ジャック先生(微ホラー)
ぽっ。
透かすような赤い火が、僕の意識を明るくした。鼻唄交じりに指を鳴らす。
パチン。パチンパチン。パチンパチンパチン。
ぽっ。ぽっ、ぽっ。ぽっ、ぽっ、ぽっ。
墓場に続く坂道を、カボチャのランタンがぼんやり照らしだした。
毎年恒例のイベントだ。教え子たちを待つべく、私は手ごろな墓石に腰かけた。昔は夜通し立つのも苦じゃなかったんだけどなあ……。
さて、誰から来るかな?
「先生ー、来たぜー!!」
「どうよこれ!」
「カンペキな仮装でしょう?」
坂道を駆けてくる、シーツのお化け、化学繊維の三角帽子を被った少女、ダンボール製の蝙蝠の羽を背負った少年。
家庭の工夫っぽさが随所に見られる出来栄えだ。
「おや? 角が」
駆け寄ってきた悪魔の子の、艶やかな角を指摘すると、彼は誤魔化すようにはにかんだ。
「えへ。ちょっと解けちゃって」
「次は気をつけるんだよ」
お仕置きがてら弾く。こんっ、と硬質な音がした。
「いたッ! 先生ヒドいよ」
「せんせー、はやくー!」
涙目の彼を宥めながら、他の子たちに急かされて見渡せば。いつのまにかクラス全員が揃っていた。
「うん、みんな怪我はなさそうだね。さあ、今年の成果を見せておくれ」
「「「はーい!」」」
子どもたちは手に手に青白く光をこぼす人魂を掲げ、楽し気に叫んだ。
「「「トリック・アンド・トリート!」」」
「はいはい。ちょっと待ってね」
パチン。小さい手の中の人魂は、僕の魔法で甘いキャンディーに早変わり。
「ハッピー・ハロウィン、子供たち!」
ボッ、と自分のカボチャ頭を瞬かせれば、子供たちは歓声を上げた。
「変身疲れた~」
「やっと終わったー!」
「いやー、課題終わりの人魂は格別だね!!」
シーツは半透明になり、使い魔の帽子は歌いだし、蝙蝠の羽は伸びをする。子供たちはさっそく出来立てのキャンディーを口に放り込んだ。
人間のハロウィンは、まだ擬態が不安定な魔の幼子たちの魂狩り訓練に丁度いい。
頬を押さえる幼子たちに目を細め、僕は念のためにとポケットに入れておいた人魂を齧った。最近はいろいろと加工することが多いけど。変わらない味に、僕はほっと息をついた。
ハロウィンSSでした。
人魂の味、私は、ほろ苦いとか、電気みたいな味かな~って思ったんですけど、友人は綿あめみたいじゃないかな~、などと言っていました。