竜のお色直し3
「ではアルカナ様、こちらへ」
「うむ、よろしくたのむ」
挨拶もそこそこに、脱ぐところから始まった。
とはいえ、アルカナが身に着けているのは水蜥蜴の衣だけ。
肩に引っかかっているだけのそれをそれをはらりと滑らせれば、均整の取れた艶やかな裸体が顔を出す。
肉感に少し乏しいその身体は、確かに少女のものだろう。
しかし羨望すら寄せ付けない後光すら差しかねない素肌に、侍女は手にしていたはずのケープがするりと零れ落ちる。
一瞬放心してしまい、すぐに気を取り直してベルを鳴らした。
ベルが鳴って何事かとギョッとしていた勇者を無視し、侍女が一人ノックもせずに部屋に入っていく。
危害を加えることは無いだろうが不信感は募ってしまう……とはいえ、任せた以上口を挟むなんて無礼はありえない。
何よりあの竜神が害されることはありえないし、着飾るなんてのは戦場しか知らない男には分からない世界である。
ヴァルは適当に納得して扉の正面の壁に背を預けてこれからのことを考えていた。
もちろん着せ替えるだけなら一人でも問題ない。
しかし、相手はただ脱ぐだけで息をのんでしまうアルカナだ。
彼女は自分の意見だけでこの芸術の衣装を決めてしまうには惜しい、と人を呼んでしまったのだ。
当のアルカナは鏡の前に立たされ、何故か鼻息の荒い侍女たちに囲まれ困惑していた。
「これはいかがでしょうか?」
「すまぬ。我にヒトの感覚が無いので答えられん」
「ではこちらは?」
「いや、だからな――」
「こちらの方が!」
「これも素敵ですよ!」
「意表をついてこんなものは?」
「いやいや、アルカナ様にはこちらの方がお似合いでは?」
「良いですね、ではこういうのも……」
「すばらしい! あ、形ばかりではなく色も気にしなくては!」
「たしかにっ!!」
やはり害しようとする気配はないものの、あちこちから衣装を引っ張り出してはアルカナに着せていた。
最初こそ問いかけではあったが、数をこなすには着せるのがもどかしくなっていく。
身体に合わせては感想を言って二人が代わる代わる服を変えていく。
引きこも竜のアルカナは初体験の圧に押されており、最早何も口にすることもなく直立不動を決め込んでいた。
アルカナにとっては不要であり、よく分からないものなので『いつまで続くのか』こそが重要だったりする。
いっそ未知のモノに対して『大した胆力だ』とほのぼのしているくらいであった。
「か、完成してしまいました……」
「このような人が居るとは……」
「素晴らしい……いかがでしょうか?」
どうやら退屈な時間が終わりを告げたらしい。
姿見の前に立たされたアルカナは、きょろきょろと身体を見下ろすも、結局その良さを理解することは無かった。
それよりもヴァルに聞いたように、道具のサイズや使用方法で名前が変わる方に興味を示すほど。
何ともやりがいのない着せ替え人形だった。
「ふむ。先ほどよりは見栄えはよくなっている……?」
疑問系なのはやはり自信が無いからだ。
服を着る文化など存在しないのだから仕方が無い。
一応恩義は感じているようで、分からないなりにも気遣いが混じっていた。
「えぇ、それはもう!」
「勇者様も絶賛いたしますよ!」
至近距離にまで顔を寄せて言い募る。
わざわざアルカナと視線まで合わせて、だ。
未だその圧は変わらず、アルカナは思わず一歩後ずさり「そ、そうか」と答えるのがやっと。
ともあれ、これでヴァルを一撃必殺できそうだと満足する。
「ヴァル! 準備ができたぞ!」
「お、どうなった?」
扉越しに叫び、返事を聞く間もなくばぁん、と扉を開いて勇者の眼前へと身体を投げ出した。
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