プロローグ
さあお集まり頂きました紳士淑女の皆様。ようこそいらっしゃいました。この道化めの口上に、しばしお耳をお貸しください。
今からお話することは悲劇であり喜劇。虚偽であり真実。理想で塗り固めた張りぼてのお話でございます。
古きモノに囚われ、過去に縋り付くしか出来ぬ悲しき男。一つの恋の物語はやがて苦しみ、悶え、怒り、哀しさを纏って幕を閉じる。黒き希望に魅入られし男は新たなる幕開けを望むのか、はたまた再びの上演を演じるのか。
美しき恋が巻き起こす皮肉な笑いと悲しい結末。
未来は私の手のひらに。
さあさあお集まり頂きました紳士淑女の皆々様。
私はしがない道化役者。世界を嘲笑うことしか出来ぬ道化師でございます。しかし笑わせ商売のこの道化も、仮面の下はただの人間。どうか、心ばかりはお情けを。
―――おや、この道化の名を知りたいのですか?
それはそれはなんと名誉なことでしょう。しがない道化師の名に興味を持って頂けるとは。
しかしご安心くださいませ。私もこのお話に出てまいりますゆえ、すぐに気づかれるでしょう。なにせ私は道化役者。皆様を楽しませる存在でございます。
さあお集まり頂きました紳士淑女の皆様。開演でございます。