ななよのクリスマスツリー(ローファン)
毎年、クリスマスの一週間前から二十三日の間に、世界各地に植えられる樅の木に願い事を書く。すると、サンタクロースがクリスマスの夜にその願い事を叶えてくれるのだ。七夕のようなクリスマスイベントである。
そんなクリスマスも近づいた、東京某所。
広場中央に黒々と生えている樅の木に向かって、引率された子供たちが短冊を片手に一心に走って行く。
結局こよりを上手く結べなくて親に頼んだり。高い位置によじ登り、落ちそうになって立派な枝に支えられたり。多少のトラブルは毎年のこと、皆、手慣れた様子だ。
不思議なことに樅の木々は、誰かが掘り返したようにクリスマスイブの日には忽然と消える。しかしクリスマスの朝には戻っていて、吊るした短冊と同じ位置に願ったプレゼントがあるのだ……。
ボクはウラジロモミノキトレント。日本ではおなじみのクリスマスツリーさ♪
子供たちの願いを枝に抱えて、世界に等しくふりつもる雪も広く深い海もなんのその、北の大地をひた走る。目指すはサンタクロースの生息地、フィンランドのサンタクロース村。
目的地が近づけば、ボクの担当地域――日本と時差がない地域のトレントたちと合流するようになる。
「|Oh, too cold!!《うお、さむっ》」
「やあ、ポフツカワトレント。ニュージランドからお疲れ様~」
「这是一年来的第一次」
「|O se lala lelei foi i lenei tausaga《今年も良い枝ぶりだね》」
言葉の壁も、ボク達には関係ない。なんとなくわかる。再会を喜びつつ枝を振り絞り、根を前に繰り出し、目にもとまらぬ速さで進むのだ。
「|Tervetulaoa!!《ようこそ》Odotimme.」
仮道管も凍えるようなフィンランドの夜更け。そんな中ボクたちを迎えたのは、サンタクロースの補佐役のトントゥたちだ。小人の彼らはボクらが運んできた願い事が、本当に子どものものかをチェックし、サンタクロースが「|Hyvaa joulua!《メリークリスマス》」と唱えると、短冊は「ぽん」と軽い音を立てて金のリボンがかけられた赤い包装紙のプレゼントに大変身。
たくさんのプレゼントを実らせて、ボクらはもと来た道を競争するように戻っていく。
プレゼントを落とさないように慎重に、道に迷わないよう星の標に忠実に。
人間たちに気づかれないように抜き根差し根、だけどクリスマスイブの夜が明けてしまう前に。
薄水色の朝日を浴びて、ボクは元いた場所に植わりなおす。よっこらせ。
あとは子供たちがやってくるのを待つだけだ。年に一度の歓声を期待し、風もないのについつい枝を揺らしてしまう。
いけない、いけない。ボクはいたって普通のモミノキなのだ……。
クリスマスに七夕が混じってしまった世界線、みたいな感じでよろしくです。
日本の樅の木はウラジロモミノキという種が一般的らしい。あとはドイツトウヒという種が多いらしい。トウヒは欧州原産だとか。
外国語の会話は上から英語、中国語、サモア語、フィンランド語で、英語以外はグーグル先生に翻訳してもらったので合っているか謎です。
ポフツカワというのはニュージーランド原産の赤い花が咲く木らしいです。南半球は夏ですし、フィンランドとの寒暖差ヤバそうだなって思いながら書いてました。他の地方のクリスマスツリーの樹種は面倒だったので調べませんでした!(ぬけぬけ)