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嫉妬



「で、どこへ行っていた。」



そう言いながら着席したシルヴィオの問いに私が答えるよりも早く、ジャンがやけに軽い調子で肩を竦めて見せた。


「どこだと思う?……なんて。どうせ見当はついているんだろう?」

「……ルイーゼ夫妻の後を追いかけていった姿だけは見ていたからな。」

「流石、ジュリア様のこととなると目敏いねえ」

「な、別段そういう訳では……いや、いい。それで具体的にどこへ向かった」

「どこ、というと……エミリアのお部屋へ……」


ジャンの促すような視線を受けた私がそう言えば、それを聞いたシルヴィオがすぐに深い溜息を吐いた。


「……そうか。」

「それから、」

「それから……?まさか、ルイーゼ夫妻とエミリアが逃げ出したのか?」

「あ、いえ。……いや、エミリアのお部屋でも色々とあったのですが、……それからエドアルド様の居るお部屋にも行っていました」

「……どう、……どうしてそうなった」

「それは、」

「それはねえ、様子のおかしかったルイーゼ夫妻を追いかけたところで……」


言いかけた私の言葉を引き継いで、ふっと真面目な顔をしたジャンがこれまでの経緯をわかりやすく掻い摘んで話した。


「……というわけさ」

「なるほど、……言いたいことはいくつもあるが。ルイーゼ夫妻とエミリアに、仮に害意があったとしたらどうしていたのだ。それも衛兵が眠る中をたった二人だけで乗り込むなどと、」

「エミリアはそんなこと、」

「ジャン。幼馴染のよしみで庇うのは勝手だが、それは結果論だ。大ごとにしたくなかったのは解るが、次期領主として考えが甘すぎる。……せめて、私には知らせても良かっただろう」


これに関してはジュリア様も。と静かに言い足したシルヴィオの瞳が、悲しげに細められた。

その目を見て、私はやっぱりシルヴィオに一言も告げずに大広間を出たことを後悔したのだった。


「……ごめん」

「わたくしも、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」


ジャンと揃って頭を下げると、応えるように頷いたシルヴィオの表情が途端に柔らかくなった。……あの態度はやっぱり嫉妬なんかじゃなくて、単に怒っていただけみたいだ。


「ああ。……いや、しかし、……ジャンと、ジュリア様の二人でなければ、聞き出せなかった言葉があるのもまた事実だろうな」


特にエドアルド、……兄上のことは。と、少し寂しそうに付け足された言葉に、ジャンが得意げに笑った。


「ーーそう、そうだろう。そうだろうとも。他でもなく、我らが花姫ジュリア様のおかげだよ。……それに、少々君の姿を借りてしまった」

「理由が理由だ、致し方ない。兄上とエミリア、それからルイーゼ夫妻のオシオキの話は急ぎ父上にも通さなければな、」


ジャンの言葉に頷いて、話を纏めかけたシルヴィオが不意にぴたりと動きを止めた。そうして、敢えて固くしたような表情でゆっくりとジャンを見る。


「…………ジャン。念の為聞くが、『私の婚約者』であるジュリア様に何もしていないだろうな?」


その声音がなんとも厳しくて、私は思わずジャンとシルヴィオの顔を交互に見比べてしまった。……こ、これはまさか私のために喧嘩は止めて!的な、アレ!?


「あの、シルヴィオ様。そもそもわたくしが一人で向かおうとしたジャン様に声をかけたのです。ルイーゼ夫妻のこともあって道中は花姫としてでなく付き人のように振舞っていましたし、あ、勿論エスコートもされておりませんよ!」


慌てて私が口を挟むと、私の言葉を受けた二人からそれぞれに全く違う反応が返ってきた。

頭を抱えて深い溜息を吐いたシルヴィオに対して、やたらと軽い調子のジャンが弁解をありがとうございますと言いながら笑う。

その対照的な反応に首を傾げていると、すぐさまジャンがシルヴィオをからかうような声を出した。


「まったく、信用がないなあ。ジュリア様の仰る通り、友と和解した以外には何もないよ。……シルヴィオ、念の為聞くけどそれは嫉妬かい?」


嫉妬という言葉を聞いたシルヴィオの肩がわずかに揺れて、少しの迷いのあとで確かに頷いた。


「……ああ、これは紛れもなく嫉妬だとも。大事な婚約者が、未遂とはいえ過去に求婚してきた相手に連れ出されるなど。気にならないと言う方がおかしいだろう?」


……あ。

そういえば、そんなこともあったっけ。そうか、そうだとしたら嫉妬もするはずだ。何より私の対応がまずい。


「も、申し訳ございませんでした」


後悔の念でしゅんとして頭を下げると、溜息を吐いたシルヴィオの顔がやっと緩められた。


「わかって貰えたならば良い。……あなたはもう少し、他に対する警戒心というものを持ってくれ。……出来れば、私の為に。」

「はい、」


ふっと寂しげに微笑んだシルヴィオに何度も頷いていると、その様子を見ていたジャンからは意外そうな声が上がった。


「やっぱり変わったねえ、シルヴィオ。昔はどんなシニョリーナにも、本当の意味で心を動かさなかったのに」

「……おかげさまでな」

「おかげさま、ねえ。……ま、そんなに心配しなくても一度振られた相手に手を出したりなんかしないよ。僕は昔から諦めが良いんだ」


そう言って清々しく笑ったジャンに、わざとらしくとぼけた声を出したシルヴィオが首を傾げた。


「はて。そうだったか?」


まるで兄弟がじゃれつくように会話をする二人を眺めていると、そのうちに食事を運んできたブルーナが一人の人影と共に小広間を訪れた。


「失礼いたします」



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