プロローグ
失敗した失敗した失敗したッ!
這い寄る大失態の足音に思考は焦って空転し続ける。
俺は今一番の窮地に立っているかもしれない。
どうしよう。
で埋め尽くされた俺の頭はパンク寸前。
暑くもないのに手に汗握る状況に、連れ合いの手を掴んでいたことを思い出して慌てて緩める。
あぁ、俺はこんなにも頭が悪い男だったろうか。
隣を歩く連れ合いに視線を送ればその理由も自ずと出てくる。
柔らかそうで腰まであり、細く光沢がある黒髪が、歩く振動と風を含んで緩くなびいている。
凛々しい柳眉と意志の強さを宿したかのような緋色の目、俺の胸ほどしかない背との落差で、性差を無視して何とも言えない色香を感じさせる。
これだけの説明だと華奢な印象を持つかもしれないがとんでもない。
筋肉と脂肪のバランスが完璧としか言えないボディラインを実現しているんだから。
人の枠から零れそうな際立つ容姿を持つ連れ合いは、最早後光を背負っているような錯覚にまで至る。
何故俺がここまで詳しく連れ合いの容姿を言及できるのか、といった疑問を持つのは至極当然だ。
しかしそれには非常にシンプルな答えが存在する。
俺の連れ合いは今、貸した【水蜥蜴の衣】って名前のケープを身に付けているだけだからな!
つまり全裸ケープ!
靴や下着すら身に付けていない…一応裸よりマシとはいえ、いくらなんでもこれはない。
部分的に隠れ、動くたびにチラチラと肌が見えてしまい、いっそ淫靡な印象を抱きかねない。
こうなるとむしろ全裸の方がまだ『芸術』として押し通せそうで本気で怖い…。
…どう見てもそっち系の趣味の人ですやん。
衝撃の余り言葉遣いまでが崩壊し、今更になって頭を抱える羽目になっている。
背徳的かつ妖艶な印象を強烈に与えるだろう組み合わせ。
言葉だけでも十分な破壊力があるが、現実を前にすると思わず膝を屈してしまいそうになる。
あぁ、どうしてこうなった…。
堂々巡りの問答は今尚続く―――。
お読みくださりありがとうございます。
文学フリマに参加するため、本筋は変わりませんが改稿して再掲載しています。
と言いつつプロローグ時点で変更掛けていますね…ともあれ、お付き合いいただければ幸いです。
本日10時にも更新しますので、再度足を運んでみてください。