きつねと栗とウロコもようの小刀(童話)
真っ赤な秋。
きつねのゴンは籠いっぱいに栗拾いをしました。
その帰り道、ともだちのシロが川べりで座りこんでいました。
じまんの白いけなみも、今日はなんだかしょんぼりしています。
「どうしたんだ、ぼーっとして」
「うん。これから悲しいことがおこるんだ」
シロはジッと川の水面を見つめています。
ゴンはシロがなにを悲しもうとしているのかよくわかりませんでした。
未来のことなのに、どうして今悲しいのかも、よくわかりません。
でも、ゴンの背中にはたくさんの栗があります。とてもおいしい栗です。
ゴンは栗を分けてあげることにしました。
「そっかー。栗、半分いるか?」
「いいのかい?」
「いいぞ!」
そこでゴンは「しまった!」という顔をしました。
彼は半分なんて言ってしまったけど、全部でいくつあるかをちゃんと数えていなかったのです。
半分以上シロがもらっていっても、ゴンには確かめられないのです。
「いち、にー、さん、しー……。んー」
一つ一つ、シロが栗を数える声がします。でも、肝心の籠の中身は見えません。
ゴンはこわごわと、シロが栗を数えおわるのを待ちました。
やがて、重いままの籠を返されました。
シロを見ると、彼の手には、一つしか栗がありません。
「はい、半分取ったよ」
「うそつき」
ゴンは怒りました。
でも、シロはにこにこと笑っています。
ゴンはそれを見て、ちょっと困りました。怒れなくなってしまったからです。
「これでちゃんと半分だよ。そうそう、これをどうぞ」
「……これは何だ?」
シロに渡されたのは、きれいなウロコ模様の小刀でした。
青くて、透きとおっていて、魚のようにも見えます。
「きれいでしょう。栗のお礼にあげる。ゴン、バイバイ」
「シロ、またねー!」
シロは栗を持ち、手を振って北のほうに行ってしまいました。
ゴンはその日以来、シロと会うことはできていません。
でも、毎日欠かさず小刀を拭いています。