表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第三話

 この喫茶店は大学の近くに位置するものの、やや奥まった裏路地にある。

おまけに店の看板は薄汚れていて一目見て飲食店だとはだれも思わない。

だが、店の内装は綺麗で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

いつも店内は空いていて、時折常連の客が2・3人座っている程度だ。


 カウンター越しに、コーヒーメーカーがコポコポと小気味いい音を鳴らしていた。

店内にはやや控えめな大きさでジャズのナンバーが流れている。


「素敵な店ね」


 彼女は店に入り、感心したようにそういった。

その声色に意外そうな様子が透けて見えるのは気のせいではないだろう。


 適当に奥のテーブル席を選んで座ると、マスターが注文を取りに来た。


「おすすめは?」


白井さんが僕に訊ねた。


「コーヒーかな、あとはケーキセットでもいいと思うけど」

「それじゃあケーキセットをお願いします」

「はい、お飲み物はコーヒーで構いませんね」

「ええ、お願いします」

「僕はコーヒーだけで」

「はい、かしこまりました」


 そう言って、マスターはカウンターの奥へと向かって行った。


「ここ、よく来るの?」

「まあ、たまにね」

「ひとりで?」

「そう」


 ひとりで喫茶店、この字面だけ見ると自分でもなんて寂しい奴なんだと思う。

でも、事実は事実。

 実際、先程マスターも珍しそうに眉をあげていた。

 2人とも会話を続ける中で、だんだん言葉がぞんざいになってきた。

僕はめんどくさいからだけど、向こうのことはわからない。

まあ、同期が会話してて丁寧語というのもどうかと思うし、このまま行かせてもらおう。


「私も来てもいいかな」


 これから、ということだろう。

いいかなもなにも、僕に止める権利はないのだけど。


「いいと思うよ。この店を気に入ってくれたのなら幸いかな」


 本心からそう思うので、思ったことをそのまま口にした。


 そうこうしているうちに、マスターがコーヒーとケーキを運んできた。


「あら、中村君はブラック?」

「まあね、単純に入れるのが面倒だから」


 これは嘘だ。

 実際は、ミルクや砂糖を入れるとコーヒーの香りや味わいがなくなるような気がするからだが、目の前で早速ミルクを入れている彼女にそんなことを言うわけにはいかない。


「中村君ってオタクなんでしょ?」

「っ、ゲフッゲフッ」


 まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったので、思わず驚いてコーヒーが気管に入ってしまった。


「ご、ごめんなさい」

「ゲフッ、いやいいよ。気にしないで」

「ただまあ、なんでまたそんなことを? 実際オタクだけどさ」

「だってオタクって、ぐるぐる眼鏡に大きなリュックでチェック柄のイメージがあって」

「いや、それこそ人それぞれだから。漫画やアニメでそういうのがオタクだってされてるのは多いけど」

「そうなんだ」


 こんな感じで取り留めのない話をした後、僕らは別れた。


「今度からは声をかける前によく確認することにしよう」


 この時僕は「流石に、もう二度とこんなことはないだろうな」と本気で思っていた。

白井さんのような女の子とまともに話す機会なんて、それこそ片手の指で足りるくらいしか経験がなかったからだ。


「まあ、少し面倒だったけど、たまにはこんな日もあっていいさ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ