お残し、ダメ☆絶対(微ホラー)
俺はトラックにはねられて死んだ。それが少し前の記憶だ。
そして今。獄卒に引っ立てられて、目の前にはぐらぐらと煮立った巨釜。死んだ目をした亡者仲間が、中でぷかぷか浮いている。闇鍋のようだ。
「さあ。飛びこむんだ」
背後の鬼のイケボに脅されて、ごくりと喉が鳴った。
嘘やん。
だって煮立ってるって。ぼこぼこ言ってるって。
躊躇っていたのに。とん、と背中を押されて。
「ぎゃああああああ!!」
どぼん。
「あづううう!!」
粘るような熱から逃れられず。閻魔っぽい奴に下された判決がよぎる。
「なんで! なんで! たかがニンジンを吐き出したくらいでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
頭の中で、ニンジンが怨嗟の声をあげはじめた。
『ナンデ、ナンデ、ナンデ』
『タベテヨ。僕ラニ罪ハ無イノニ』
『君ノ唾液ニ包マレテ』
「うるさい! うるさい!」
目を瞑り耳を押さえても無駄。
『そろそろ反省したかなあ……?』
野太くものんびりとした声が降ってきて、頭の両側面にグッと強烈な圧力が掛かった。
箸だ。熱湯から摘まみあげられ、巨大な口に運ばれる。
みしゃっ。ぼりっ、まりまり……。
『まだ火の通りが甘いな~』
体は粉々になって粘っとして。それでも意識のあるまま肉のトンネルを通った。
気づけば鍋の中に戻っていて。
『君ノ歯ニ、舌ニ、押シツブサレテ』
『君ノ一部ニナリタカッタノニ』
『ナンデ、ナンデ、ナンデ』
繰り返される拷問に、心はぽっきりと折れた。
『おっ、やっと柔らかくなった。来世はお残し駄目だよ~』
もう、ニンジン残しません……。
ニンジンは、グラッセが嫌いです。ニンジンの料理はきんぴらごぼうとパウンドケーキが好き~!