種族の違い
他種族へと姿を変える《千篇変化》と呼ばれるこの術は、竜としては小さいらしい六mの体躯を圧縮し、変化種族での自身を再構築する。
今回なら『ヒトだった場合の我』になるだけで、種族ごとに変化できるのは一つのパターンだけになる。
色々と注意が必要な術式だが、一度成功してしまえば手間もなく、まったくヒトとは面白いものだ。
「これでどうだ勇者」
黒い体躯が縮み、視線がぐんぐんと降りていく。
そんな我を見ていた勇者は、途中で視線を逸らして…いや、背を向けていた。
…おい?
なんだ、我はそんなにも醜悪な姿をしているのか?
共に歩く相手の不快感を煽るような容姿では今後に差し支えが生まれかn
「今すぐ服を着ろ!」
フク…?
ふく、とは何だ?
勇者との違いをキョロキョロと見渡し…。
あぁ、そうか、ヒトが身に纏うものか、とあたりが付いた。
しかし
「そんなものがこの場にあるとでも思うのか?」
「うっさい! だったらこれでも被ってろ!!」
腰に巻きつけた入れ物…たしかアレは鞄と呼ばれる容器だったか?
それから何かを取り出して投げつけられた。
不恰好にも顔で受け止めた我が引き剥がすように持ち上げたのは一枚のあちこちに突起物と紐が付いた大きな皮のようなもの。
どう使うものか、とくるくる回して確認していると、勇者が痺れを切らして取り上げ、体躯をぐるりと覆うように被せた。
なるほど、こうやって使うものなのか。
だが…
「先程と大して変わらんのだがこれで正しいのか?」
「ちゃんと【水蜥蜴の衣】を着ろ!
何で全開のまま放置なんだよ?!
とにかくボタンに紐の輪を掛けて前を閉じろよ!」
そんなことを言われても説明を受けねばヒトの文化など分かるはずが無かろうが。
被せられたままで我に非があると思えんぞ…?
受けた説明通り、ボタンは多分この突起物のことみたいなので紐を掛けた。
うむ、なるほど。こうやって『正面を閉じる』のか。
しかし開いた花を頭から被ったかのような装いに、やはり先程と何が違うのか良く分からん。
ともあれヒトの指先は、こうした細かな作業に向いているのかもしれん。
繊細な作業を完遂した我が満足していると、さらに勇者の指示が飛んだ。
「脇のところにある紐も絞れ!
反対側に穴があるから、そこにちゃんと通すんだぞ?!」
何故怒鳴る…?
まったく、ヒトの感情は移ろいやすいものだな。
脇、脇…と前足を持ち上げ、説明された穴と紐を捜す。
「そうだ、その横の紐を縛れ!
でないとくるくる回って固定できないし、動くたびにひらひら中身が丸見えになる!」
何を騒いでいるのか分からぬが、言われた通りに紐を適当に繋ぐ。
これで何が変わるのだろうか。
そんな疑問を持ちつつ、紐を絞るとヒラヒラとしていたのが少し制限されて身に纏わり付いた。
「これで良いのか?」と勇者に問い掛ければ、そっぽを向いたまま「あぁ、大丈夫だ」と答えられた。
やはり見るのも嫌なのだろうと思いつつ、自身の体躯を観察する。
頭に生えた鬣の色は黒で、長さは背の中ほどまであるが、生え際が頭蓋にしかないから鬣と呼んで良いのかが不明だ。
後ろに比べれば前は短いものの、少し視界を覆って邪魔だな…これは後ほど切り落とすか。
しかしこれ、落としてもすぐ再生したりしないよな…?
それと体長が勇者と比べて頭二つ…いや三つ分近く短い。
いくら勇者がヒトの中で大きくとも、この差は余りいただけない。
よくよく見比べてみれば四肢の肉もかなり少なく、やはり我は種族差を越えて随分と小さいのだろう。
そんな色々を通して改めて自覚するのは自身の非力さ。
特に戦士として力を請われているのだから、この見た目は『残念』に分類されるのかもしれん。
威嚇の意味では、中身が伴わなくとも『脅威』を見せ付ける見目の方が有用だろう。
まぁ、我の場合は中身の方が余程ぎっちり詰まっている訳だが…困ったものだ。
そんな風に自身の非力さを噛みしめていると
「ていうかお前女だったのかよ?!」
周囲に勇者の慟哭が響き渡った。
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