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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

失敗の懺悔

作者: 火乃椿

久々の投稿

 ごめんなさい、ごめんなさい。えぇ、私が悪いのです。お聞きください、お聞きください。お釈迦様、仏様、私の言葉に耳を傾けてください。この度は、彼に……父にあんなことをさせてしまった懺悔をお聞きください。私の心からの懺悔です、お父さんが帰ってこないのは分かっております。しかし、謝らないと私の気がすまないのです。どうか、どうか愚かな私の話を聞いてください。赦せなんて言いません、黙って聞くだけでいいのです。


 はい、落ち着いてお話させていただきます。謝りたいのは、私の父です。羽鳥新一(はとりしんいち)という作家です、数年前に自殺をした作家のことです。私は、その娘のフジヱです。数年前から謝りたいと一心に願っていました、それが叶って私はこの上なく幸せです。世間には、スランプからの自殺と報道されましたが本当は違うのです。私が殺したのです、私がお父さんが悩んでいるのにも気づかずピアノを弾いてしまったことが原因です。そして、父が部屋で自殺するところを見てしまいました。梁に括り付けられた縄はお父さんの大切な机の上にぶらりと垂れ下がっていました。お父さんは、机の上に立つとその縄に首を掛けました。幼い私には、何をしているのか分かりませんでした。部屋のふすまの隙間からじっとそれを見つめていただけです、分からないのに怖いはずなのにずっとそこでお父さんを見つめていました。机を蹴る前、お父さんと目が合いました。生気を失ったような、何か絶望したような目でした。そして、私に微笑んでくださったのです。いつもの私を慈しむような優しく、そう父親らしい微笑みをこの未熟な私にくださったのです。私はそれを見た時、入ってきていいと思い少し開いたふすまに手を掛けました。その途端、お父さんは机を蹴って死にました。声も出ませんでした。腰を抜かしてへたり込み、茫然とお父さんを見ていました。苦しそうにうめくあの声は、今でも寝る前やふとした時に思い出してしまいます。お父さんが息を引き取ったあと、私はしばらくそこでぼーっと意識がなくなったようにお父さんを見ていました。

 何時間かしたあと、お母さんが私の様子を見に来ました。私は、お母さんに見せたくありませんでしたが声は出ず、体も石のように固まって動かせませんでした。お母さんは、お父さんの死体を見ました。キャアアアアアアッと甲高いピアノでは聞いたことのない高い声で叫びました。そのあとは皆さま、お察しの通りです。警察が来て、事情聴取のようなことが行われすぐに世間に、天才作家 羽鳥新一が自殺をしたという報道が世間を駆け巡りました。

 お葬式はしませんでしたが、毎日のようにお父さんのお友達の作家さんが来てくれました。ショックで喋れなくなっていた私に児童向けの短編小説を読み聞かせてくれたり、日に日にやつれていくお母さんの手伝いをしてくれました。でも、お母さんは立ち直れませんでした。私にこう言ったことを覚えています。「こんなに苦しむなら死んだ方がまし、新一さんのところへ行った方が幸せ」と泣きながら私に言いました。優しいお父さんのお友達に励まされ、声はまだ出ませんでしたが少しずつ立ち直っていった私には、その言葉の意味がやはり解りませんでした。お父さんは、こんなに優しい人達を残してくれたのになんでそんなことを言うの? と未熟な私は思いました。楽しかったのです、お友達との生活が。お母さんが悩んでいることも知らずに、私だけ助かってしまったのです。

えぇ、そうです。お父さんが死んでしまった一年後に、喪失感に耐えれず死んでしまいました。睡眠薬を大量に飲んで死んでしまいました。私はどうしようもない愚か者です、両親を殺してしまいました。はい、私は一切合切を全てお話しました。お父さんのお友達に会っても今は救われません、疲れたような絶望したような私を可哀想だと撫でてくださるばかりです。

 もう私は疲れ果てました。お母さんとお父さんに懺悔したいのです、またピアノを聞いて欲しいのです。仏様、お釈迦様、こんな私でも救われるのですか? 救われたいのです、救われたいのです。償うために、懺悔するために……はい、はい……私は懺悔します。この身で償いたいのです。それを許してください。この身で償いきれないのは分かっているのです、ですが私にはそれしかできないのです……。お釈迦様、仏様、お父さん、お母さん……どうにか、どうにか未熟で愚かな私に償いをさせてください___。


 手に握った包丁をじっと見つめる。あぁ、これで私は楽になれる。謝ることができる……、刃を私の方に刺さるように持つと高々とかかげる。ぎらりと光る刃物が見える、これが今から自分に刺さると思うと体が恐怖で震える。そして、覚悟を決めると、私の胸元に包丁を勢いよく刺す。一瞬、痛みでうめき声が出る。血がどぱりどぱりと出る感覚が伝わる。痛い、痛い、悶えるほどに痛かった。でも、もうそれも分からなくなるぐらい目の前が暗くなった。

 私の人生は洋琴のようにお父さんのように美しいものではなかった。洋琴の崩れるような音色のように私は人生を自ら崩しに行った。

処女作の後日談みたいなやつです。処女作の「失敗」の方もよろしくお願いします。

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