7話 鍛冶屋【ドロイ】
ゲーム内では、既に約1ヶ月が過ぎた
僕は、ベットから立ちあがり、体を伸ばす
ベットに腰掛けボックスから赤いりんごのような果実を取り出しかじる
あいからわず、酸っぱいな⋯⋯
ポトルは種がなくて食べやすく、味はりんごより少し酸味の強いといったところだ
ポトルを食べながら柊はこの1ヶ月を思い返した
2日目の夕方、リリーを家まで送り届けると、
リリーは僕の耳元で、
シュウ様のこと、好きでいるのは自由ですよね⋯⋯
と囁くと小悪魔のような笑みを浮かべ、僕を置き去りにして屋敷の中へ入っていった
僕も少女の後を追う形で屋敷に入り、エルバの書斎に着くと、依頼達成の証拠として、エルバから封筒を受け取った
何故かは知らないが、エルバさんはとても嬉しそうだった
執事とメイドは少し複雑そうではあったが⋯⋯
ギルドに戻った僕は、封筒をエンリに渡し、報酬として金貨1枚を手に入れそれから、次の日の早朝に受けられる依頼がないかを聞き、店の荷物運びの依頼を受けることにした
その日からというもの、僕は早朝は荷物運びをし、終わったあとは服屋や、レストランの手伝いの依頼や薬草採取の依頼を受け、街を巡回しシャルからの電話に出てと元の世界よりもハードな生活を送っていた
時々リリーが僕の元を訪れ色々な話をしてくれるおかげでギルド内に僕のあだ名を知らない冒険者はいなくなった
そして、ようやく昨日ランクがひとつ上がり、僕は晴れて個人ランクがEとなった
Eランク昇格試験はなかったのは、まだランクが低いからだろうか⋯⋯まぁ、無いならないでいいけどね
エンリから貰った冊子によれば、Eランクからチームを作ることが可能となるみたいだ
チームの加入はFからでも出来き、レオンからも勧誘されたのだがFランクの僕が入るのは気が引けるので断ることにした
何故僕なんかを誘ったのかは未だに分からない⋯⋯
ポトルを食べ終わるとスマホを取り出し電源を入れた
無の月 23日
太陽の刻 5時25分
そろそろ早朝依頼の時間だ
僕は壁にかけてあったコートを羽織るとボックスにスマホをしまい、部屋をあとにした
〜
「はいこれ、依頼達成の報酬ね」
「ありがとうございます」
そう言って、カウンターに座る髪の長くて、背の低い女性から大銅貨を3枚もらう
この女性はエンリさんの姉のアンリさんだ
アンリさんはエンリさんとは異なり、茶髪で髪は長く、フレンドリーで2つの大きくて、重そうな果実をぶら下げており、背が低い
だが全てエンリさんと違う訳では無い
2人に共通するものは意外とおっちょこちょいなところだ
そのためか、結構冒険者たちから人気がある
「あっ!そうだそうだ
ねぇねぇシュウ君
シュウ君に指名依頼が来てたよ〜」
「どんな依頼ですか?
あと、三田が家名ですよ⋯⋯僕⋯⋯」
「それは何度も聞いたよ
あっ!女の子に名前で呼ばれるの慣れてないの?」
「慣れてないとかではなくてですね⋯⋯」
チラリと後ろを見る
屈強な男達が僕に視線を飛ばし、握っていた硬そうな木の実を握りつぶす
うわぁ⋯⋯僕も握りつぶされるのかな⋯⋯
人気であるが故に、名前で呼ばれている僕を敵視する冒険者が多くなった⋯⋯
理由は、三田が家名だとアンリに説明したその日にアンリが広めたせい⋯⋯
しかも、何故か今僕は鬼国ハーバーラムとかいう国出身となっている
「図星か〜、ならエンリにも言っとくね」
にやりと笑う
「それも何度目ですか⋯⋯
既にアンリさんが伝えてくれたおかげで、エンリさん僕に気を使って三田君って呼ぶようにしてくれてますよ」
「そっかそっか
良かったね」
「⋯⋯」
正直呼び方など、どぉでもいいが⋯⋯
殺気が減ったのは素直に嬉しい
「それで、依頼の内容は?」
「なんか日に日に冷たくなっていくね⋯⋯」
「おちょくってるんですか?」
「うん、君と話すの楽しいから」
悪意しかない笑み
この人わかっててやってるな⋯⋯
はぁ⋯⋯帰り道には気おつけないと⋯⋯
「はぁ⋯⋯本音は?」
「仕事をサボれるから」
そんな理由で僕の命が危うく⋯⋯くぅ⋯⋯
「なんか私の扱い慣れてきた?」
「そんなことはいいので⋯⋯依頼内容を⋯⋯」
これ以上ここを占拠していると⋯⋯後ろが怖いので⋯⋯
「むぅ、まぁそろそろ止めないと怒られちゃうから⋯⋯今日は許してあげよう!
えっとね⋯⋯依頼主はドロイさんで内容は、店の手伝い」
許してあげようって⋯⋯
「⋯⋯店って?どんな店ですか?」
「鍛冶屋」
「鍛冶屋⋯⋯」
「武器の手入れしたり作ったりするところ
まぁ、詳しくは行って本人に聞いて
それから、はい、コレが依頼書ね」
僕はその依頼書を受け取り、細かく見ていく
〜ドロイから柊への指名依頼〜
【依頼内容】
・武器や防具の手入れ、製造の補助
【期間】
・半月程度
【依頼破棄の期限】
・無し
【補足】
・3食飯付き、住居不要(用意済み)
【報酬】
・補助してくれた期間での売上により異なる
〜
依頼内容や報酬はいいが、期間がなぁ
冒険者となるためには三ヶ月でDランクまで上げなければならなかった
そのため半月も、ほかの依頼を受けることが出来なくなるのは痛い
するとアンリが、僕の心境を察したのかニヤリと笑った
「ランクの事なら心配しなくていいよ、シュウ君がランク上げに時間がかかったのはモンスターの討伐とかを受けず、薬草採取とかの結構誰にでもできるものばかりしていたから
それに、指名依頼には評価っていうものがあるんだけど、その評価や、指名依頼の数によっては依頼達成の数に関係なくDにあがることが出来るんだよ
今回の依頼内容は期間が長いから、もしも評価が良ければこれだけでDに上がれるよ」
「そうなんですか」
「それに、この人はシュウ君のこと知ってるから何かと融通してくれるよ」
ならありかな
僕はドロイからの依頼を受けることにした
「はいはい、ならこれが地図ね
じゃ、がんばってね、お土産宜しく〜」
「この地図どっちが北ですか」
「あからさまに無視しないで欲しいなぁ⋯⋯」
悲しげな声をわざと大きめに出し、目元を濡らす
──バキッ──
後ろから嫌な音が聞こえた
「⋯⋯甘いものでいいですか?」
「鍛冶屋の近くにある象蜂の蜂蜜たっぷりの限定パンケーキがいいなぁ」
「それって帰ってくる日に買わなきゃ無──」
「買ってくれないんだね⋯⋯」
「そ、ソンナコトイッテナイジャナイデスカ」
視界の端で切れ味よさげな獲物が光る
「なら!買ってきてくれるの!?」
「ハイ⋯⋯」
「やったぁ!」
半ば強引にお土産の約束をさせられた
※
「アンリなんであの子にかまうの?
ドロイさんに頼まれたから?」
アンリの同僚の女性が裏で休憩しているアンリに声をかける
「ん?まぁ、それもあるけどね⋯⋯」
「あるけど?」
アンリは少し間を開けて
「いじるのが楽しくなってきたから」
「あんた⋯⋯」
てへっと笑う
「まっったく⋯⋯程々にしなさいよ」
同僚の女性は手を振りカウンターへと戻っていった
「程々⋯⋯か⋯⋯」
アンリは小さくもらす
「でもなぁ⋯⋯ここで辞めたら⋯⋯消えちゃいそうなんだよなぁ⋯⋯あの子⋯⋯」
天井を見上げ船こぎする
「どうしたらあんなふうに悲しく笑えるのかな⋯⋯」
無意識に気にしてしまう、今にも消え入りそうな姿を⋯⋯
「あ〜あ⋯⋯お守りの分ドロイさんからもっと貰っとけばよかった〜」
テーブルの上のクッキーを取りかじり飲み込むと、机の上のティーカップに手を伸ばす
既に空になっているとも気付かずに
※
ドロイの鍛冶屋は、アラン王国の城下町の東側にある
ちなみにアラン王国周辺には、北に大きな山脈、南には農村などが多く存在し小麦畑が広っており、西には草原、東には荒野が広がっている
なんでも、東側には昔国がありアランとドゥーンの連合軍によって滅びたとか
南は大森林があり、北には国がなく、東西の方向に国がいくつか存在しているため鍛冶屋や、道具屋などの冒険者用の店は東西に多い、南には農民達様の道具屋や物価の安い店、色街などがある
北は逆に物価が高く貴重なものばかり⋯⋯
一応それぞれギルドが1つずつ存在しているが、冒険者達は北や西に集まるのだとか理由は
ちなみに、レオン達は西の方に拠点を置いているため初日以降はあっていなかった
ギルドから歩いて小一時間後。
東の街にひとつだけボロっちい木でできた小さな店が建っていた
その店には、鍛冶屋【ドロイ】と書かれた看板が掲げられており、店内には客が見当たらない
ドロイの店に来るまでに武器屋や鍛冶屋もいくつかあったが1番小さくて年季の入った店先だ
「すみません、ギルドから依頼を受けて来ました、柊です」
店の扉を開き、小声で言った
柊の声が聞こえなかったのか、ドアにつけられたベルの音が鳴り響くだけだった
店内には左右に色々な剣が飾られておりドアの向かい側に小さなカウンターがあるという内装になっていた
年季の入った店先と打って変わって店内は、綺麗に掃除されており、剣などの武器を置いてある棚はピカピカだった
声が小さかったために聞こえなかったと思った柊はいつものボリュームでもう一度言ったがしかし、物音ひとつしない
柊は大きく息を吸って叫ぶ
「すみません、ギルドから──」
──その瞬間
銀色に光る何かが柊に向かって飛んできた
柊は思わず左に避けるが⋯⋯
反応が遅かったせいで右頬をかすってしまった
「うるさいわぁ」
頬の切り傷から血が垂れる
僕の頬を切った銀色の短剣は後ろの壁に突き刺さっていた
だが1番僕が驚いたのは──
その短剣は僕が避けていなかったら壁ではなく、僕の額に刺さっていたということ⋯⋯
怖気っく僕に短剣を投げたであろう人物が、カウンターの奥の部屋に入ってくるよう指示してきた
渋々支持に従い部屋の中に入る
僕は入るやいなや目の前に広がる光景に目を奪われた
一瞬で汗ばんでしまうほどの熱に、真っ赤な物体をハンマーで叩く音、叩いた瞬間に飛び散る火の粉
そこには、大きな溶鉱炉の前で座りながら、左手で火箸を握り、火箸で挟んだ真っ赤な物体を右手に持ったハンマーで叩いている小さな影があった
影は僕に気がついたのか真っ赤な物体を水に突っ込み金床の上に置いて指を鳴らす
鳴らした音に呼応し、天井に備え付けてあるランプに光が灯った
「あ、あなたは⋯⋯」
部屋が明るくなったことで先ほどの小さな影の姿がはっきりと見えた
その正体は僕にに冒険者となるための条件を突きつけたドワーフだった
「わしはドロイ、小僧、お前に依頼したものだ」
柊の半分ほどの背丈で、耳が少しとんがっている老人は、顎に生えている立派な白い髭を撫でる
「早速だが、まぁついてこい
今日からお前が暮らす場所に案内してやる」
白髪のドワーフ⋯⋯、ドロイはゆっくりと立ち上がり不敵に笑った
読んで頂きありがとうございます