第九話
翌朝、僕は目を覚ましても動くことができなかった。
白井さんが僕を掴んで離さないからだ。
(さて、どうしよう)
昨日は不覚にも眠ってしまったが、この状態は人に誤解を生みかねない。
その場合僕は社会的に終了だろう。
……いや、同意の上ならいいんだろうけど。
それに実際には僕からは何もしてないんだけどっ、コレ大事っ。
まあ、それもこれも白井さんが覚えてなければ一緒だ。
(あー、女の子の体って柔らかいなー)
こんな時だが余計なことを考えてしまう。
「うう、んっ」
そうこうしているうちに、白井さんが目を覚ましたようだ。
身じろぎした白井さんと目があった。
と同時に、彼女は真っ赤になりながら僕と距離を取る。
(あっ、これ終わったかも)
僕がいよいよマズイと思っていると、白井さんがおずおずと話しかけてくる。
「えっと、昨日はその」
「あれ、覚えてるの? “京子さん”」
「はうっ」
試に昨日頼まれた呼び方でよんでみると、彼女は面白いように反応した。
「京子さん」
「うっ」
「京子さん」
「ううっ」
少し面白いかもしれない。
「その、わっ忘れて。全部なかったことにして」
「うん、わかったよ、京子さん」
「うううっ」
この位にしておこう。
「安心して、誰にも言わないから」
「そ、そう?」
「大丈夫、酔った勢いのキスはノーカンだから」
「ああ、もうそれはぁ」
彼女を困らせたいわけではないのだけど、昨日のことは触れないであげよう。
「それで、白井さん」
「あっ、あのっ、呼び方だけはええと」
「名前のほうが良い?」
「うん、できれば」
「いやなんで」
「いやだってその、友達だし?」
「おいなんでそこ疑問形」
「別にいいでしょ、もう」
「じゃあ、京子さん」
「はい」
「飲み過ぎには気をつけなよ。特に本命以外にあんなことしちゃダメだからね」
「う、うん」
白井さんは、心なしか打ちひしがれているようだった。
反省しているなら幸いだ。
「本命……本命って……私頑張ったのに、昨日あれだけやったのに…………」
うわごとのように何か言っているけど、声が小さくてうまく聞き取れない。
とりあえず、これで京子さんから訴えられることはなさそうでなによりだ。