
緊急時だからこそ、こちらから王様への約束を取り付けるだなんてどれだけ時間がかかることかと思っていたけれど、向こうから時間を作って貰えるだなんて、この機会を逃す手は絶対にない。
……それに、何かを待つ時間は何より長く感じるものだし。イグニスとの状況やルイーゼ夫妻のことを考えても、オシオキの執行は早いに越したことは無いはずだ。
「それは願ってもないお話ですね!すぐに、」
ぱっと表情を明るくして立ち上がりかけた私の前に、なんとも美味しそうなワンプレートが差し込まれた。
「ジュリア様。……わたくしが先程申し上げた事をもうお忘れですか?せめて、お食事だけはきちんと召し上がってくださいませ」
ね?と釘をさすように笑ったブルーナに思わず息を呑んで、私は大人しく席に着いた。
「そ、そうでした。ありがとうブルーナ、いただきます……!」
みんなでこれまでのことを共有しながら食事を終えて、王様に会うべく小広間を後にしようとしたところで不意にジャンが立ち止まった。
「ジャン様?」
「あ、いや……大丈夫、」
そうして少し苦しげに笑ったジャンに、シルヴィオがわかりやすく溜息を吐いた。
「……その顔が大丈夫なものか。髪色を染めるだけでなく、目も大分使い込んだな?」
「必要、だったからね」
「ブルーナ、……ジャンを部屋に案内してくれ」
「大丈夫、大丈夫だよ。アルヴェツィオ様にエドとエミリアのことをお願いしに行くんだろう?……僕が、行かないと、」
苦笑いをしたジャンが一歩踏み出そうとしたのを、ブルーナがさっと支えた。
「ジャン様。ご無理をなさってはなりませんよ。……どうか、我が主を信じてくださいませ」
真剣な眼差しのブルーナの言葉を受けて、はっとした様子でジャンが私を見た。
その目がエミリアとエドアルドの意志と共にあるようで、私はそれに応えるように深く頷いた。
こくり、とジャンが頷いて、それからふっと気が抜けたように笑う。
「……僕はもう今日は限界だ、シルヴィオの言う通り部屋で休むよ。ジュリア様、シルヴィオ。僕の友達のことを、よろしく頼みます」
「ああ、たしかに頼まれた。」
ブルーナに支えられて笑顔で立ち去ったジャンの背中を見送って、ロベルトがゆっくりと口を開いた。
「アルヴェツィオ様とナターシャ様は只今談話室でアリーチャ様とお話をされておりますので、直接そちらに向かうといたしましょう」
私たちが頷いたのを確認して、ロベルトがゆったりと歩き出す。微笑むシルヴィオにエスコートされながら、ロベルトに先導される形で談話室へと向かった。……やっぱり、シルヴィオには笑顔が似合う、だなんて思いつつ。
「失礼いたします、花姫様ならびにシルヴィオ様をお連れいたしました」
ロベルトがそう言って談話室の扉を叩くと、私たちはすぐさま迎え入れられた。
既に人払いが済んでいるのか、部屋の中にはアルヴェツィオとナターシャ、それからアリーチャの三人だけで。
座席への案内を終えたロベルトも、扉の前で一礼をしてそのまま部屋を後にした。
「よくぞ来てくれた、待っておったぞ」
「ご機嫌よう、ジュリア様」
私たちが着席してすぐにアルヴェツィオとナターシャと挨拶を交わし、続いて口を開いたアリーチャが、厳格そうな場の雰囲気を裏切ってなんとも楽しげに笑った。
「ご機嫌よう。……お久しぶり、ジュリア様!」