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【黒の装殻】シェルベイル  作者: メアリー=ドゥ
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第38節:本条


「ハジメの奴は、自分が全ての災厄の始まりだと思っているが、俺たちはそう思っちゃいない」

 おやっさんはこちらに歩いて来るジンを見ながら、コウらに対してぼそりと言った。

 黒の一号がこの世界に誕生した後、彼の為した事は、メディアや国家によって全てが功績から悪の所業に堕された。

「ラボを壊滅させた事や、装殻を開発した事、米国侵攻を防衛した事……それらは全て、ハジメを筆頭とした【黒の装殻シェルベイル】の功績だ」

 『ラボ』を作り、コアを開発したのは黒の一号。

 しかし『ラボ』が寄生殻パラベラムを生み出して猛威を振るい始めたのは、『ラボ』でハジメの副官だったドクター・ゲイルがハジメの開発した技術を悪用しようと彼を嵌め、組織から放逐した後の事。

 外宇宙生物が現れたのは、装殻開発によって霊子力利用量が増大したから。

 だが、黒の一号誕生以前から霊子力増大は始まっており、大阪隕石墜落を予見して準備を進め、撃退までの間、戦線を支えたのはハジメと【黒の装殻】だ。

 その後の装殻開発と拡販は、米国との争いを呼び込んだと言われた。

 だが、外宇宙生物が関西地区をほぼ壊滅状態に追い込み、相次いだ北海道の独立と沖縄の離反により疲弊した日本本土を支える為には、必要な決断だったのだ。

 米国、そして企業国家『トリプルクローバー』によって行われた日本侵攻については、四国二県をそれぞれの国家に奪われるという結果に終わったが。

 それは米国本陣を【黒の装殻】が強襲している間に日本政府がそれぞれと停戦協約を結んだ為であり、奪還出来なかったのはハジメらの責任ではない。

「それぞれに全てが必要な事で、その時の最善を、本条は選び続けた」

 おやっさんの語る真実に、花立が言葉を加える。

「だからこそ、【黒の兵士】は本条に従い続ける。例え国際指名手配犯であろうと、奴の人となりを、その成し遂げた事を肌で知る者達は、奴を見捨てはしない」

「あの人が自身の信念を見失わない限り、俺たちはあの人の騙る正義の使徒で在り続ける」

 傍に来たジンが言い、コウを含む五人は未だ戦い続ける黒の一号に目を向けた。

 黒の一号は、強化形態を解除しており、おそらくは基本形態よりも前の状態、素体の姿でアンティノラⅦと対峙していた。

 彼らの周囲の空間が揺らいでいる。

「あれは……?」

「見た事ないね」

 その現象に訝し気な声を上げるコウとアイリに、ジンは言った。

重力場形成(グラビティ・バインド)。―――ハジメさんの切り札だ。あの空間の中じゃ、誰も動けない。ハジメさん自身も、な」

 重力場、という事は、あの中では通常よりも高い加重が二人に掛かっているのだろう。

 お互いに立っているのもやっとのようで、見合ったまま動きを見せない。

「お互いに動けない?」

「なんでそんな……?」

 コウらの問い掛けに、ジンが笑う。

「お前らさ、ハジメさんを無敵の装殻者だとでも思ってるのか?」

 コウとアイリは、ジンの物言いにぽかんとした。

 そう、思っていた。

 目を見交わすと、アイリも同じように思っていたらしい。

 実際に黒の一号がアンティノラⅦらに苦戦していたのを見たが、それは出力を制限し、かつコウ達が人質に取られていたからだ。

 その後は、逃げられはしたものの、アンティノラ達を圧倒して―――。


 しかしコウの勘違いを、ジンはあっさり否定する。


「本条は最初の装殻者だ。幾ら人体改造型でも、何も無しならオーバードライブしたマサトに勝てない。奴の基本性能は、その程度でしかない」

 花立の言葉に、おやっさんが頷く。

「あいつの装殻にはな、容量(メモリ)がねぇ。反応機動(アップライド)も出来なけりゃ、外付けの追加装殻も使えるのはたった一つ、巨殻ギガンテスだけだ。それを状況に応じて部分装殻する事で、基本性能の低さを補ってる」

 ジンは、おやっさんの言葉に肩を竦めた。

「それもあまりに追加装殻し過ぎると、すぐに熱暴走(オーバーヒート)だ。さっきも見ただろ? あの冷却剤の吹き出し方。巨殻形態(フルメタルジャケット)は戦闘機動を行うだけで、すぐに活動限界を迎える。短期決戦以外の選択肢が、あの人にはない」

 さらに、とジンは続けた。

「あの人は、基本形態(ブレイクスタイル)でも追加武装を纏ってるだろ? だが、あの追加武装は強化用じゃない。……ハジメさんはあれがないと、そもそも動けないんだ」

 重すぎてな、と、ジンはそう言った。

「重い?」

 アイリの問いかけに、花立が頷く。

「そう。大阪隕石から現れた外宇宙生物、『襲来体イミテイト』事件の時点で既に、本条は敵と渡り合うには装殻性能が低すぎた。だからあの事件の時、本条はアンティノラⅦのように自分の体を再改造したんだ。黒の弐号の手を借りてな」

 そこで、膠着していた黒の一号達の戦況が動いた。

「自分の体にある重力場形成核(グラビティコア)の出力に耐えうるよう、装殻そのものを耐超圧物質(ダークマター)に変換した」

 アンティノラと黒の一号、二人を包む重力場の中で、ゆらり、と地面から粉塵が浮き上がり、黒の一号に引き寄せられていく。

終焉(フィナーレ)だ。よく見とけよ」

 ジンが親指を二人の方に向けた。


「あの人は無敵じゃねぇが、それでも間違いなく最強だよ。……揺るがない心を持った、俺たち【黒の装殻(シェルベイル)】の筆頭だ」


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