第一話
大学の研究室に入って2ヶ月、7月も半ばを過ぎた。季節はすでに夏真っ盛りである。
僕は大学に入ってからこの方、可もなく不可もなくといった感じで学生生活を送っている。
僕の名前は中村俊也、とある大学の2年生だ。
うちの大学は1年の間は特にどこかの研究室に所属することも無く一括して教養部で講義を受けさせられる。そして2年から各専門分野の研究室に入ることになっている。
よって僕は今研究室で一番下っ端の2年生というわけだ。
研究室の所属は別に、当然この1年でそれぞれ人間の相性に基づくグループというものが形成されている。
例えば、イケイケの遊び仲間で集まったグループ。これは男女の交流も活発みたいだけど。
他にはガッツリサークルを頑張る体育会系グループ。
そしてあまり集まったりしないけど、趣味が合うオタク系のグループ。
女性陣ではこれ以外に美人だけどあまり他のグループと関わらない子たちだけが集まるグループもあるみたいだ。
そしてグループごとに隔絶されていないとはいえ、仲のいい悪いなんてのも関わってくるんだ……。
ちなみに僕は、言うに及ばずオタク系サークル無所属グループ、言い訳すれば専攻ガチ勢ってとこ。灰色の青春? そうだね、その通りだよ。
といっても、オタクだからといって必ずしも他のグループに虐げられるというわけでもなくて、結局その辺は相手次第といったところ。
その証拠に、今目の前に体育会系グループの中心人物が酒瓶を抱えて座っている。
「中村、飲もうぜ」
「いや、僕まだ未成年だからね。君とは違うからね」
「なんだよ、ケチ臭いなあ」
「いや、君僕が飲まないの知ってるでしょ」
「まあな」
目の前の男、山口昇は一浪しているため同期だがすでに成人している。
酒好きだが、いいやつで、こいつがいるおかげでうちの学部はオタク連中と体育会系のやつらが喧嘩せずに仲良く共生できていると言ってよいくらいだ。
……こうしてたまに愚痴聞き要員として呼ばれることは正直勘弁してほしいところだけど。
「ま、いいや乾杯」
「おう、乾杯」
とりあえず僕はジュースで、山口は日本酒で乾杯をした。
「それで今日はどうしたの?」
「なあ、聞いてくれよ、なかむら~。実は昨日バイトでさ~」
という風に、山口が聞いてほしいことをひとしきり話し終わるまで、合間合間で酌をしつつ相手をするのがここ最近のお決まりだ。
ひとしきり話し終えて、ある程度酒がまわったのだろう。
突然山口が話題を変えた。
「ところで話は変わるんだけどさ」
「うん?」
「お前、いい加減彼女作んねえの?」
本人に悪気はないのだろうが、悪気がないだけになおタチが悪い。
「あのさ、僕は不細工根暗ヘタレオタクなの。彼女いない歴=年齢なの。学部一の変人なの。君みたいに高校時代に3人も女をとっかえひっかえして、挙句今美人の彼女捕まえたイケメンと違うの。わかる!?」
「いやあ、高校時代は4人だけどな」
「なお悪いわ!!」
「まあまあ、それは置いといて」
「置けるかっ!!」
「お前顔は見れないほどじゃないし、付き合いはいいし、面倒見もいいし、優良物件だと思うんだけどな。――変人だけど」
「そこっ、そこだからっ!! もう自覚してるからっ!!」
「どうどう」
「僕は馬じゃねえ!!」
「まあまあ、結局お前彼女欲しくないの?」
「欲しいさ、でも作れる気がしないから諦めた」
「おっ、おうそうか」
その後、2人の間に沈黙が流れた。
しばらくして、僕と山口は示し合わせたようにしてグラスを掴むと、その中身を一気に飲み干した。
「まあ、さ。人間何があるかわかんないぜ」
「ありがとう。僕もそうだと思いたいよ」
「それじゃあ、今日はこれでお開きだな」
「うん、それじゃあまた明日」
「おやすみ」
こうして山口は僕の家を出て行った。
山口の相手をした翌日のことだ。
僕は今、目の間の状況をどうしたものかと考えている。
「それじゃあ、いただきましょう」
「あっ、はい」
僕は今、女の子と2人で喫茶店にいる。
(いったいどうしてこうなったんだ!!)
僕の心の中の叫びに応えてくれるものは、誰もいなかった。