常敗の挑戦者は希う
言われていれば、確かに我が喰らったのはヒトの生命力や魔力だけで、物理的に貪った覚えがない。
あぁ、ただ喰った中には『技術』も含まれるかもしれんな?
初めて口にしたのは竜の肉で、最後に口にしたのも同じくだ。
しかしあれだけ不味いとくれば、わざわざ血肉を口にする気にもならん。
どちらも栄養補給のエネルギー充填のために仕方なく、なのだ。
だが、我は我を害する相手に手心を加えるほど優しくはないぞ?
我と対峙したのなら死者が居てもおかしくないはずだがな。
「暴竜アスランと呼ばれた竜がここを通過した時の話は知らん。
まぁ…その頃はお前を殺しに来るやつ等ばっかだから、返り討ちに遭ってもお互い様だろう。
そして今から五百年前。
誘き寄せられた禍竜ケトロオスが火山を通り掛かった瞬間に消えたと記録されてる。
身の丈三十mもある巨大な竜が、当時の監視役が見失うような『何か』をお前がやったんだろう?」
ふむ…これも伝承とやらなのだろうか。
よくもまぁ、数十年…長くとも百しか持たぬヒトの身で、寿命よりも遥かに昔の話ができるものだ。
語り継ぐ、という技術は、短き生を謳歌するヒトの知恵なのだろうな。
「それからはこの山に入る山道に建てた神殿が関所の役目をしている。
最強の竜に挑んで負けても巣から追い出されて放置されるだけ。
ただ命の保障はないから『一定以上の強者でなくては入れない』って誓約を課して解放されている」
なるほど。
だから神殿とやらができてからはヒトの選別が行われ、力が増したように感じたのか。
何の嫌がらせかと思えばそんな理由があったんだな。
「神殿ができてから挑戦者は増えたと言ったが、その間の死者はほぼゼロ。
『ほぼ』ってのはお前が殺したんじゃなく、環境に負けたやつらだと言われている。
ズタボロにされて火山に放置されたら普通は死ぬが、負け前提の『挑戦』なんだから準備しろって話だろ」
そこまでの割り切りはどうなのだろうか?
己の生死を思えばそれ程軽いものでは無いだろう。
あぁ、いや逆か。
だからこそ我が苦労するような相手ばかりが来たのだから。
「ともかく、ここは強さを欲する者の修行場みたいなもんだ。
死ぬほどの圧力と、確実に負ける戦いを強いられれば嫌でも成長するからな!」
口をあんぐり開けて「ハハッ」と言い放つが、負けを積み増しながらも何度も我に挑戦するヒトはやはり馬鹿なのだろう。
我の機嫌が悪ければ、もしくは当たり所が悪ければ……ただそれだけで塵も残さず消滅するような戦いなのだから。
というか、勝手に修行場にして一方的に押し掛けるとは迷惑な種族だな。
<我の強さがどの程度かは分からぬが…>
「そうだな、お前の強さは人の身では…いや、竜を含めた『上位種』でも簡単には測れない。
さっきの火竜は『属性持ち』だから比較的上位だと言えるが、お前はそれよりも遥かに強い。
俺程度があっさり勝てる相手だしな…だからお前は、恐らくこの世界での『最高峰の一つ』に違いない」
我との比較対象が挑戦者か通りすがり。
偏った価値観を伝えるための言葉は、驚くべきことに褒誉となって返ってきた。
嫌悪感とは逆。
好意的な思いを持ったからか、核が少し熱を持つ。
新しい感覚を身に刻みつつ
<そんな我に何故挑む?>
過去、ここまでの頻度で我の下に通った者は居ない。
いくら戦闘不能にまで追い込まれたことがなくとも、命をすり減らす戦いを続けるのは随分とイカレタ行為ではないか?
眼前に佇む敗北者は、我の言葉に伏せていた顔を上げ、決意表明のように宣言した。
「俺が求めるのは強さだ。
何者にも負けない、強さが欲しい」
お読みくださりありがとうございます。
Twitterで起きてる大惨事には目を瞑ってタイトル考えたんですがぐっだぐだです…。
何でタイトルだけでこんなにかかるんだろう…。




